第6話「二つの紋様」
レオンハルトの言葉は、テルーナの心を激しく揺さぶった。賢者マリアの優しさと、レオンハルトの警告。どちらを信じるべきか、テルーナにはわからなかった。
テルーナが言葉を探していると、レオンハルトは静かに話を続けた。
「俺の紋様は、アリシア王国が建国される以前から、俺の一族に伝わるものだ。そして、君の紋様は、その片割れ。二つが揃ったとき、世界の真実が明らかになるという言い伝えがある」
レオンハルトはそう言うと、テルーナの背中に刻まれた光の紋様と、自身の紋様を重ね合わせるように、空中で手をかざした。すると、二つの紋様が淡く光を放ち、互いに引き寄せられるように共鳴した。
「マリアは、その力を使って、失われた古代魔法を完全に復活させようとしている。だが、古代魔法は、この世界を一度分裂させた『禁忌の力』でもある。彼女は、その危険性を理解していないか、あるいは、理解した上で利用しようとしている」
レオンハルトの言葉は、テルーナが抱いていた漠然とした不安を、確信へと変えつつあった。マリアは、自分を助けてくれる存在ではなく、利用しようとする存在なのかもしれない。
「なぜ、そんなことを知っているのですか?」と、テルーナは震える声で尋ねた。
レオンハルトは、遠い目をして答えた。 「俺の一族は、その禁忌の力によって故郷を失った。俺は、二度と同じ悲劇を繰り返さないために、この王城に潜入したのだ」
その言葉に、テルーナはレオンハルトが自分と同じ「銀髪赤目」を持つ異種族の生き残りであることを悟った。そして、彼の瞳に宿る、深い悲しみと決意を感じ取った。
「俺を信じてほしい。君の力は、世界を滅ぼすものではない。世界を救うための、最後の希望だ」
レオンハルトはそう言って、テルーナに手を差し出した。 テルーナは、その手をじっと見つめる。それは、マリアが差し出した手とは全く違う、強く、そして切実な手だった。




