第19話 クエスト:遺跡(小)-1-
国が管理している地域では考古地質、歴史の調査を堂々と申請出来るのだが、個人所有の場所はそうもいかない。
地域の祠や社、その他おもだった魔術式や龍脈の力が集まりそうな所は嘉神がこの十数年虱潰しに調べてみてはいるが、まだまだ足を踏み入れていない土地はある。
「この森の遺跡は三つに分かれている。といってもそれぞれ小さいものだ。魔物が棲みついているのは東側の遺跡だそうだ」
茅峨と嘉神は森を進みながら立地を確認する。
「魔物はその東の遺跡からは出てこないの?」
「らしいな」
「ふうん……?」
程なく半壊状態の石造りの遺跡が見えてきた。
正面に大きめの入り口、少し離れて左右にも石の門のような入り口がある。左右の遺跡は階段が下に伸びており、どうやら地下に潜るようだ。
――先刻森に入ったおり、少し木々を避けた開けた場所で嘉神に促されつつ茅峨は異能スフィアの実践を試みた。
セレキという潜在値があり、更に先日の宿屋で風と呼応してみた時はそれなりに……というか予想より上の能力の反応があった為、嘉神の見立てでは然程苦戦しないだろうと思っていたのだが……
茅峨は銀のロッドを持ち風の道筋を示すようなイメージで、宿屋の時よりも強く空気の流れに呼応する。
「お願い……!」
風が舞う。ロッドを始点としその舞は瞬間周りを強烈に巻き込んで、茅峨の示す森の奥へ。それは突風を超えて横薙ぎの竜巻の如く。
「……」
嘉神は黒眼鏡の奥で一度目を瞬かせる。
「……な、なんか、やる気がすごいみたいで」
ロッドを握りしめながら茅峨は苦笑する。
嘉神からすると、もしかしたら茅峨の傍にいる風は、茅峨に頼られるのが相当嬉しいのかもしれない。
「なんとなく、だけど……」
「?」
ぽつりと呟いた茅峨を嘉神は見る。
「未族の異能……超能力みたいなのって、嘉神も言ってたみたいに術寄りなんだと思う。風だったら空気の流れを弄る感じ。炎だったら、塵から火種を作る感じ……その種を自然の力を借りて大きくしてもらう、みたいな」
「……ほう」
「未族をまだよく知らない俺が言うのもおかしいけど、人が自然を使って、魔法を真似たような……変な感じがするんだ」
――遺跡の入り口。この付近にはまだ魔物の気配はない。
先に嘉神が魔法で頭上に明かりを灯し、慣れた所作で周囲を確認してから足を踏み入れる。茅峨はその後を小走りで続いた。
細い石畳の階段は所々ひび割れて入るもののしっかりとした作りで、流石個人所有、無駄な雑草もなくどうやら程よく手入れされているらしい。
外界よりもひんやりとした空気を感じながら二人は奥へと歩みを進める。
体感で地下二階ほどで階下は無くなり、石壁に囲まれた道が奥へと口を開いている。灯のない壁面松明が等間隔に付いていたので、嘉神は茅峨にスフィアの発動を促してみた。
「これに火を付けてみろ」
「えっ火を!? えーっと……」
むむ、と茅峨が眉間を寄せる。火は大火事のせいで良いイメージが無いのもあるが、元々茅峨は火の呼応を感じることが少なかった。
「うーん……お、『お願い』!」
火を灯すだけなので声は小さく、ただ鮮明に自然へ『着手』する。が、
「うわっ!?」
壁面の松明はバチリと大きな音を立てて火花を盛大に散らす。火は点いたがなんだか火力が巨大だ。とても顔が熱い。
「こ、これ大丈夫?」
「うむ……」
煌々と燃えていてすぐに松明の油が燃え尽きそうだ。
「もっとこう……静かに頼む方がいいのかもな……?」
「もっと静かに……」
悩みながら次の松明にも着火を試みる。
「お、『お願いします……』」
か細く呼びかけると、松明は一瞬先端に火が灯ったがすぐに線香の先が消えるようにスン……と収まってしまった。
「いまいちだな」
「む、むり……」
加減がシビアすぎる。風の時も加減が出来ていたとは言い難いが、あれは茅峨へ好感を寄せられているのを感じていて、火はなんというか茅峨に対し「なんなのおまえ」みたいな気を感じる。
