表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/34

第10話 白衣の者達-2-


 現在ベッドサイドの椅子にロアン、ベッドに茅峨、その真横に大きなパッチワークウサギ、ベッドの横に高身長の嘉神が立つ、という状況である。


「なにこれ……」


 茅峨はその状況にポツリと呟いたが、嘉神はウサギに言及されたと思ったらしい。


「ウサギだ」

「分かってるよ」

 間髪入れずにロアンが口を割った。


「町の雑貨屋で買ってきた。緊張を解すにはぬいぐるみがいいと」

「あ? あー……なんか昔言ってたやつ? リディーゼア殿下の……」

「え、えぇっと……?」

よく分からず茅峨が嘉神を見上げると、嘉神は相変わらずの無表情で話し始めた。


「昔私が王都に来たばかりの頃、右も左も分からなくてな。焦っていたのもあって余裕が無かった。その時ぬいぐるみを貰った」

「ねぇ茅峨くん聞いて、ヤバくない? コイツ国賓ってさっき言ったじゃん。王家の客人枠だからこっち来た当初は王宮にずっといたわけ。誰にぬいぐるみ貰ったと思う?」

「え!? 嘉神が王宮に……!?」


 王宮、となると、茅峨は全く詳しくないが、王様とか大臣とか色々偉い人とか王宮騎士とかいるのではないか。あとは……


「嘉神の奴、お姫様からぬいぐるみ貰ったの。嘉神の部屋にめちゃくちゃ浮いてる可愛いのがあったからナニソレって聞いたらそうだって」

「おっお姫様!? ぬいぐるみの贈り物!?」

 茅峨は気持ち飛び上がる。ここクレオリア領は確かに王家統治だが、王宮だとかお姫様だとか茅峨にとっては遠い世界か本の中の話だ。


「私がいつも張り詰めていた時期、使用人が怯えるからあまり怖い顔をするなとリディアがくれた」

「おい姫を愛称で呼び捨てにすんな」

「可愛いものを見ていれば眉間の皺も緩むだろうと」

「ていうか、お前にそれって効果あったのか?」

「いや?」

「ねぇのかよ」

 だったらなんで茅峨くんに持ってきたのかと至極真っ当にロアンが抗議しているのを見て、嘉神が国のお客様なら彼に遠慮なく話してるロアンも大概なのでは……と茅峨は思った。


「当時の私は全てを警戒していたからな。けどリディアのそれは優しさだと思ったし、茅峨には響くのではと」

「お前のすげぇところは自分が響く心を持ってなくても他人には響くだろうと感じるところだわ……」

 二人のやりとりを聞きながら茅峨はウサギを見る。


(そういえば、誰かに何かを貰ったことなんてなかったな……)


 ウサギの目は大きなボタンになっていて、それはけしてつぶらな瞳とは言えなかったが、ゆるやかに茅峨を見つめているような気がした。


「ふふ……嘉神、ありがと」


 見上げて礼を言うと、嘉神は黒眼鏡の奥できょとりとしたあとロアンに口を開く。


「響いたようだぞ」

「ほんとかな〜〜茅峨くん、いいんだよコイツに気を遣わなくて」



.

.

.



