第23話 歓談、授与-2-
※この話は連載の途中です。第1話から読むと流れが分かりやすいです。
そう問われて嘉神は一瞬口を閉ざす。
茅峨との状況が状況なので説明が難しい上、なにより王家の者にネハラ村の大火事の話と茅峨を関連付けて伝えてしまうのは、今後にとっても危うい気がする。
「たまたま仕事先で茅峨に出会ってな。向かう先が私の次の出張先と同じで旅の初心者だというから、付き添っていたまでだ」
嘉神の無難な説明に茅峨はコクコクと頷く。
「ふーんそうなんだ。ね、茅峨はなんで旅してるの? 護身の方法って術だけ? 私も少し術を習ったけどすっごく勉強面倒じゃなかった? どうして術を選んだの? その青い髪とっても綺麗だけどどうやって染めてるの? 青色が好きなの?」
この機会にと恐らくリディアが気になっていて興味があったであろうことを全て訊かれ、質問の数に回り込まれた茅峨は逃げ場もなく焦る。
「え、えぇっと……その……、俺を、育ててくれた人が死んじゃって」
「え?」
「ほ、本当の親がちょっと変わった種族というか……この髪の色もその種族だからみたいで。それで本当の親に会いに行こうと思って旅を始めたんだ」
かなり端折りつつ且つフェイクも含め茅峨は説明したのだが、リディアにしてみれば想像よりも込み入った事情が話されて、彼女は何とも言えない表情になってしまった。
「そ、そう、だったの……」
「……茅峨様申し訳ありません。リディア様はまだ世間知らずでデリカシーが汲み取れないのです……ご容赦ください」
「も、もうシルヴァ! ごめんなさい茅峨、養親様が亡くなっていたなんて」
肩を落として目を伏せるリディアに茅峨は慌てて手を振る。
それに話の深掘りも免れたようでこっそり息を吐いた。
「う、ううん気にしないで。それにデリカシーが全然ない奴を知ってるから大丈夫! あ、あのシルヴァさん、茅峨様呼びはちょっと……」
「リディア様のご友人ですので」
食事はアラカルトで主にリディアが選んだ。茅峨にとっては洒落ていたり名前が分からなかったりと馴染みのないものだったが、どれも美味しいなぁと感じる。
前菜の柔らかな赤い実とチーズのオリーブ漬けにベビーリーフのサラダ、レバーペーストと乾燥した紫の実のブルスケッタに、大ぶりで切り分ける白身魚のムニエル(嘉神が気に入っていた)、挽肉と温野菜のクリームキャセロール。
「あの、全然関係ないんだけど嘉神ってご飯の時でもその黒眼鏡かけてるよね」
「ああ、かけてないと落ち着かん。料理の色味は見えてるので問題ない」
「付けたり外したりするよりはその方がいいかもね」
オレンジ色のムースドルチェを口に運びながらリディアが言う。
「どうして?」
「嘉神、顔がいいもの」
「か、顔」
「嘉神が王宮で生活するようになってから侍女達や城下の女の人達がめちゃくちゃ噂してたの。昔のことだけど、子どもながらに覚えてるわ」
そういえば前に嘉神も言っていた気がする。異性が見てくるから眼鏡をかけとけと言われたとかなんとか。
「……俺が物珍しいのもあったんじゃないか。あの頃はロアンにいい加減にしろとよく言われた」
「ロアンさん?」
「あ、茅峨もロアン知ってるんだ? もー凄かったのよ! 嘉神って国賓だから迂闊に声掛けるどころか近づけもしなかったわけ、前は。だから一目惚れした人なんかが手紙書いてロアンに渡すの。嘉神さんに届けてくださいって。ロアン色々あって嘉神のお目付け役だったから」
「手紙……!? そ、そう言われると眼鏡が無いところ見てみたい、かも……」
「一緒に居るんだからシャワーの前後か寝起きに見たらいいじゃない」
「そ、そっか……! 考えたことなかった……」
「っていうか私としては一緒に居たロアンも大概だと思うのよね。金髪碧眼で綺麗な顔で、周りにもフランクで。でも彼は好意を上手く躱すから……代わりに嘉神に白羽の矢が刺さりまくって、結局ロアン本人が苦労したわけよね」
「ロアンは苦労人なところがあるからな」
「貴方がそれなりに原因なんだけどね……?」
嘉神とリディアのやりとりに茅峨は苦笑しながらも、ロアンがちょっと苦労人なのは何となく感じる。嘉神がマイペース寄りなのでああなってしまうのだろうけど。
「で、研究棟に所属して髪が伸びて身なりに頓着が無くなったら、モテが引いたの。勿体無いと思わない? 嘉神って話すと博識だし面白いのに。ね、シルヴァ」
「私はべつに面白いとは思いませんが? ただ結局大半の人間は外見重視の現金なものというわけです」
「……茅峨、私は面白いのか?」
「ど、どうだろ……はは……」
女子がなんか歯に衣着せぬ話をしているので、茅峨は悪い意味でドキドキしながら甘いドルチェを口にした。
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一応はスムーズに食事は終了し、会計はシルヴァが全額払っていた。
今夜は各々違う場所に泊まるということで、リディア達の宿まで送って行くことにする。
「でも驚いたわ。受注ランクが近いといっても、こんなにすぐ茅峨に会えるなんて」
「運命……でしょうかね」
リディアの言葉にシルヴァがポツリと添える。
