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第20話 クエスト:遺跡(小)-2-

 黒焦げのマイコニド達の奥を二人は覗き込む。まだ先に道は続いているようだ。


「もうこの一帯に魔物の気配はないな。最後まで行くか」

「う、うん」


 明かりを灯しながら石畳の通路を最深部まで進む。道なりの最終地点はやや開けた小部屋になっており、古ぼけた祭壇が祀られていた。

 特に異変はない。


「魔物はあれだけだったみたい? 持ち主の人があのおっきな奴に遭わなくて良かったね……」

「ああ……」

 部屋を見渡すと、隅の方にマイコニドが発生したと思われる湿った土と木材が積み重なり置いてあった。


「あれ? この遺跡石でしか出来てないのに木と土って必要なのかな」

「む……」

 木材の奥に隠れて何かが光った気がする。嘉神がそっと木々を退かしてみると、大きめの木箱が現れた。造りはそれなりにしっかりしているようだ。……南京錠が掛かっている。


「物置とか? それか遺跡の宝箱……?」

「いや、それにしては真新しい。開けてみるか」

「えっ」


 言うが早いか嘉神は軽く座り込み指先を軽く鳴らすと、木箱に取り付けられていた鍵がパチリと開いた。


「えぇ!? だっ大丈夫なの!?」

 というかこんなに簡単に解錠出来てしまってこの世のセキュリティはガバガバなんじゃないのか。あと魔法ってずるくないだろうか。

「大丈夫だ」

「な、なにが……!?」

「針金でちょちょいと開けるレベルのことしか出来ん」

「ちょちょいって」

「強固な施錠や何重にも術式が埋められている鍵は開けられない……」


 そう言いつつ木箱の蓋を開けると、中にはキラキラと輝く宝石や美術品らしきものが詰まっていた。目先が黄金に眩しい。

「……」

「……」


「……依頼主の宝石かな」

「確かにこの遺跡を敢えて物置にしている可能性もあるが……だとしても置き方といい施錠のレベルといいかなり雑だな」


 魔物が出た為に宝石を保管していた木箱まで辿り着けなくなって困っていた、というのが依頼の本質の場合もあるが、そもそもここ一帯が個人所有なら木箱を土や木材でわざわざ隠すように覆う必要はあるのだろうか。


「少し妙だが……」

「で、でも勝手に触ったらよくないんじゃ……?」

「そうだな。ひとまず遺跡の魔物は駆除し発生源も分かった。外へ戻るとするか」

 茅峨はそれに頷き、嘉神は南京錠をパチリと木箱にはめ直した。


.

.

.



「私は中央の遺跡で確認することがある。そう時間はかからないだろうから茅峨はこの辺りに居てくれ」

 外へ出てすぐ、そう言って嘉神が中央の方へ行ってしまったので、茅峨は崩れている石造りの遺跡に腰掛けてぼんやりと空を見ていた。


 森に入る前に嘉神に言われたこと……

 ――お前も折角しがらみが無くなったのだから様々な場所へ行ってみるといい。


「……」

 嘉神は何年も目的の為に調査をしている。

 茅峨だって今後、自分の事情を簡単には対処出来無いかもしれない。

 それに仮に王都に行きセレキ云々が解決したとして、その後自分はどうしていけばいいのだろうか。

「……セレキ、か」


 ……自己防衛としてあの人格が出来て、その人格が苛烈なことも異能を簡単に振るえるのも、未族特有の何かだったりするのだろうか。


 ――物思いに耽っていると、突然大きな音がして少し地面が揺れた。

「!?」

 それはまだ茅峨達が入っていない西の遺跡の方から。

「な、なに……?」


 魔物が出るのは東の遺跡だけという話だったが、もしかしたら西にも出るようになったのかもしれない。あの音からしてもし石垣が崩れていたら危険な気がする。

 まだ嘉神が戻ってくる気配はない。


「も、もし持ち主の人とか誰か他の人が中にいたら危ないよね……」

 音の原因も気になるし、と茅峨はおずおずと立ち上がり西の遺跡へ向かった。

 中央の遺跡からほぼ離れていないし、嘉神のアクティブさなら茅峨が見当たらなければ周辺を探すだろう。


 遺跡の入り口を覗き込むと、こちらも地下へ階段が続いている。

 すぐに降りていくと東よりも浅く半地下ほどになっており、すぐに開けた大部屋に出た。


「え……!?」


 そこには人が何人も居た。

 風貌が荒々しい男性達が五人、その対面、茅峨から見て遺跡の奥側に細身の女性が二人。男達の側には大きな黒豹のような魔物が一匹。


(ど、どういう状況……!? ていうか近くにこんなに人がいたんだ!)

