第17話 受注
「お嬢様、そろそろ……」
「あ、そうね……」
シルヴァに促されて、抗議したそうだったミナは茅峨から身を引く。
「じゃあ私達は依頼を受けてもう行くわ。茅峨も冒険者ならまたどこかで会えると思うし、その時はよろしくね」
「う、うん、よろしく……けどそんな簡単に会えるものなの?」
茅峨の問いにミナは苦笑する。
「私、実はあまり冒険者の練度が高くないの。その辺のならず者風情に負けるつもりは全くないのだけど、実戦の経験値が少なくて……」
「あくまで箱入りですからね。お父上に冒険をお目溢し頂いている身ですので」
シルヴァは淡々と言っている。過度に心配しているわけでもミナの実力を見誤っているわけでもなさそうだ。
「もう、父様のことはいいのよ。それに冒険がメインってわけじゃないし……と、とにかく、茅峨も新人冒険者なら高ランクの依頼やクエストはまだ受けられないわ。クエストは他の冒険者と競合したり仲間を募ったり、レイドバトルしたりするから。その辺りで似たような練度の人たちはよく顔を合わせるの」
わかった? とどこかお姉さん風を吹かせるミナに、シルヴァは「ルーキーと似た練度なのにちょっと先輩だから嬉しいんですよ、お嬢様は」と茅峨にこっそり耳打ちした。
ミナはショールをきちんと頭に被り直し、奥の据え置き端末から依頼を受注して逆側の出入り口から去っていった。
この街のギルド内はバー併設で、バーといっても昼間は未成年らしき冒険者も多く立ち寄っていて、カフェのようなメニューもあるらしい。
(俺くらいの年の子もいるなぁ……仲間とかパーティだっけ? そういうの組んでダンジョン攻略するのかな)
周りを見ているとほどなくしてメインの出入り口から嘉神がやってきた。
……嘉神は手元に短い棒のようなものを持っている。
「待たせたか、悪いな」
「ううん。あの、その棒はなに?」
「後ほど外で説明する。とりあえずはクエストを受けてみるか……茅峨、ギルドの登録は今からか?」
「……え、あ、あぁ、えっとね」
そう聞かれて何故か茅峨が一瞬固まったことを嘉神は見逃さなかったが、すぐに一通りの登録は済ませたこと、お嬢様の冒険者が親切に教えてくれたことを伝えてきた。
「お嬢様……? 物好きな冒険者もいるものだな」
ふむといった風に嘉神は軽く首を傾げて見せる。
「……茅峨?」
「……え? な、なに?」
やはり茅峨の挙動がややおかしいが、平静に振舞っているので嘉神は言及することはやめた。
「……これを見てみろ」
やや思考が飛んでいたらしい茅峨は被りを振って、受付近くのカウンターで据え置きの電子端末を覗いている嘉神におずおずと駆け寄った。
「お前の登録ナンバーでログインする。パスワードをここに入れてくれるか……よし。ん? 名前を変えたのか……この画面で現在受けられるクエストを確認出来る。お前はルーキーだから絞り込むとこの辺りだな」
電子端末……平たくて大きめのノートのようなサイズだ。確かミナがポケットから小さな平たい端末を出していたが、それをもっと引き延ばした感じがする。
青みがかった画面を見てみると受注期間や地域、推奨練度と共に、モンスターの討伐だったり植物や鉱石類の採取、隣町からの荷運びなど様々な依頼の一覧が並んでいた。
「こんなに依頼の種類があるんだ……! 冒険者ってなんでも屋みたい」
「まぁ確かにな。それに冒険者という職業を銘打っていなくても、ギルドに登録さえしていれば一般の民間人も小銭を稼ぐことが出来る。」
「この練度、っていうのは?」
確かミナも練度が高くないと言っていた気がする。
「依頼の完了をギルドに報告するたびに、その者がどの程度の討伐力や収集能力等があるかを計算され総合して各自に練度が割り振られるらしい。詳しくは協会の機密で私にもわからんが……しかし依頼の付属ランクはあくまで推奨で、極論無視してもいい。流石に推奨練度のランクが本人と離れすぎているクエストは受けられないが」
「なるほど……?」
しかし無視してもいいとはいえ、練度が低ければ練度の高いクエストに挑戦するのは当然危険だよね?……と茅峨は思う。
「なので茅峨はルーキーだが、二つほど上のランクの仕事を受けてみようと思っている」
「うん……うん!? なっなんで!?」
さらっと言われた言葉に茅峨は目を丸くする。
「クエストを受ける目的は二つある。一つは勿論路銀を稼ぐ為だが、もう一つは茅峨、お前の異能……スフィアだったか。それを使いこなせるようにする為だ」
「異能……」
スフィアという未族の能力。自然と呼応する……
「それってセレキの炎みたいな……?」
茅峨の表情と声色は、自分が力を使いこなす意味はあるのか、と表していた。
セレキの使ったそれの情景が強すぎて、その力で人に害を及ぼしてしまうかもという気持ちが強い。
「気が進まないのも分かるが、旅はまず自分自身を守ることを念頭に置かなければならない。身のこなしからおまえは剣術や武術の経験はないだろう。しかし異能を持っているし、その潜在値は高い。なら使いこなすに越した事はないし、このご時世、自分だけでなく周りも守ることが出来るかもしれない」
「周りも守る……?」
確かに、茅峨は武器も鎧もない丸腰で物理的な力も年相応ほどだ。魔物に遭遇しても上手く対処は出来ない。
ただ……自分の身を守ることはあまり茅峨の中で特出した課題ではなく、なんなら酷く傷ついたっていいのだが。
などと息をするように考えると、自分の中のセレキが……声は相変わらず聞こえず感じるだけだが、「お前が傷付いたりだとかなんならウッカリ死んじまう前に、俺様はお前と入れ替わることが出来るんだぜ?」と言ったような気がした。
――それは絶対に避けたい。
「か、嘉神、このご時世って?」
自身の葛藤から考えを逸らすようにそう訊ねると、嘉神は茅峨が世間知らずなことを思い出す。
「……あぁ。最近は冒険者協会を隠れ蓑に非合法な商売や強盗、詐欺も増えている。山賊が出るなんて話や、街にモンスターが出現したこともあるからな」
「街に……!?」
それは恐ろしいし、もし遭遇した時に自分の力で多くの人を守れるなら、それは……異能を使いこなす理由にはなる。
「あとは盗賊団だな。これは王都寄りで出没するらしいから、この辺りではまぁないだろう」
「え! 盗賊団って本当にいるんだ……!」
そんなことを話していると嘉神はスイスイと電子端末の画面を指先で操作し、いつの間にか画面に『受注完了』の文字が現れていた。
「あれっ嘉神……なんの依頼を受けたの?」
「この街の近くの簡単な遺跡調査だ。魔物が出るが、ランクDだからそれほど苦戦はしないだろう」
さらっと言ってのけるが茅峨は本当に戦闘初心者である。
「あ、でも調査なら……良かった、山賊の捕獲とかのクエスト受けたのかと思っちゃった」
「そういうタイプの依頼もあるし、まぁ受けるか迷ったが」
「迷った……!?」
「丁度この遺跡の祠が見ておきたくてな。私はそこに寄って仕事上の調べ物が出来るし一石二鳥だ」
確かに一石二鳥な感じもするけれどなんかうまいことまとめられたなぁと茅峨は苦笑する。が、対人間の戦闘よりは充分助かる。
(……尻込みしてても仕方ないし、頑張ろう)




