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第25話 邂逅-1-




 ――数日前、街の近くの森。


 木漏れ日の中、可愛らしい女性が獣の毛並みを櫛で梳いている。成人した顔立ちのようで少女のようなあどけなさも合わせた表情、とても幸せそうだ。


「ほら、ふわふわになった。ねぇわたし、また暫くしたらこっちに来れるの。だからすぐ会えるわ」


 そう言うと獣は嬉しそうに、穏やかに鼻筋で女性の髪に触れる。


 ――獣は、人のように切り株に腰掛けていた。


 力強い足に逞しくも人に近い腕、鋭く光る目に牙を持つ大きく裂けた口、全身が赤紫の毛で――女性のおかげでふわふわになった毛で覆われ、頭部は狼。

 ――魔獣、ウェアウルフだ。


「え、くれるの……?」

 魔獣は女性に小さな花束を差し出す。いくつもの種類が丁寧に纏められた花束。


「嬉しい! ねぇもしかして、前に遠くから見えた花畑に行ったの? いいな、今度わたしも一緒に行きたい!」

 ぎゅ、とウェアウルフの上半身に飛びつくと、ウェアウルフは切り株から立ち上がり女性を傷付けないように優しく抱きしめた。



.

.

.

.




 パン屋の屋根の上。

 よく晴れた青空に、濃い青い髪が映えている。


 昨晩馬車で辿り着いた、レイライムズという名の街。

 着いて早々宿を取った茅峨と嘉神は乗り物の疲れもあり、すぐに眠ってしまった。

 なので今回も茅峨は嘉神の身支度姿と素顔を見逃した。


「屋根、補強出来ました!」

 次の日茅峨はギルドのクエスト……の中に混じっていた街からの依頼を請け負っていた。


 ギルドシステムが元々地域密着の酒場から発祥している為、各所によっては冒険と関係のない民間人の依頼も多数ある。

 試しに引き受けてみたらどうだと嘉神が言うので、茅峨は目に着いたものをいくつか受注してみた。

 そんなに数をこなせるのかと問われたが、依頼の詳細としては全てが急ぎでもないし、どれも村で普段からやっていたことなので大丈夫、と茅峨は笑う。


 嘉神はどうやら別の仕事があるらしく、ギルド内で解散して今に至る。


「こんなに丁寧にやってくれたのかい、ありがとねぇ」

「材料をたくさん用意してもらってたので……」

 屋根の上で確認しながら、パン屋の女将は感心している。

「助かったよ、確かお昼まだだったろ? ウチの人気のパンいっぱい用意してるから下で食べていきな! 自家製のスムージーも付けとくからね!」

「わ、ありがとうございます……!」


 茅峨は朝から各所を周り、一般家庭の買い出しに壊れた水道管の修繕、自治会長宅のガレージ建て直しの資材集め、家財道具のリメイクなんかも仕上げた。

 しかもレイライムズの街が前回の街よりも広く、西へ東へと歩き回ったのでお腹はとても空いている。

 これくらい働いても村では食べられない日もあり、そんな茅峨にアスハがこっそり食事を用意してくれたこともあった。


「焼きたてのパンこんなに盛ってくれちゃった……屋根の上でも香ってたけど、すごくいい匂い」


 パン屋の店内、イートインのスペースで茅峨はバスケットに盛られた惣菜パンの包みを開けひとつ頬張った。

 外はややハード、中はふっくらの麦芽パンに挟まれたスモークチキンとオニオンにレタス、オリジナルのソースが甘辛く、とても美味しい。


 昼食のピークはそこそこ過ぎているが、スペースには茅峨の他に親子連れや老人達が談笑していたり、冒険者風の少年が独りで軽食をとっている。

 茅峨のバスケットのパンがてんこ盛りだったので、その少年はパンの量を二度見していた。


 窓際の席に座っていた茅峨は食べながら窓の外を見上げる。


 このパン屋は街の中心に近く、窓からは広場……沢山の人が集まっている……と、この街ならではという、映像を放送する巨大なディスプレイがよく見えた。


 この街の中心部の大きな広場、その頭上高くに備え付けられている超巨大ディスプレイ。昨夜それを見た時茅峨は、明るい画面に人が映りそれが動いていて驚いたものだ。


 四角い長方形の板に動く映像。

 街の人の話では、その画面で王都で行われるスポーツを観戦をしたり、報道が流れたり、一般用に配信される芸能のライブなどが見られるという。


 今日の午後にもどうやら「あいどるが歌う」予定らしい。

 その話を聞いて茅峨はあいどるとは何かと訊き、「アイドルを知らないのか……」と嘉神は固まっていた。



「ほら見て、ココルちゃん出てきたよ」

 親子連れの母親が窓から見える大きなディスプレイを指さし、子どもも興味津々といった風だ。


 窓越しでも映像の音は僅かに伝わってきて、広場に集まる人々の歓声も聞こえる。

 茅峨もよく見てみると、可愛らしい女の人が画面の中から笑顔でこちらに手を振っていた。


「あいどるかぁ……」

 集まる人々や周囲の様子から、ココルという名のアイドルはかなり人気があるらしい。


 茅峨はそんな景色を見ながら作りたてのパンもフルーツのミルクスムージーも丁寧に完食し、パン屋の女将に食事の礼を告げて店を出る。


 さて、引き受けた仕事の数で今日一日掛かるかと思っていたが、存外昼半ばで全て終わってしまった。


「夕方からはどうしようかな。嘉神はどこに行ったんだろ」

 少し気になるが恐らく風に聞けば嘉神の居場所は伝達してくれるだろう。


 ギルドにもう一度顔を出そうかと思ったが、広場のすぐ近くにある為人だかりで行きにくそうだなあ、などと茅峨が考えていた時……


「ん?」


 広場からこちらへ、フードを被った男がバタバタと目の前を走り抜ける。


「うおっ!」

 先程イートインに居た冒険者風の少年、茅峨より先にパン屋を出ていたようだが、男はその彼にぶつかりそのまま無言で走り去っていく。


「危ねぇー、なんだアイツ」

 と、少年が呟くと男が来た方向から息も絶え絶えに走って来る別のふくよかな男。

「フゥ、フゥッだ、誰か……! そのおッ……つぁ……! フゥ」

 体が重そうでこれ以上走るのは厳しい感じである。そして何か言っているがよく分からない。

「なにって?」

「だ、大丈夫ですか?」

 茅峨と少年の前でふくよかな男が膝をついたので、茅峨は思わず駆け寄り少年はやや困惑気味に首を傾げる。


「フゥ、あ、あの……!! 今走っていった、黒い、フードの……!!」

 ――あ、これは何か盗られたかスられたかな、と男の表情で茅峨は察し、顔を上げる。


「分かりました……!」


 一目だけだがフードの男の特徴は分かる。

 すぐに茅峨は駆け出して、その後ろから少年は「いやもう見えなくね……?」と目を丸くしていた。





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