第24話 ここにいる理由
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来たばかりの頃、問答無用でこの国の王という者に対峙させられた。
自分の置かれた状態に自分でさえまだ咀嚼出来ていなかったが、兎に角一から十まで説明した。
「監査官の報告と相違ないな。……さて、貴公が話した事柄全てが真実だという証明は出来るのか?」
王にそう問われて俺はこの場で存在しないと言われているもの……出会った時のロアンに、「それは有り得ない」と言われた“魔法”を見せた。
詠唱無し、動作も無し、仕込みをする時間も無しで、一瞬の鋭い縦揺れと共に、謁見室を丸呑みにする光の柱を落とした。
「アンデッドの魔物なら即時消し飛ぶのだが……分かりにくいか。派手に攻撃する魔法の方が認識し易かっただろうか? だが俺は人を殺める趣味はないのでな。この部屋を水浸しにするとか、そういった類ではどうか?」
一応発動した魔法に言い訳をしてみたが、王や傍らの宰相は何故か納得したようだった。
曰く、先の戦争で魔法やそれに連鎖する事象を見たことがあるらしい。俺の存在も不思議と認知された。
「――だが貴公がもしその力で暗躍しうる者と見做せば、即刻首を刎ねる。心せよ」
王の目を見れば分かる。単純な脅しではない。
今日玉座に座っていて、かつて戦争があった……つまりこの男はそれなりの立役者だったのではないか。人の死を手に取った経験がある目をしている。
「心得はするが王とやら、もし俺が暗躍しにここへ来たのならまず貴殿など会話せずとも殺している。こちらの情報を聞き出してから嘯く前に、自分の身を直に謁見で晒す愚かさを見直してはどうだ?」
今思い返せば我ながら失礼な言動極まりなかった。周りの宮廷騎士なんかの殺気も凄かった。
だがそんな言葉に王は固まっていて、傍聴していた宰相は「王、言われてますよ」と軽口のように言ったのだ。
そうしている内に王は己の膝を叩いて笑い出した。
「……いや謁見室で直接権力者を仕留めようとかいう草や殺し屋なんて、根性どうなってんの? って感じだろ。刺し違える気でそこまで踏み込まれるならば仕方がないというもの。無論こちらも対策はしているが」
王は感想を漏らしつつひとしきり笑い、不思議と俺に好感のある表情を見せた。
「それに一応、対面より毒を盛るだとかそういうのがセオリーなんだよこっちでは。だもんで、今の啖呵含めアンタが愚直に話してくれたのも考慮して、先述の通り俺と宰相は貴公の状況を請け負った。規格外の始末をそっちで付けてくれるだけでも有り難いからな」
こちらが素なのだろう。最初の態度や風貌で正確に認識出来ていなかったが、この王は想像以上に歳若いらしい。
あとで宰相に聞いた話じゃ、外交でも民でもない『全くクレオリアと関係が無い』と俺の事を判断した故に、口調を和らげたのだとか。
和らげたというか、ちょっとした知り合いくらいの砕けっぷりな気がしたが。
俺としては冷静でいたつもりだが、王や官僚に認知されて住まいを貰い暫く経っても、己の言動や顔付きに棘があったのは否めない。
やはり全ての繋がりが断たれている状態は無意識にでも堪えていたのだろう。
そんな折にまだ幼かったリディアから受け取ったぬいぐるみは今も宮廷内の自室に置いてある。
あれの効果があったかは自分でも分からないが、あのぬいぐるみのどこを見ているのか定かではない視線が、俺に焦っていても仕方がないと思わせたのかもしれない。
「はぁ……」
「茅峨? どうかしたのか」
「なっなんでもない!」
次の街へと向かう道中の馬車内。茅峨は小さく溜め息を吐いていた。
(嘉神の素顔見られなかった……)
昨夜の宿、確かに嘉神と同室だったのだが嘉神は茅峨の後にシャワーを浴びていて、その間に茅峨は寝落ちしており、今朝は嘉神の方が早く起きていた為嘉神の身支度姿を一切見ていない。
(嘉神って睡眠短いんだなぁ……)
かくいう茅峨は大火事以来、以前よりも長く寝るようになった気がする。そして不安もある。
(セレキって確か俺の寝てる時に出てこれたりするって言ってたよね。うぅ……大丈夫なのかな)
今のところ嘉神からセレキが出てきたなどという報告は言われていないので問題ないとは思うが、いつまた取って代わられるか怪しい。
昨日の遺跡の時ははっきりと自分の中でセレキの声が聞こえたし、存在は揺らがずに有るようだ。
