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第21話 クエスト:遺跡(小)-3-


 茅峨はスフィアが成功したことに安堵しつつ、それが上手く男達を壁面に追いやることに成功したので驚いていた。


「あ、ありがと!」

 そう呟くと茅峨の周囲でふわりと風が舞う。


 茅峨の存在とその大風が発動された隙、魔物の警戒が散乱したのをシルヴァは見逃さなかった。瞬間地を蹴り間合いを詰め、その魔物の首筋に騎士剣を振るう。

 猫科が踏み潰されたような悲鳴を上げて魔物はばたり土地に伏せた。



「茅峨! なんでここに……!?」

 ミナは駆け寄り、シルヴァは倒れている男達と横たわっている魔物に注意を向けつつ後ろ手に茅峨に近寄る。


「たまたま遺跡の調査に来てて……ミナ達も?」

「そうなの、もしかして東の遺跡に入った? ねぇそこでなにか見つけなかったかしら」

「お嬢様、確認よりも先にこの者達の処理を」

「ッ()〜〜!! なんだテメェは!?」


 男達が壁際から起き上がり……打ちどころが悪く起き上がれない者もいるが……突然現れた茅峨を睨みつける。


「えと、俺は通りすがりっていうか……」

 なんだテメェと言われても返す言葉もない。男達は苛立ちを隠さず各々携えていた武器を構えた。


「もういい面倒臭ェ! コイツは始末して女共は掻っ攫うぞ!! 早くしろ!」

 一人の男の号令で男達は茅峨達の周りを囲い込む。


「ガキのくせにノコノコ出てきていい度胸だな、まさか俺達キリオフィストのことを知らねぇわけじゃねえだろ?」

「キリオフィスト……」


 巨大なサバイバルナイフを突きつけられ茅峨は目を丸くする。

 そういえば男達の衣服や腰布に、皆同じ丸い家紋のようなオブジェが付けられている。掲げているマークだとは思うが……


「ご、ごめん、全然知らない……」

「あァ!?」

「こ、このガキ!! 青い髪で派手なわりに世間知らずかよ!」

「どこの田舎から出てきやがった!」

 キリオフィストというらしい野盗がわぁわぁと言っているので茅峨はミナを見ると、本当に知らないの?という怪訝そうな目をされた。

 ともあれこの囲みやら剣先やらをどうにかしたい。


「あ、あの。戦うと危ないので……俺降参するので、これ退けてくれたり……しませんか?」

「えっ降参しちゃうの!?」

 ミナが思わず声を上げる。


「ハッ降参シマスでハイそうですかってなるわけねぇだろ、テメェはここで一生おねんねだよ」

 その言葉に茅峨の周りで風がふわりと揺れた。


「その……もう少し吹っ飛ばすことも出来そうなんだけど、そうするとさっきみたいに壁に当たって痛そうだし、やらない方がいいかなって……」

「アァ!? 舐めてんのか!!」

「風の術使いか知らねえがあんなの屁でもねぇんだよ!!」

 その割には石壁に激突した名残が痛そうではある。


「ほ、炎も使えるけど、たぶん人に当てるともの凄く燃えるから……」

「ハァン? やれるモンならやってみやがれ、術師は呪文必須だろうが! それより先に斬ってやるよ!!」

「茅峨、それ結構煽ってるわよ……」

 耳打ちでミナが伝えてきて、茅峨は煽ってるつもりなどなくて目を瞬いて戸惑う。

 よく分からないが相手は今は四人だけ。


「ね、俺がもう一度風を起こすから、その隙に逃げれそう?」

「え? いいえ逃げないわ」

 茅峨の提案にミナは首を横に振る。


「捕まえなきゃ。それが仕事じゃないけど、この人たちのやってること、キリオフィストを名乗ってしまったこと、私は見過ごすわけにはいかないの」

「ミナ……?」

 ミナの言葉が聞こえたのか、男達はニヤリと笑う。


「威勢がいいがおじょーちゃん、さっきから何も出来てねぇぜ? 大人しく俺達に捕まっちまった方がいい目を見せてやれるのに」

「抵抗したらそのお綺麗な顔、多少ぶっちまうかもしれねえがなァ」


 その言い分に茅峨は薄っすらと村での境遇を思い出した。見下ろしてくる視線。要望に応えても殴られる顔。

「……」


 真顔になってしまった茅峨に反して、ミナは何も顔色を変えずむしろ面白そうに口角を上げた。


「私が何も出来てない? 違います、何もしていないの。あの子の仕事を取っちゃうから」


 そう告げた瞬間、男の一人がグェと喉奥から声を出して膝下から倒れ込む。倒れた男の後ろにはいつの間にかシルヴァが立っていて、

「あぁ!?」

 それに気付いた男達の一瞬の隙に、隣のもう一人の首に手刀を叩き付け男の意識を飛ばす。

 男達がミナと茅峨に気を取られているうちにシルヴァは背後に回っていたらしい。

「このアマ……ッ!!」


 更にもう一人がシルヴァにナイフを向けると茅峨達に背を晒すことになり、

「……お願い」

 スフィアの突風がその男の背後を直撃し、更に足元を掬う。

「ひっ!?」

 あっという間に男は天井高く飛んでしまい、これで地面に落下してしまえば衝撃ですぐには呼吸が出来なくなる。

 男が地に叩きつけられる大きな音。

 あと一人。

 最後の男は素早くミナの背に回って羽交い締めにし首元に細いナイフを突き立てた。


「オイ!! コイツがどうなってもいいのか!!」

「何もしていないとは言ったけど、何もしないとは言ってないわ」