「嫌われてるのかなぁ……」
「茅峨」
およよとしょんぼりする茅峨の前に嘉神は立つ。
「奥に何かいる」
「!」
最初に点けた燃え盛る松明の明かりでも奥は見えない。
嘉神がすっと手を前方へ掲げると、壁面の松明は深部に向かって一斉に橙色の明かりを灯した。
いくつかの黒い影がもぞもぞと動いている。と共に、人では言い表せない妙な鳴き声。
「魔物だ。茅峨、炎を投げつけろ」
「ええ!? まだ何物かも分かってないのに!? あと加減出来ないよ……!?」
「この辺りですぐに出てくるなら依頼主も確認済みの魔物だろう。この先へ行く邪魔をされるのも面倒だからな、先手必勝だ」
もしかして嘉神って冷静沈着に見せかけてストレートに敵を薙ぎ倒して行くタイプなのでは? しかし足踏みしていても仕方がない。
黒い影……複数のようだが、更に奥にも大きなものが蠢いているように見える。
「わ、わかった……!」
ロッドの先端を奥へと向けたと同時に黒い影がぬらりと姿を表し奇声を上げて迫ってきた。魔物……なんだこの巨大な魔物は。
「……っ!」
着手するのは松明の火、呼応して黒い影を目掛け道を示す。――炎はきっとセレキとなら相性がいい。加減なんかする必要がない、全てを消してしまえばいい――セレキはきっとそんな呼応をする。
「『お願い!』」
ズシンと石道が揺れ爆発、爆炎とそれによる眩しさ、瞬間照らされる魔物の実態と、しまったという顔且つ黒眼鏡をかけていて良かったと思う嘉神。燃えまくる魔物。やりすぎたと青ざめる茅峨。
「茅峨、こんな石塀に囲まれた地下で爆発させると崩れるぞ、あと狭い所で魔物が燃える時間が長ければこちらに身の危険もある」
「こっこんな大きな爆発になると思ってなくて……!」
「……俺もだ。お前のスフィアを見誤った、悪いな」
そう言って嘉神は燃えている魔物から庇うように素早く片腕で茅峨を抱えて下がらせ、もう片方の手を掲げる。
詠唱無し、巨大な魔物の頭上に発動するのは土砂降りの雨の如く一瞬の水の魔法。
炎は間もなく鎮火した。
「……この遺跡の強度はまぁまぁ高いらしい。この分なら上が崩れてくることも無いだろう」
壁面に触れながら嘉神は様子を確認する。
目の前には真っ黒に焦げた巨大な魔物と、その複製の様な小さな……と言っても子供の背丈ほどの魔物たち。プスプスと焦げた音を漏らしながら倒れている。
「めちゃくちゃ大きい! これ何の魔物……?」
天井や左右の壁まで到達するのではというくらい横にも縦にも大きいモンスターだ。突発に爆発の異能を使ったが、この巨大さで対面するのであれば正解の行動だったかもしれない。
「マイコニドだ。しかし、これほど巨大なものがこの短期間で自然発生するとは思えないが……」
「まいこにど?」
「端的に言えば、キノコの化け物だ」
「キノコ……」
そう言われて見上げれば、ふっくらとした体躯に大きく広がる笠のようなものが頭部にある。黒焦げだが。
「瞬殺で間違いなかったな。これの胞子は催眠や混乱を発生させるから……この大きさで胞子を飛ばされると回避出来ない」
「この小さいキノコも?」
「平均はこれくらいの大きさなんだが……」
依頼によればこの遺跡で魔物が現れだしたのは最近だ。
マイコニドは暗くて湿気のあるダンジョンを好むが、この遺跡は所有者が手入れをしているようだし立地として空気も湿ってはいない。
この魔物が自然に巨大になるほどの年月も経っていない筈だが……
「うぅ……でも嘉神が居て良かった、俺だけじゃここ燃やしまくってたかも」
思った以上に力が発動してしまい、茅峨は困惑しつつ肩を落とす。
「あ、でもこれって俺がもし炎をめいいっぱい使っても、嘉神が水をバジャーってしてくれると被害が少ない……?」
「流石に私でも水を出せる範囲に限度があるが」
茅峨の中で「雑なマッチポンプじゃねえか」とセレキが突っ込んできた。
「……火はあんまり使わないことにするね」
「顔が引き攣ってるぞ」