 男達は女性二人を見てるのでまだ入り口側の茅峨には気付いてない。


「こんなことしても逃げられないわよ。あなた達がここに盗品を隠してることは報告するんだから!」

(あ、あれ……?)


 奥にいる女性二人。

 険しい顔をしていてどうやらこの男達と敵対しているようだが、その姿に見覚えがあった。

(ミナとシルヴァさんだ! なんでこんな所に、依頼の関係かな……)


 大部屋の入り口の影に隠れて焦りと共に様子を伺う茅峨は、自分がここで登場していいものか迷った。

 しかしミナ達が危ない目に遭おうとしているなら見過ごせないし、先程の大きな音も気になる。


(あれは……?)

 ミナ達の後ろ、奥側の壁を見るとそこには人一人分ほどの巨大な凹みがあった。パラパラと石粒が落ちているので今し方出来た凹みだろうか。


「いやいや状況わかってる? コイツの今の攻撃見ただろ? モンスターだが俺たちの言うことはちゃんと聞くんだわ。そっちこそ下手な手ぇ打って死にたくなけりゃ大人しくするこった」

「多勢に無勢だろ、抵抗するだけ無駄だぜ」


 男達はヘラヘラと煽るように笑っている。先程の大きな音はあの黒豹の魔物のせいだろうか。

 ミナはますます険しい顔をした。


「……私達をどうするつもりなの?」

「そりゃ決まってる、ここで見た事を話したくなくなるようにしてやんだよ! それか始末されるのとどっちがいい?」

「女二人で冒険やってるより俺達と来る方が楽しいと思うがなァ?」


「……シルヴァ」

「問題ありません。ただ、野盗共よりあの魔物の方が厄介ですね」

 シルヴァは二、三歩前に踏み出し、腰に下げていた白銀の剣を抜く。騎士剣のようだった。

「ハッそんな金持ちそうな剣持ってたって意味ねぇぜ! つかそれも奪ってやるか……やれ!」


 男が手を挙げて指示すると魔物がシルヴァに飛び掛かる。その瞬発力は鋭かったがシルヴァは剣で前足を受け止め難なく払った。

「ハッ、接近戦はそこそこやるみたいだけどよォ」

 一線払われた豹の魔物はすぐ地面に着地すると同時に全ての足を踏み締めて姿勢を低く構える。

「!! お嬢様!」


 瞬間魔物の口が開かれ衝撃波が放たれる。それは紫の太い光線で、シルヴァはミナを庇い地に伏せた。

 爆音と共に再び壁面は破壊され大きなひび割れと凹みを造る。


「……う、うわぁ」

 その様子を見ながら茅峨は口元を抑えた。


 あれを喰らうと行動不能は避けられない。

 シルヴァは剣士のようだし身のこなしも恐らくは熟練だろうが、魔物の素早さ且つ遠距離からの併用攻撃を受け続けるのは厳しいかもしれない。

 男達は相変わらず余裕そうで、品のない横顔で笑っている。


「……俺がここから風のスフィアで狙ったら、男の人達はまとめて倒せたりしないかな? その隙にシルヴァさんが魔物をやっつけてくれたら……ううん、でも気付かれる、かも……」


 銀のロッドを握りしめて思案するが上手くいくか分からない。

 人との戦闘は初めてだし相手は複数、魔物をやっつけたのは先程の炎で一回きりだ。しかもあんなに素早い魔物ではなかった。


『いや余裕で行けんだろ』

 ……声が聞こえた。


『俺様達がここで見てることすら気付いてない連中だぜ? てんで弱ぇよ、今の茅峨でも充分だわ』



 野盗の一人が弓をつがえミナに向かって放つ。その矢を剣で弾き飛ばしながらシルヴァは豹の魔物にも一太刀、傷を負わせたがまだ軽い。


「シルヴァ、私がアイツらの懐に入る、接近戦なら絶対負けない」

「馬鹿ですか、貴女は複数の敵に慣れてないでしょう。それに貴女を守る私の仕事を取らないでください」

「ば、ばか……!?」


 驚いて大口を開けるミナだったが、その表情は次の一手で更に大きくなる。

「うわぁぁ!?」

 突然野盗の男達が吹っ飛んだ。ミナやシルヴァを頭上から追い越して次々と石の壁にぶち当たる。なんなら先程の大きくひび割れた場所に当たったので、急遽壊れた石壁が男達の上に落ちてくる。


「あだだだだ!!」

「え!! な、なに!?」

 ミナが風の襲ってきた方に顔を向けると、そこに居たのは銀のロッドを握りしめた、先刻出会った青い髪の少年。


 何故かその少年……茅峨も僅かに驚いた顔をしていた。





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