第3話「王都への誘い」
マリアの誘いに、テルーナは一晩悩んだ。この村に残れば、自分の秘密はいつまでも隠されたままだ。しかし、王都へ行けば、この銀髪と赤い瞳が何をもたらすのか、その答えが見つかるかもしれない。
何より、背中の紋様が彼女を駆り立てた。それはもはや、自分の意志とは無関係に、彼女の運命を導こうとしているかのように感じられた。
翌朝、テルーナはマリアのもとを訪れ、王都行きを決意した。 マリアは満足げに頷き、馬車を手配すると約束した。
「王都には、あなたの好奇心を満たすものがたくさんあります。そして、あなたの才能を恐れる必要もありません。アリシア王国は、真実の扉を開く者を歓迎するでしょう」
マリアの言葉に、テルーナは希望を抱いた。 しかし、その言葉の裏に隠された意味を、彼女はまだ知る由もなかった。
テルーナが村を出発する日、見送りに来たのは、彼女の家族と、少数の村人だけだった。 村の入り口で、テルーナは振り返った。慣れ親しんだ故郷の風景が、遠ざかっていく。 その目に涙はなく、ただ、これから始まる新たな人生への決意が宿っていた。
馬車に乗り込んだテルーナは、窓の外を眺めていた。 その馬車の行く先を、遠くから見つめる者がいた。
昨日テルーナの前に姿を見せた、銀髪赤目の剣士・レオンハルトだった。 彼は、彼女の背中の紋様が放つ微かな光を感じ取っていた。
「あの紋様は、単なる古代魔法の印ではない。世界を分かち、そして再び繋ぐための『鍵』だ」
レオンハルトは、テルーナがマリアの思惑通りに動いていることに、警戒を強める。 彼は、彼女が真実の扉を開くために必要な存在だと直感していた。しかし、マリアの手に落ちてしまえば、彼女の力は世界を滅ぼす道具と化すかもしれない。
レオンハルトは、静かに愛剣の柄に手をかけた。 「俺は、お前を監視する。そして、真実を確かめるまで、決して見失いはしない」
そう呟き、レオンハルトもまた、王都へと向かう道を歩み始めた。




