第28話 ウェアウルフ-1-
まずは例の集落の状態を確認する為、ココから近くの森の地図を受け取った。
ココと親しかったウェアウルフの特徴は、眉間に傷があるらしい。
それを踏まえて――レイライムズ近くの森。
木の生い茂りはかなりのもので、日光はほぼ陰っていてかなり暗い。
日が完全に落ちる前には情報収集を終わらせる事を決め、茅峨と朋斗は獣道を進んでいた。
「なぁおまえってこの辺の奴じゃないんだな。名前的に」
朋斗という名の少年も、ニュアンスからして地方出身なのかな? と茅峨は思う。
そして小さな狐の妖怪は鳴き声がリィなのでそのままリィという名前だそうだ。
「うん、俺だいぶ東の方から来たんだ」
「そうなの? 俺もそっちの方から来て、今は色んな土地ウロウロしてんだよ……つかこういったらなんだけどおまえ、ちょっと名前珍しいよな」
やはり名としては変わり種らしい。
名前の書き方を砂地に木の枝で書いて見せると、朋斗は「おまえのその見た目で文字イカツ……いやまぁ、うん」と濁していた。
朋斗はかなり前から独りで冒険者をしているらしく、紫の目はその過程で後天的にそうなったのだとか。
茅峨が綺麗な色だねえと言うと、逆に朋斗からは
「俺はおまえの青い髪が地毛ってのに驚いたわ」
と返ってきた。
「茅峨ってさぁ歳いくつ?」
「十五になったよ」
「えっタメじゃん。童顔だし年下かと思った」
「同い年……?」
なんなら茅峨は身長も少し小さいので、同世代より下に見られても仕方がないかもしれない。
が、初めて会う同い年の冒険者でしかも経験豊富そうな朋斗に、茅峨は色々聞きたいな、とソワソワと浮ついた。
「なんでちょっと嬉しそうなんだよおまえ……まぁいいけど」
「ね、朋斗はギルドのランクどのくらい?」
「俺? あー、EX」
「いーえっく…… EX!!!???」
茅峨は仰け反ったしその声に小狐は朋斗の肩でぴょんと跳ねた。もし口からの声量が文字で分かるならば、茅峨はクソデカ特大文字で驚いていたことだろう。
因みにギルドのランクはFから始まり、Aの上がS、SS、EXとなる。
「な、え、同い年でそんなに……!? 巨大牛魔の軍団とか倒した……!?」
「いや……あのランク付けって色んなタイプの実績があるみたいだからさ」
そう言って朋斗は肩をすくめる。
「たまたま俺、めっちゃ悪いことして暴れてた知性型魔物を倒したんだよな。あれでポイント入りすぎた。あとは雑魚でも討伐数多いから勝手にランク上がって……マジであんま大したことしてねえから、ランクのことは忘れていいぜ」
謙遜かどうかは分からないが、朋斗本人曰く頭でっかちなランクらしい。
それでもなにかしらの功績があるからそのランクなのでは……と茅峨は思うのだが。
森の奥へ進んで行くと、地図通りの位置に木造りの家のようなものが見えてきた。
家といっても木の板を適宜組み立てて雨風を凌げるくらいの簡素なものだ。
「集落まで来られたね」
「ここまでは変わったとこはねーけど……」
しかし集落全貌が見えると、その光景に二人は思わず息を呑んだ。
とても小さい集落だが木々の家は半棟以上が薙ぎ倒され、薪置き場だったと思われる場所や石造りの井戸なども破壊されている。
「め、めちゃくちゃ荒れてる……!」
「……だな」
茅峨と朋斗はそれぞれ各所を見て回る。
目立つのは大きな爪痕。そして何かが大きくぶつかり、崩壊したような潰れ方。
「なんの爪痕だろう……けど血の痕は少ないような。落ちてる毛はウェアウルフの……?」
所々に血痕があるがどれも致命傷な量ではない。むしろ少なく、何かと戦ったにしては微妙だ。
茅峨は風と呼応してみたが、風向きは北のこちらから南のレイライムズへ流れており、その向きに対しての空気の違和感は特にない。
「……北からの風は普通……ということは、逆の方向に何かある、かも……?」
そう考えながら朋斗が探っている場所へと向かう。
「朋斗、どうだった?」
「あぁ、これ鶏肉干してあるヤツだけど被害がない。食い物を狙った何かじゃなさそうだな……そもそもこれって何かが襲ってきたのか?」
現状を見ながら頭を捻る朋斗のところに、集落を見回っていた小狐が戻ってきた。
「どうだ、リィ」
朋斗はしゃがみ込み、リィリィとその場で鳴いた小狐の頭を撫でる。
「サンキュ。どうもここ一帯ウェアウルフ以外の匂いは無いってよ」
「えっ、それなら残ってる爪痕もウェアウルフってことになるね……」
「あぁ。じゃあこの惨状はなんなんだ。身内で喧嘩でもしたか?」
首を傾げる。
「別のウェアウルフが来て縄張り争いしたとか?」
「無きにしも非ずって感じだけど、じゃあなんで今ここには誰もいないんだ……」
魔獣の毛や血痕は少しあるが、怪我をしているものや屍体もない。
「身内で……」
茅峨はもう一度崩壊している住処だったものを見る。
このぶつかって崩れたような壊れ方。まるで頭突きや体当たりをしたような。しかし集落全体が意図的に壊された、というよりも……
「壊そうとしたんじゃないくて、暴れた……?」
「? どういうことだよ」
「例えば、お腹が痛いとか体がしんどい時ってその場で暴れない?」
茅峨の言葉に朋斗は怪訝な顔をする。
「いや暴れねーよ……え? おまえ意外とそうなの? つらくて動けねぇとか疼くまったりとかじゃなく?」
「俺は暴れないけど、俺の村だと結構そういう人がいたからよくあるのかなって……お酒切らした時とか」
「どんな村の人だよ。それは普通にアル中……いや、でも」
変なものを食べて暴れるのはあるかもしれない。
「ただ全員行方くらませてるのがなんともな……んーけどの荒れ方は雑だし壊れてない部分もあるし、暴れたのは不本意だったってのはもしかしたら合ってるかもな……?」
悩みながら朋斗は再び集落をウロウロと歩き出したが、ふと茅峨は何かの気配を感じる。
「……?」
この辺りじゃない、もっと……見上げた先。
木々の上、枝と雲の間の空。
――白い何かが浮いている。
「……え?」
あれは見たことがある。知っている。小さな人型の薄い紙。
「未族の、式神……?」
その式神はこちらに気付いているのかいないのか、数秒後には木々に隠れて見えなくなってしまった。
「なんであれがこんなところに……もし主麗なら俺に用だった……?」
だがあの主麗の振る舞いを考えれば、用があるならすぐに接触してきそうだ。
用がなくとも監視や観察の場合もある。
(確か最初の時も式神で後を付けてたし……)
たった今も見られている可能性があると思うといい気分ではないが、空に浮かぶ式神はなんというか、こちら側を視ている感じではなかった。紙の向きが茅峨ではなかったと思う。
……なら、空の式神は主麗とは別のモノなのだろうか。
(そういえばなんか未族の地に近づけばどうとか言ってたっけ……俺を迎えに行けるとか侵略派が捕えようとする、とか……)
「おい茅峨」
頭の中で悶々と巡らせていた茅峨はハッと顔を上げる。
少し離れたところから朋斗が呼びかけていた。
「こっち来てみろ。沢がある」
「う、うん!」
……あの式神について考えても今は分からない。
一旦保留にして朋斗に着いて行くと、集落の茂みの奥に水源があった。




