第27話 邂逅-3-
急になんだろうかと茅峨と亜麻色の髪の少年は首を傾げる。
「さ、さっき引ったくりを捕まえるフォローしてたり、ギルドのこともお話しされてたので、そうかなと……」
目を伏せがちにややしどろもどろの女性。
どこか焦っているようにも見えた。
「あぁ……まぁギルドには登録してるけど……」
少年の言葉に茅峨も頷く。
「なんで俺ら?」
「えぇっと、お二人はパーティを組んでおられますよね……?」
「さっき会ったばっかりだけど……」
茅峨がそう言うと、女性は「えっ」と顔を上げる。
「そっそうでしたか!? すみません……! 仲良さそうにお話しされていたので……」
仲良さそう? と少年と茅峨は顔を見合わせる。
茅峨は今まで仲良しどころか同じ目線で話せる人も居なかったので、誤解だとしてもちょっと照れた。
「あのっ不躾で申し訳ないのですが相談といいますか、依頼……をさせて頂きたいのですが……」
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街路樹が均等に立ち並ぶ並木道。木々の下には各所にベンチが置かれていて誰でも腰掛けられるようになっている。
場所を移動した茅峨と少年は、その眼鏡の女性と共にベンチに座りひとまず話を聞くことにした。
「わたしはこの街の出身で、ココといいます。依頼というのは行方不明になった魔獣を探してほしいのです……」
「魔獣……」
モンスターの中でも風貌がより獣に近く、また僅かにも知性が有り人間とコミュニケーションを持ちやすいものがそう呼ばれる。
ただコミュニケーションがとれたとしてもモンスターには変わりなく、人間を襲う事もままある。
「種類は?」
「ウェ、ウェアウルフです。レイライムズのすぐ近くの森が住処になっています」
ウェアウルフというのは確か狼男のようなモンスターだったっけ……と茅峨は考える。
「えっと、街のすぐ近くに魔獣が住んでるって危なくないのかな……?」
「ま、街はぐるりと壁で囲まれてますし……それにウェアウルフは古くからその森に居て、この街が小さな土地だった時から襲ってきたことはないと聞いています。街の人達もそれは周知で」
ふうん、と少年は意外そうな顔をする。
「魔獣って凶暴なイメージあるけどな」
「で、ですよね……実はわたし幼い頃森で迷ったことがあって、その時ウェアウルフに助けて貰ったんです。それから仲良くなって、何度か逢ってて……これまでに傷付けられたことなんかありません」
「じゃあ、そのココさんが仲良くしてたウェアウルフが行方不明ってことですか?」
「は、はい。この間森に入ったらいつも待ち合わせしている場所に居なくて。それどころかみんなの集落にも探しに行ったら誰も居なかったんです……」
ココは落ち込んでいるが茅峨と少年は目を丸くした。
「ウェ、ウェアウルフの集落に女の人たった一人で?」
「は、はい、よく行ってたので……みんな優しいですよ」
「プリンセスかよ……つかみんな居なくなってるって住処の引っ越しとかじゃねえの?」
そう言うと女性は被りを振って否定した。
「集落の状態は引っ越ししたという感じじゃなかったんです。それになにかに襲われたみたいな爪痕や牙の跡があって……! わ、わたしびっくりして」
ココは状況を思い出したようでどんどん顔色が青ざめてくる。
「あの子になにかあったんじゃないかと思うと……!」
モンスターを探す依頼。聞いただけでもあまり穏便には済まさそうだが……
「無茶を言ってるのは承知です、お金は勿論きちんとお支払いします……!」
頭を下げるココに、茅峨はずっと気になっていたことを口にした。
「……あの、もしかしてココさんて、さっきあのディスプレイに出てた人、ですよね? アイドルのココルさん……だっけ」