「移動で疲れたんじゃないか? ギルドに顔を出すのは明日にして街に着いたら休息を取るか」
今日は何回か馬車の乗り継ぎをしての一日中移動であった。もう日もとっぷりと暮れている。
「……」
茅峨は少し言葉に戸惑った。
愛想はない嘉神だが、自然と気遣うことを口にしてくれる。
「……俺は全然大丈夫だよ。体力はある方だと思うし!」
にこりと笑う。
実際ずっとあくせく雑用をこなし一日中働いていた茅峨なので、強がりではない。
「そうか……」
が、何故か嘉神の声のトーンは低い。
「……もしかして、嘉神の方が疲れてる?」
「……そうかもしれない」
態度は普通なのだがどことなくオーラがくたびれている。
「だ、大丈夫……? でも王都からネハラまでも長旅だったと思うけど、始めて会った時って結構嘉神、普通だったよね?」
そう訊ねると、ネハラ村近辺へ行くには馬車しか手段がなかったが、その近くまでは研究所の経費でナントカ……という、凄い動力と術式と半導体を組み合わせためっちゃ速いハンジドウシャ……に乗ってきたと教えてくれた。
ちょっと専門用語が多くて茅峨はよく分からなかったが、馬車の十倍の速さで移動出来るらしい。
「あれは揺れも少なく王都から専用で出ていたので乗り継ぎもなかったんだ。徒歩と馬車ならばこの辺りから王都までは三十日程かかるが、あのクルマだと二、三時間だったな」
「は、速すぎる」
流石に唖然とする。全然旅とかいらない速さだ。
「あれに一般で乗ろうとすると金がとんでもなく掛かる。茅峨も乗せてやれれば話は早かったのだが……セレキは今はどんな感じなんだ」
「う、ううん。確かに今も声、中で時々聞こえるというか、たまに喋ってくるんだけど」
「そうなのか」
「でも今のとこ俺の意識ははっきりしてるし暴れたいとかもなさそうだから……なんとかなってると思うよ」
……ネハラの集落があの後どう対応されたのかは気になるが、先日の街でも特に噂話は聞かなかった。
リディアも何も言っていなかったので、辺境で起こったことが都心の方にまでどの程度の速さで伝わるのか……
そもそも伝わるのかさえ疑問ではある。今までも放置されていた場所なのだから。
嘉神が窓の外を見ると、もう間もなく街に着くといったところだった。
「茅峨、今後のルーティンをもう一度整理しておこう」
「るーてぃん」
単語はわからないがこくりと頷く。
「依頼で得た収入は馬車代で使ったので、次に降りるレイライムズの街ではまたギルドにクエストを受注しに行く。路銀だが、食事や宿泊はもとより、必要なら回復アイテムや治療費なども手持ちに常にあった方がいい」
「うん」
「あとはそのロッド、鍛えると術式記憶や演算値が増すのだが……その要領で茅峨の自然との呼応する道筋も強固になるかもしれない。金銭に余裕があれば研鑽を試すのも手だろう」
嘉神が諸々説明してくれるのを、頷いているのか馬車の揺れなのか茅峨はウンウンと素直に聞いている。
「ギルドの依頼は都度受けて稼ぐ方がいい。基本的には、先日の遺跡のようにダンジョンに潜るものが多いから自分の練度も上がるし、スフィアにも慣れていくはずだ」
街の入り口が見えてくる。日は落ちているが街明かりは大きく、門構えからみてもかなり人口が多そうだ。
「王都までの移動は馬車が早いが……しかし馬車の方が逆に大回りする立地もある。巨大な樹林だとかがそれだな。なので茅峨の好きに移動するといい。ギルドで受注したクエストは他のギルドでも共有されているから、別の街で報酬を受け取ることも可能だ」
「好きに移動……」
自分の行きたいところに行く。
それが可能になる日が来るなんて文字通り想像もしていなかった。
「……うん。村の外の世界、気になる……かも」
最悪そこがもし危険な場所でもそれはそれで……
という考えは、嘉神には言わない方がいいかなと茅峨は思う。
善悪はどうであれ村を焼いた自分は、どこかでなにか間違いでもあってうっかり死んでしまっても、それはやってしまった報い、と考えている。
自己犠牲願望があるわけじゃない。
ただ危険なことにも怖いことにも、驚きはするがその後のことに鈍感なだけ。
けれど自分は力を持っている。
この力がもし誰かを守ったり、救えたりするのなら……それが、こうして生きていて いい 理由に
(……なんていうのは傲慢なの、かも)




