第1話「銀色の髪と呪文の声」
テルーナ・ミシャフォルド
アリシア王国、辺境の小さな村・リニエ。 その村の片隅に、テルーナ・ミシャフォルドは静かに暮らしていた。
テルーナには、周りの人とは少し違うところがあった。月の光を反射して煌めく銀色の髪と、時折、感情の揺れとともに琥珀色から燃えるような赤色に変わる瞳。それは、この村ではめったに見られない特徴だった。
村人たちは、彼女の容姿に戸惑いを隠さず、遠巻きに見ていた。テルーナは、そんな視線から身を守るように、いつも古い図書室に引きこもっていた。そこは彼女にとって、唯一心を安らげる場所だった。
ある日、テルーナは図書室の奥にある、埃をかぶった戸棚から一冊の古びた書物を見つけた。表紙には、見慣れない複雑な紋様が描かれている。好奇心に駆られ、ページをめくると、そこには誰も読めない古代の文字が羅列されていた。
テルーナは、なぜかその文字をすらすらと読むことができた。彼女が幼い頃に偶然目覚めた、誰にも言えない秘密の才能。彼女は夢中になってその書物を読み進めた。
「これは、失われた魔法のレシピ……?」
書物には、失われたとされる古代魔法のレシピが記されていた。テルーナは胸を高鳴らせ、読み進める。そして、最後のページにたどり着いたとき、ある呪文が目に飛び込んできた。
『この呪文を唱えし者、真実の扉を開く。』
テルーナは無意識のうちに、その呪文を口にした。それは、まるでずっと前から知っていたかのように、滑らかに彼女の唇から紡ぎ出される。
その瞬間、書物が淡い光を放ち、テルーナの背中に熱い感覚が走った。 服の下からじわじわと広がる熱は、やがて紋様を描き、彼女の肌に刻まれていく。 そして、彼女の瞳が、これまでにないほど鮮烈な赤色に輝き、書物は静かにその光を失った。
熱が引いた後、テルーナは恐怖に震えた。 いったい、自分に何が起きたのか。 この書物が、自分を変えてしまったのだろうか。
「真実の扉……?」
その言葉の意味を、彼女はまだ知らなかった。 この日を境に、テルーナの平凡な日常は終わりを告げる。 それは、彼女自身の出生の秘密、そして世界の真実へと繋がる、長い旅の始まりだった。