第17話「港町ラニウスの噂」
港町ラニウスは、テルーナが今まで見たどの場所よりも賑わっていた。世界中から集まる船が行き交い、様々な言語が飛び交う。テルーナは、変装した自分の姿に少し安堵しながら、レオンハルトの後ろを歩いた。
町の中心部にある酒場に入ると、けたたましい喧騒が二人を包み込んだ。レオンハルトは、空席を見つけてテルーナを座らせると、自分はカウンターへと向かい、酒と料理を注文した。
「ラニウスは情報の集まる場所だ。ここで、マリアの動きを探ろう」
レオンハルトはそう言って、テルーナに小声で囁いた。 二人は食事をしながら、酒場に集まる人々の会話に耳を傾けた。
「聞いたか?王都で賢者マリアの計画が失敗したらしい」
「ああ、なんでも、銀髪の異種族の娘と、騎士の裏切り者が関わっているとか」
人々の噂話は、テルーナとレオンハルトの耳に、次々と入ってくる。 マリアは、王都で起きた事件の首謀者として、テルーナとレオンハルトを指名手配していた。しかし、マリア自身も、王都の貴族たちから、その計画の危険性について疑いの目を向けられているようだった。
「マリアの権力は、揺らぎ始めているな」
レオンハルトはそう呟き、テルーナに視線を向けた。テルーナは、不安そうにブローチを握りしめた。ブローチはまだ、光を放っていない。
そのとき、酒場の隅で、一人の船乗りが、奇妙な話を始めた。
「古代の地、トゥノワールの話を知っているか?あの地の中心には、世界を呑み込む『闇の渦』があるという噂だ」
その言葉に、テルーナとレオンハルトは顔を見合わせた。アルフレッドは、トゥノワールの中心地には、禁忌の力を封印するための場所があると言っていた。しかし、人々はそこを「闇の渦」と呼んでいる。
「闇の渦……?」
テルーナは、その言葉に胸騒ぎを覚えた。
「その闇の渦は、賢者マリアが長年探していた場所だ。彼女は、その渦の力を利用しようとしていたらしい」
船乗りの言葉に、テルーナの胸のブローチが、かすかに光を放った。 「マリアが、すぐ近くに…?」テルーナは驚いてレオンハルトに視線を送った。