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第26話 邂逅-2-


 ……すぐ人の顔色を見て体が動いてしまうのはもう染みついたくせだろうなぁと走りながら茅峨は苦笑する。


 それに昔から、手伝いや作業が遅ければ文句を言われるので時間との勝負、みたいな事もあったおかげで、走るのもは同年代と比べたら速いと思う。


 空気の流れ、罪悪の震え、そういうのも昔から感じられていたが、異能(スフィア)を実感してからはより機微が分かるようになった気がする。

 ――なので。


「いた!」


 黒いフードが見える。広場から遠く離れ、それでも街中故に人は多い。そして人に紛れるように男はフードを取ってしまった。

(大丈夫、あの頭だってわかる。でも……)


 走るのは速くても簡素な村の出身に、人混みを縫うのは難しい。

「どっどうしよう……!」

 風のスフィアを使うにしても一人だけ浮かせてどこかへ追いやって捕まえる、などと器用なことは出来ない。


 ともかく対象に近づこうとしていると、その男の頭にドカッと何かが乗っかった。赤毛の小動物のような何かだ。

「え……っ!?」

 茅峨は驚く。


「すいませんー! その頭にペットが乗っかってる男、泥棒ー、引ったくり! 捕まえてくれませんかー!」

 茅峨の後ろからの声に人混みは一瞬ざわついて、頭の上に動物が乗って右往左往している男に目をやる。

「……おいオマエか!」

「チッ!」

 近くの男達が男の腕を取るが、男は手慣れたように腕を振り払ってしまう。

(い、今ならいけるかも!)

 周囲の人がばらけ男の全身が目視出来る。近くには男を捕らえようとしてくれている数人の人達のみ。

「強すぎないように……っ!」


 茅峨が呼応すると薄い風の渦が舞ってひったくりの男の背に直撃する。

「なっなんだ!?」

 そのまま男は勢いよく押され、一番近くの屈強な市民の男の胸に飛び込んでいった。


 


 ――どうやらフードの男は、アイドルのライブで集まっていた多くの民衆の隙に、あのふくよかな男の持ち物以外にも複数スリを働いていたらしい。


 ふくよかな彼も騒ぎで場所が分かり追いついてくる。

 盗品は街の人達の手によって取り戻され、警士も呼ばれていよいよスリの男は捕獲された。

「クソッ上手くいってたのにあの変な動物が……! つかなんか誰も居ないのに後ろから押されたんだよ! なんなんだよこええよ!」



「よお」

 事態の収束をやや離れたところから見ていた茅峨は不意に声をかけられる。

 振り向くと先程の冒険者風の少年が立っていて、ひったくり犯の頭に飛び乗っていたペット……? が、いつの間にか少年の肩にちょこんと乗っていた。


「びびったわ、おまえすぐ走り出すからさ。よく見つけられたな」

「う、うん。でもその子? が、あの人の頭に乗ってくれたから……君も追いかけてきてくれたんだね」

 嬉しく思って笑顔になると、まーね、と少年はそつなく答える。


 パン屋の時から居るのは目にしていたが、初めて少年の顔立ちを真向かいで見る。

 茅峨よりやや背が高く、亜麻色の髪に特徴的な淡い紫の目をしていた。

(紫の目って珍しい、かも……どこの地域なんだろ)


「んーやっぱあのひったくりの奴、ギルドのお尋ね者だぜ」

「え?」

「手配書で顔見たことある。色んなレイドのチームに入って皆が魔物討伐してる間に金目のもの盗んでくとかなんとか」

「えぇ……めちゃくちゃ嫌なことしてる……」

 警士の馬車で連行される男を遠目に、茅峨は苦い顔をした。


「こういう街でもちょこちょこスッてたんだろうな。ギルド関係なくてもああいう小悪党時々いるし、おまえも気をつけろよ」

「わ、わかった……あのさ」

 ギルドの話といい少年の装備といい、きっと茅峨より経験のある冒険者なのだろう。腰に剣を二本携えている。


 それもかっこいいなと思うのだが、それよりも茅峨は気になる事があった。


「その子って、もしかして魔物……?」


 赤毛……赤に近い橙色の毛並みの小動物。

 狐に近いような見た目で、尻尾が大きくもふもふとしている。


「あぁこいつな。ペットって言ったけどほんとは違くて……まぁ、使い魔みたいな」

「使い魔? 君、術師や魔獣使いなの……!?」

「いや俺のってワケでもなくて。ちょっと事情があって一緒に居るんだよ」

「そうなんだ……」


 もし込み入った事情があるなら掘り下げるのも良くないかなと、茅峨はそれ以上は聞かなかった。

 ただ使い魔のもふもふが凄く、とっても気になる。


「狐みたいに見えるけど……」

「合ってるよ。狐の妖怪」

「よっ……妖怪」


 読んだことのある本で少し出てきた気がするが、あまり記述はなかったはずだ。

 魔物のように誕生そのものがモンスターではなく、生き物や物質が経年変化したモノだったような……


「あ、あの、もし大丈夫なら、触っても……いい……?」

 今までならこんなことは絶対茅峨は言わなかったのだが、とにかくもふもふの触り心地が気になる。気になりすぎる。

「おー全然……あれ」


 その小さな狐の妖怪は少年の首後ろに回ってしまい、顔だけを茅峨の方に向けて威嚇している。どうやらお触り禁止なようだ。


「う、ダメみたい……」

「変だなー、いつもは人に触られるのとか別に気にしねえのに」


 茅峨がしょんぼりしていると、ふと小狐の周りにブワリと風が舞う。

 びっくりした狐が地面に降りても風は抗議するように舞っており、狐は前足で払おうとしたり尻尾を回したりクルクルと風に立ち向かっている。


「こ、こいつ、急に風と戦いだした……」

 もしこれを嘉神が見ていたら、嘉神視点では風は茅峨に懐いているので「茅峨を悲しませるな、と言っているのでは……?」などと一人で考えていたかもしれない。


「悪い、時間取らせたな。俺はそろそろ行くわ」

「う、うん。助けてくれてありがとう。俺だけじゃさっきの人捕まえられなかった」


 そう茅峨が言うと、少年は礼を言われ慣れてないのか少し困ったように笑った。

「いやお互い様っつーか。おまえが先に走っていったから、こいつがおまえのパンの匂い辿って追いつけたんだよな」

 小さな狐がリィ、と鳴いた。



「……あっあの! すみません!」


 唐突に見知らぬ人から声が掛かる。


「……え?」

「すっ少しお話いいですか……!? お二人とも、ギルドに登録されてる方ですよね……?」


 茅峨と少年を不意に呼び止めたのは、眼鏡を掛けた綺麗な女性だった。





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