「シルヴァ、時々なんかあれなこと言うわよね……それで貴方の探してる種族?が暮らす場所はもう分かってるの?」
その問いに茅峨は首を横に振った。
「ううん、かなりその、秘密の種族だったみたいで分からないんだ」
というかそもそも未族の地へ向かうのは保留にしていて、王都に先立って行きたいのだがその辺りはどうしたものか。
「王宮のライブラリーを調べてみるのはどうだ? かの種族の記載がある書物があった筈だ」
嘉神がベストな提案をしてくれて、茅峨は思わず「おぉ……」となる。
(嘉神、その本読んだんだ? あ、だから異能とか知ってたんだ)
(あぁ……しかし未族の地の記載は見つけられなかった。だが王都に行く対外的な理由になるし、それにもう一人のお前が本を読めば違った見解があるかもしれない)
(……)
「宮廷内図書館? あそこは許可のある人しか入館出来ないわよ」
「そうなのか? 私は行けたが……」
「貴女は特権があるから……でもまぁいいわ。茅峨には助けられたし、お礼に私から許可を下ろしてあげる」
そうさらりと告げて、リディアは何かを茅峨に渡した。
「え!? 許可って……そんな簡単にいいの!?」
「いいのいいの。逆に許可持ってる人が悪用すればすぐに分かるし、ね」
手渡されたものは小さな名刺のような、薄い板状のもの。クレオリアの国章とリディアのフルネームが刻まれていて、透明なケースに入っている。
「私の名刺よ。これを宮廷専用の各所で認証確認して貰えれば施設を利用出来るわ。落とさないでね……といってもセキュリティが鬼だから、もし落としても拾った人は使えないようになってる。安心して持ってて」
安心してと言われても、貴重なものには変わりないよね……と茅峨はシルヴァの方を見上げる。
「嘉神殿が茅峨様と連れ立って信用しているとあれば、問題ないかと」
「……」
嘉神が自分を信用、というとかなり違うかもしれないと茅峨は思う。
嘉神が居てくれるのは嘉神本人に利があるからに他ならない。が、それで茅峨もこうして未族の詳細や精神を治すことに繋がっていくのなら……
「茅峨は……まぁ、悪用などしないだろう。第一機械やセキュリティのことについても疎いからな」
「う、うん。そう。もちろん」
茅峨は、恐らく嘉神も言いながらなんとなく「セレキは、悪用しそうだな……」と頭に浮かんだ。
「……ありがとうリディア。王都に行ったら使わせて貰うね」
そう答えるとリディアはにっこりと頷いた。
二人の泊まる宿の前まで着き、リディアが思案しながら、しかしどこか残念そうに口を開く。
「でもそっか、茅峨が王都の方に行くんだったら私もついて行きたいな」
「そんなに茅峨様のこと気に入ったんですか?」
その言葉に茅峨は目をぱちくりとさせ、リディアは気持ち飛び上がった。
「ちがっっっううん違うわけでもないけど、同年代で同じようなランクで共同クエストも出来そうだし変なことも言わないし、気を使いすぎてこず、かといって無遠慮でもなくサポートもばっちりだったしナンパも助けてくれたし、居てくれると助かるな〜って思っただけです!!」
めちゃくちゃ早口である。
茅峨はもう一度目をぱちくりとさせ、そんな彼女に嘉神は一言感想を送る。
「リディアは元気だな」
「リディア様、冒険出来る日程の合間に視察のスケジュールというものがありまして」
「わ、わかってます! わかってるんだから! ただの独り言だもの!」
そうですか、とシルヴァはどこか微笑ましそうな声色で答え、茅峨達を振り返った。
「送って頂き有難うございます。私共は明日の早朝出立することになっていますので、ここでお別れになりますね」
「そうなんだ……またどこかで会えるかな」
「ええきっと。世間は狭いですから」
シルヴァの言葉に頷いてリディアが茅峨の前に立つ。
「茅峨の旅、分からない土地を探すって大変だと思うけど……応援してます。何かあれば嘉神を通して頼ってくれていいわ」
「……どうしてそう言ってくれるの?」
茅峨が問うと、リディアは指先を自分の口元に当てて少し考えたあと、凛と告げた。
「善良な国民を支援することは当然だもの。全ての国民の状況を吸い上げることは未だ難しいけど、こうして視察のさなか出会えた人のことは私の手の届く範囲よ。だから支えたいの」
「――」
それで頭によぎってしまった。
――もしリディアが、もっと何年も前にネハラに来ていたら?
「――リディア」
――いや、あの村の住人は、自分達の思想は村の存続として正しいと思っていたはずだ。
それにもし存続の手段が悪だと自認していたならば、視察の目を誤魔化す手段をいくらでも取るだろう。
あそこに居た茅峨もきっと、外から見た自分の境遇がどんなものかは分からないし気付かない。
だから助けを、発信出来ない。
「……茅峨? どうしたの?」
先を続けず押し黙った茅峨をリディアは覗き込んだが、茅峨は被りを振って笑みを作る。
「ううん。えと、忙しいと思うけど無理しないでね。リディアはきっと頑張り屋だと思うから、今日はゆっくり休んで」
「……」
茅峨の一瞬見せた顔色が気になったが、それでもリディアは労いに笑顔で答えた。