 ミナは男の足を思い切り踏みつけた。

「ァガッ!!」

 驚きと痛みに怯んだ男はナイフを手から取りこぼす。

 有無を言わさず男の顔面にミナは後頭部で頭突きを入れ、そのまま腕を捻り取り、足を掛けて勢いよく床に押し倒した。

 片腕に関節技をかけたまま首を海老反りに締めて意識を落とす。


「……ハァ、全っ然なってないわね。格闘の基礎でも覚えたら?」

 立ち上がりながら衣服の埃を払い、ミナは溜め息を吐いた。


「お嬢様、勝手に動かないでください。貴女の首が切れたらどうするんです」

「こんなヤツの身のこなしじゃ首を深く切ることなんか出来ないわよ。多少切れても即発動の治癒の護符だってあるし問題なかったわ」


 やれやれと言ったふうにミナとシルヴァは普通に会話している。

 本人は冒険者の練度は低い、などと言ってはいたが……

(……この人たち、もしかして強すぎじゃないかな……)

 特に接近戦。大の男達、しかも荒々しく武器も持っていた者達を颯爽と倒してしまった。


「ありがとう茅峨、援護してくれて助かったわ」

「そ、そんな。俺とくになにかしたわけじゃないし……」

「したでしょ、さっきもだけどすごい風! 術師だったのね、詠唱無しだからそのロッドが媒体?」

「あ、うーんと……そ、そんな感じ……」

「この盗賊も頭が悪いわ、術は全部呪文がいるとか思ってたみたいだけど。色々やり方があるのにね」

 ミナはどことなく得意げだ。


「盗賊……ねぇミナ、キリオフィストって盗賊の名前なの?」

 野盗達が言っていた単語を思い返す。


「貴方、本当に知らないのね。キリオフィストっていう凄く有名な盗賊団よ。今は王都の方での出没が多いんだけど……この男達はその一味、ってことみたい。でもどうだろ。ねぇシルヴァ、どんな感じ?」

 ミナと茅峨が話している後ろで、シルヴァは黙々と男達に縄をかけ縛り上げていく。


「……キリオフィストというのは自称か、事実でもかなりの雑兵かと思います。本隊の彼らはこんな小さな手段で盗品を隠さないし、もっと残忍で派手ですので」

 シルヴァの見解にミナはやっぱりね、と呟く。


「盗品を隠してる? あれ? もしかして……」

「そうだ茅峨、さっきこの人達に情けをかけようとしたでしょ」


「えっ? な、情けっていうか……俺もその、術、を使い始めたばっかりで制御が怪しいというか、結構本当に危なくて」

 ロッドを握りしめてしどろもどろになる茅峨に、ミナはずいと顔を寄せる。


「……あのね、このヒト達は人のものをたくさん盗んでるの。もしかしたらその時既に人や暮らしに被害を与えてるかもしれない。武器も持ってて、貴方に敵意を向けてた。そんな奴らに情けは要らないの」


「そ、そうなの……?」

「情けをかけてたらこっちが死んじゃうから」

「……」


 黙ってしまった茅峨にミナは少し困った顔をする。


「言い方を変えるわね。死ぬかもって脅してるわけでも悪者を痛めつけろって言ってるわけでもなくて……貴方は一般人で善人で、悪意に傷付けられてほしくない。そして悪人は捉えられるべき。その為に使える力があるなら、遠慮しないで欲しいのよ」


 ――自分は善人なのだろうか。

 もう一人の自分は、理由はどうあれ皆を惨殺しても平然としていたので悪なのだと思う。

 悪を抱えている自分は、善人と言っていいのだろうか。


 ――そんな自分が、情けをかけて死ぬことがあるかもしれない? それなら、それで……


「……あ、でも」

「?」


 茅峨は自分の思考に呟きが漏れ、ミナはきょとりとする。


 ――自分が悪人と対峙して、情けをかけて自分が殺されてしまった時、その悪人は残ってしまうのか。そうしたら、もしミナ達もその場にいたら……


(それは、ちょっと……)



「…………わかった。ミナの言ったこと、覚えとくね」


 茅峨が眉尻を下げどこか穏やかに頷いたのを見て、ミナは目をぱちくりと瞬かせた。


「な、なんでちょっと悟った顔で言うのよ……」

「えぇ? 悟ったってどんな顔……」


 二人が話し込んでる奥でシルヴァは横たわった魔物の様子を見ようと近付く。


「!? お二人とも、ぅぐッ」

 意識がないと思っていた豹の魔物が突然飛び起きシルヴァを後ろ足で蹴り飛ばす。即両足を地に踏み締め、牙を向くその構えは……

「!! ミナ伏せて!」

「え!?」

 茅峨はミナの頭を抱えてすぐ地面に伏せる。スフィアで対抗出来るだろうかと一瞬不安がよぎったがやるしかない。


 ――瞬間、ドンと空間が震える。

「!?」

 風圧のような気圧のような、引っ張られる感覚が一瞬強く感じ、視界にいた豹の魔物とその周囲の風景がグニャリと歪む。


「え……!?」

 瞬きの間。

 その魔物は圧縮された空間から弾かれたように放り出され、クルクルと体と目を回してゆるりと地に落ちた。



「な、なに、今の……」

「重力の……攻撃……?」


 茅峨は昔、本で読んだ術の効果の一部を思い出した。対象を圧縮する効果で挿絵もあり、それと光景が似ている。

 石畳の空間に足音が鳴った。



「茅峨、これは……何をしているんだ?」



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