 茅峨の心身ともに休養のさなか、あまり煩くしてもなんだというので、嘉神とロアンは一度部屋を退室した。後ほど食事を持ってきてくれるようだ。


 一人になった茅峨はベッドの上でこれからの事を考える。


 セレキには王都に行くという話をつけた。

 ……つけたものの、ここはクレオリア領土の外れの外れ。

 茅峨には旅の知識もなく、そもそも自分一人で生きていけるのかという問題だ。


 今までは態度の変わらない村人達が周りにいる中、ほぼ毎日同じ日課で過ごしてきたところに、唐突に全てが無くなってしまった。


 それは解放であったのかもしれないが、同時に“ここでぼんやりなんかしてないで、何かしていなくていいのか?”という焦燥感もふつふつと茅峨の中に起きてきた。


 今までは何もしていないと嫌味や叱咤をされたり単純に怒られたりしていたので、その焦燥は癖みたいなものだ。


 村ではその癖を回避するため、茅峨はいつも家事手伝いや畑仕事、備品の修繕やらなにかしら働いているようにしていた。

 が、むやみやたらに目を付けられないように、茅峨には逆に“出しゃばらない”という行動も必要だった。


 そうすると必然的に時間が空く。

 なら時間を潰そうかと外へ出ることもあるが、勝手に散歩に行くのはこれまた咎められるのでよくない。


「…………」



 だから今誰もいなくなってしまって、誰に伺いを立てるわけでも何をするわけでもなく。


 水汲みも畑仕事も配達もなく。

 ふと見上げた窓の外は青空で。



 天井でゆるやかに回るシーリングファンが空気を揺らしている。


『どうする?』

 自然の、穏やかな声がした。


「ん……なんでも出来そうなんだけど、俺ってさ、なんにも出来ないんだよね…」


 頭の中が静かにぐるぐるしていた。

 そして不意に思い出す。


 ――大火事の炎には術式があった。



「なんでだろう……炎は、セレキがやったのに……」


 セレキ、つまり体は茅峨だ。

 茅峨に術は使えない。


 大昔、人間は魔法が使えない代わりに術を編み出した。

 しかし術を使いこなすには専門知識が必要で、本をよく読んでいた茅峨でも、流石に術を発動させるレベルの勉強が出来る本は手元になかった、はずだ。


(それともセレキは少ない情報から術式を作ったとか……? でもセレキだって俺の頭の知識と共有してるはずだよね?)


 分からない。

 大体セレキの話す情報や茅峨に対しての煽りなど、どこまで本心で言っているのかもあやしい。



 ふとコンコンと扉がノックされ、今回も茅峨は間を開けず返事をする。

 すると嘉神でもロアンでもなく見慣れない白衣の青年が入ってきた。

 明るい茶髪に眼鏡をかけていて、人懐っこい表情をしている。


「おはよう! いやこんにちは? お加減はどうですか? お食事持ってきましたよ~」

「えっは、はい、ありがとうございます……?」

 茅峨が目を白黒させていると、白衣の青年は手に持っていた茶の袋をじゃじゃんと茅峨に差し出した。


「カフェのテイクアウトです。きみは一日中眠っていたし、胃に優しいスープ系がいいよね~とロアン先輩と話してたんですが、嘉神先輩が活動には炭水化物とたんぱく質は必須だろうとか言って。なのでスープとホットサンドです! 多ければあとで嘉神先輩が来るので押し付けちゃってくださいね」


 溌溂とした口調で青年は茅峨に語りかける。

 勢いのまま差し出された紙袋を受け取ると、中には大ぶりの海老とゆでたまごフィリングのホットサンド、野菜ポタージュのスープカップに、小さなボトルのミネラル水が入っている。


「僕は今朝に頂いたんですが海老がプリップリでとっても美味しかったですよ! おすすめです!」

 にこにこと青年は報告してくれる。戸惑う様子の茅峨を特に気にしていないことから、元々明るい性格なのだろう。


「そうそう、ちょっと西側の山中でまたキリオフィストが原石移送車を襲ったそうですよ! 恐いですよね~」

「は、はぁ……」

「物騒だし僕らの仕事のテリトリーには来ないでほしいものです。と、僕はリスケの関係で先にこの町を出ますが、あとは先輩二人になんでも頼っちゃって大丈夫ですよ。ロアン先輩はさり気なくコミュ強だし、嘉神先輩は何事にも動じない、シゴデキなお二人なんで!」


 そう言って眼鏡をかけた青年は片目を器用につむり、自分の顔の横で人差し指と中指で横向きのV字を作ってみせ、そのまま爽やかに部屋を出ていってしまった。


「ど、どうも……」

 茅峨の周辺には今までいなかったテンションの人物に、聞きなれない単語もポロポロ出てきて茅峨は暫くきょとんとしていた。


「せ、せっかくだし、貰おうかな……」

 後ほど嘉神も来てくれるということで、とりあえずポタージュを口に含む。

 裏漉しされた野菜とコンソメに加え、ほのかな甘みが優しく飲みやすい。


 コクコクとゆっくり飲んでいると、そう時間も空けず嘉神が部屋に顔を出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