第8話「賢者の真意」
テルーナは、背筋が凍るような恐怖を感じながら、マリアを見つめた。 「どうして、ここに……」
マリアはゆっくりと研究室の奥へ足を進め、テルーナの手に握られたもう一冊の書物をちらりと見た。その口元には、冷たい笑みが浮かんでいた。
「あなたは賢い子ですね。私の言葉を鵜呑みにせず、自ら真実を探ろうとした。レオンハルトという、あの忌々しい異種族の生き残りにも会ったようですね」
マリアはテルーナの疑念をすべて見抜いていた。 彼女の口から語られる「レオンハルト」の名に、テルーナは驚きを隠せない。
「なぜ、レオンハルト様のことを……」
「すべてお見通しですよ。この王城に、私の目から逃れられる者などいません。彼は、あなたに何を吹き込みましたか?私が禁忌の力を復活させようとしているとでも?」
マリアの言葉に、テルーナは何も答えられない。彼女の沈黙は、マリアの疑念を確信に変えていた。
「ええ、その通りです。私は、古代魔法を完全に復活させようとしています。それが、この世界を救う唯一の方法なのですから」
マリアはそう言って、テルーナの前に立つ。その瞳には、狂信的なほどの情熱が宿っていた。
「この世界は、二つの黒に分かたれています。異種族は、その片方の力を奪い、もう片方を封印することで、世界を不安定にしました。私は、その封印を解き、再び力を一つにすることで、世界を安定させようとしているのです」
マリアは、かつての戦争は異種族が原因だと語る。しかし、レオンハルトは、戦争の原因は禁忌の力を封印するためだったと言っていた。どちらが真実なのか、テルーナにはわからなかった。
「そのために、あなたの力が必要なのです。あなたと、レオンハルト。二つの紋様が一つになったとき、禁忌の力の封印が解かれ、世界は再び安定を取り戻す。あなたは、世界の救世主となるのですよ、テルーナ」
マリアはテルーナを救世主だと呼び、優しい口調で語りかける。しかし、その言葉はテルーナを震え上がらせた。彼女は自分の力が、本当に世界を救うためのものなのか、それとも、マリアの野望を叶えるための道具なのか、再びわからなくなっていた。
「さあ、その書物をこちらへ。二つの鍵を揃えましょう」
マリアはテルーナから書物を取り上げようと手を伸ばした。 その手は、冷たく、テルーナの心を凍りつかせた。