「「え?」」
ココも亜麻色髪の少年も驚いたように茅峨を見る。
「……マジか。眼鏡だし服も地味だし分かんなかった」
確かに眼鏡の奥をよく見るととても美人である。
それで少年も「あぁ」と何故か合点がいったように頭を掻いた。
「なるほどな。基本討伐なり捕獲なりのギルドに仲の良い魔獣捜索依頼なんて頼めないのは分かるけど……なんで俺らみたいなあんたよりも年下で、そんなに力も無さそうなヤツに頼むんだって思ってた」
ココは自分のことが知られてアワアワとしているが、茅峨は名指しをしたというのに逆に少年の言う事が飲み込めていなかった。
「へ、なんで俺たちなの?」
「そりゃおまえ、人数の多いパーティとか大人の男に頼むってリスクあるじゃん。アイドルってバレた時もだし、捜索のお願いなのにセコい奴がポイント稼ぎで“うっかり”討伐しちまったら元も子もねえし」
少年の言葉にココは小さくもこくこくと頷いた。
「すっすみません、決してお二人を軽んじたわけではなく……本名は本当にココと言いまして……!」
顔を伏せて申し訳なさそうに謝っている。
ディスプレイの中でMCをしていた彼女を茅峨は見ているが、笑顔がキラキラと明るく堂々としていたので、そんなに腰を低くしなくてもいいのになぁと思う。
が、挙動が覚束ないほどそのウェアウルフが心配なのだろう。
「んー……魔獣捜索なぁ」
話は大体聞き終わったが、少年は肩に乗る小狐の妖怪と顔を見合わせ、あまり乗り気じゃなさそうだ。
その様子にココは視線を落としてしまう。
「や、やっぱり厳しいですよね……」
「……俺、受けます」
茅峨は穏やかながらも言い切った。
「ほっ……本当ですか!?」
色々経験を積め、みたいな事を嘉神も言っていた気がするし。いや色々行ってみろだったか……
なにより、目の前の人が困っているのに放っておくのは茅峨の性分として無理だった。
それに無策でもなく、風や空気の流れを辿れば居場所が掴めるのでは? という手堅さもある。
「おまえ……大丈夫なのか?」
少年がこそりと耳打ちしてきた。
「一応聞くけどおまえもギルド登録してんだよな? ランクは?」
ココに聞こえないよう小声だったので、茅峨も同じトーンで返す。
「えと、俺初心者で登録したばっかりだからランクはFなんだ」
「マジか……実践は?」
「……に、二回かな」
はは……という感じで茅峨が苦笑したので、少年は半ば驚きと呆れみたいな表情になってしまった。
「あのな、集落の魔獣が他の奴と争ったっぽい事情もあんだぞ?」
「あ」
それは失念していた。もし何者かとの戦いになったらいけるか……どうだろうか。風はいけるいけると言っているが、本当に?
虚空へ何故か顔を向ける茅峨の横で、亜麻色髪の少年は溜め息を吐く。
「俺も付き合うわ……」
片手を額に触れて若干頭を抱えているが、少年も承諾してくれた。ココがパッと顔を上げる。
「いっいいんですか!? お二人ともありがとうございます……!!」
手指を前で組んでとても嬉しそうに半ば涙ながらに礼を言うココを見て、茅峨は「わ、かわいいな、アイドルってすごい」と思ったし、少年は渋めのなんとも言えない顔をしていた。
茅峨と少年は簡単に名前の自己紹介をする。
亜麻色の髪の少年は朋斗と名乗った。
「茅峨さんと朋斗さんですね……! あの、言いそびれてましたがこちら依頼の報酬額です! どうぞ、よろしくお願いします……!!」
ココは小さな羊皮紙を茅峨に渡し、深々と頭を下げる。
茅峨と、朋斗と名乗った少年は二人でその紙を覗き込む。
依頼内容と依頼完了後全額報酬払いの旨、そして報酬金額の提示……
「「…………」」
その金額を見て、今度は茅峨と少年二人して「アイドルってすごい」、と思った。




