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第13話 隣街-2-

「面会出来ない……!?」


 丘の手前に建つ医院に辿り着き受付に事情を話すと茅峨の思ってもみない言葉が返ってきた。


「はい。ネハラ村の昕栄(アスハ)斎宮(イツキ)様、全面的に面会謝絶です」

「……目覚めていない?」

 嘉神が訊ねると、いえ、と否定されたのみで、詳しくは話して貰えなかった。


 ロビーに座って茅峨はウサギを抱えたまま項垂れている。


「アスハ、体大丈夫なのかな……血、いっぱい出てたから……」

「……」


 嘉神はやや首を傾げる。アスハの体は嘉神が完全に回復させた。となると医者としての精神面の考慮か、本人の意思が、そのどちらもか。


「待って……俺なんにも考えてなかったけど、アスハに怪我させたのって俺だよね。アスハにとっては急に俺が狂った殺人者みたいになったってことだよね……」


 ますます茅峨は落ち込んでウサギに顔をめり込ませる。


「そんなの会えるわけない……」


 しおしおになってしまった茅峨に嘉神はふむと思案する。


「まだ大火事から日も経っていない、誰であれ混乱しているだろう。アスハとやらの体の無事は私が保証する、生きていればまた話せる時もくるだろう」


 嘉神がなぜ体の無事を保証してくれるのか一瞬疑問に思ったが、生きていればまた話せる……その言葉に、暫く俯いていた茅峨が小さく頷いた。


「……そう、だよね。俺、弱ってたのかも……アスハが生きてたってだけで拠り所みたいに……アスハだってしんどいはずなのに。むしろ俺のこと、憎くなってて当たり前なのに」


 血は繋がっていなくても共に過ごして、二人きりの時は優しかったアスハは、今また会うことが出来たら優しくしてくれるかもと無意識に思っていたのかもしれない。


 けどアスハはそれこそ本当の血の繋がった親も、親しかったであろう村人もいなくなり、自分の兄弟であったような茅峨に殺されかけた。


「話せる日が来るかもだし、もう来ないかも……だけど、仕方ないよね……」



 茅峨は思いを時間をかけて飲み込んだあと顔を上げる。


 抱きしめていたぬいぐるみを見つめて自虐のように苦笑したあとは、もう今までの茅峨だった。


「……ウサギ、預けてくるね」


 受付に行ってアスハへのお見舞い品だと受け渡す。

 自分の名前は言わなかった。



.

.

.



 街の中腹には雑貨屋や一般の服屋も並ぶ中、武器屋や防具屋の存在も目立ち、冒険者であろう装いの者達が品物を吟味している。


「冒険者って装備とか大変そうだけど、俺もそういう感じにしないとってことなのかな?」


「いや、流石に王都に行くだけではそこまで武装する必要はない……あれら装備品やアイテムを蓄えているのは生業(プロ)だからな」

「ぷろ?」


「その土地の地形や生物、ダンジョンの調査、モンスターを討伐して治安維持や情報を自治体や国へ渡す職業だ。まぁ、金目的でない冒険者も多いが」


 本で見たような剣や盾、杖を持っている者もいる。

 モンスターといえば茅峨はネハラ村周辺ではスライムやラビットくらいしか見かけなかったし、あれらは子どもでも追い払える。


 本職達が戦う手強いモンスター、気にはなるが……

「大丈夫かな、俺……ちゃんと戦ったことないしすぐやられちゃいそう」

「ダンジョンにさえ行かなければこの辺りは弱い魔物しかいない。が、路銀を稼ぐとなると別か……」

「え? あ……」

 実は嘉神達には道中用の金が無かった。茅峨は一文無しであるし、嘉神も仕事中故手持ちがない。


「ロアンも言っていたがギルドに登録してクエストで金を稼ぐのが手っ取り早い。それにお前の能力も把握しておいた方がいいからな」

「俺の能力って、サイコなんとか、だっけ……ほんとに俺も魔物と戦えるように使えるの……?」

「その話の前に、こっちに来い」


 茅峨は未だに全く自分の力を信じられないが、急に嘉神に促され人通りの無い細い路地裏の奥へ連れて来られる。


「ど、どうしたの?」


 嘉神の不可解な行動に茅峨が目を丸くしていると、また先程と同じ痺れるような視線を感じた。


「な、なに? さっきもこれ、誰かに見られてる感じが……」


 路地の奥まで来て茅峨は振り向いたが誰もいない。


 おかしい。これだけ異質な視線を感じるというのに……

 ふと茅峨の周りで吹いた風が『下』と声をかけてくる。嘉神もいつの間にかやや足元の方に首を向けていた。


「ずっとこれが茅峨の後ろをつけていた。何か仕掛けたそうだったがどうも人がいる所では嫌らしい」

「嘉神、視線に気づいてたんだ……」


 自分達より少しだけ離れて地面の近くにあった物。


 ――紙だ。

 茅峨はそれを見たことがある。


「あれ……!? この前俺の前で浮いてた、変な紙……!」


 白くて薄い人型を模した紙は、茅峨に認識されると同時に目の前まで浮かび上がってきた。


 すると紙を中心にぶわりと空気が揺れて茅峨の前に「人」の上半身が現れる。

「わ……!?」


 実態ではなく不鮮明で茅峨はさっぱり把握出来なったが、嘉神の目線からするとそれはノイズ混じりの乱れた映像のようだった。

 その人物は空間の向こう側で、感極まったように声を上げる。


「――ああ玲綬! やっと見つけた!」


 像が乱れていて全体の顔付きや目元は分かりにくいが、その人物は茅峨と同じ――青い髪をした女性だった。





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