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うちの近所にドラゴンが出るようになってしまいました。


一真かずま、元気ですか。恭ちゃんの写真、ありがとう。


 恭ちゃん、一ヶ月前に会った時に比べて物凄くお兄ちゃんになりましたね。早く会いたいです。ジィジもバァバも待ってるよ( ´ ▽ ` )


 ところで、遂にうちの近所にも鹿やアライグマだけじゃなくて、ドラゴンも出るようになってしまいました。


 お父さんがポチのお墓に植えたチューリップの苗が全部食べられてしまいました。


 悲しいです(T_T)


 今年も頑張って電気柵で畑を囲おうと思います。その時は、手伝って貰ってもいいかな。』



田舎の父、要一よういちからいつもの他愛もないlimeが来た、と思ったら、その文面に俺は目を疑った。


「は?え…。ドラゴン?!」


さらにスマホの画面をスクロールすると、住宅街をのっそのっそとドラゴンが歩く写真が添付されている。


「シュールだ…。」


俺は思わず呟いた。…じゃなくて!!ヤバいヤバい!!こんなの天災でしょ!


 急いでテレビを点けると、なんと地元の長閑な田園風景の右上に、


「 S県、丸山地区にドラゴン出没!」

とデカデカと出ているではないか。


 わざわざ東京のキー局から駆けつけたらしい美人なレポーターが興奮した様子で現場をリポートしている。


「こちらがドラゴンが出たという現場ですっ!あっ!住人の方がいらっしゃいました!


 ちょっとお話を聞いてみましょうっ!」


そう言って地元住人に美人レポーターはマイクを向けた。


(げっ!アレ、向かいに住んでる『ひいたん』じゃんっ!)


 ――ちなみにひいたんの本名はひかるさんである。


 見た目は裸の大将のような半ズボンに白いタンクトップのちょっと中年太りの近所のオッサンだ。


 近所の坂を自転車を引きながら

「ぷしゅんっ!ぷしゅんっ!」

と独り言を言いながら歩いている。


 この前挨拶をしたら謎なくらい鼻の穴をこっぴろげながら鼻くそをほじっていた。


 今は『胸騒ぎひかる』という名前でイラストレーターとして活動している。


 妻の摩耶まや

「ひかるさん、『胸騒ぎひかる』じゃなくて、絶対『タンクトップ太郎』の方が合ってるよ。絶対改名した方がいい。」

と真面目に言っている。


 ちなみにイラストの作風はファンシーでヨンリオのキャラクターのような感じである。息子の恭弥きょうやは結構気に入っている。


 リポーターにインタビューされたひいたんは、鼻くそを穿りながら、


「あー、そうそう。最近ドラゴンが出るようになったんだわ。この前役場の人が来て、バードピンを設置してくれたんだけど、全然効果がなくって。」


と田舎のオッサン丸出しで答えている。


「ちなみに、今までにどんな被害がありましたか?」


レポーターが真剣な顔で質問すると、ひいたんが、


「うーん、ドラゴンが息吐くと、結構な強風になんのよ。この前築48年の家に住むお婆ちゃんの家の屋根が飛ばされて大変そうだったわ。


 あと2匹いるうち1匹は特に何もしてこないんだけどさ。1匹は結構凶暴なんだよね。


 早く駆除してくれると助かるんだけどね。」


と言った。


 レポーターが『現場からは以上ですっ!』と告げるとスタジオに映像作品が戻る。


「それでは専門家の意見を伺ってみましょう。今日お越し頂いたのは慶産大学教授、米田さんです。


 米田さん、最近のドラゴンの被害について、対策などは何か出来るのでしょうか。」


ベテランのアナウンサーが真剣な顔で尋ねている。


「うーん。そうですねぇ。ドラゴンは今の所鳥獣保護の観点から捕獲するのに申請が必要でして。


 とりあえずドラゴンは鳥のような特徴の他に爬虫類の性質も待ち合わせています。


 なので、蛇等が大変嫌う、木酢液やクレゾールを気になる所に噴射しておくと向こうから近寄ってこないかと思われます。」


「ありがとうございます。ちなみにもし遭遇してしまったら、どういう対応をするのが妥当でしょうか。」


「うーん、そうですねぇ。とりあえず、気付かれないようにそっと距離を取るのが一番ですが、気付かれてしまった場合は落ちついて、静かに後退してください。」


(え、でもデカいドラゴンだったら一瞬で距離を詰められちゃうのでは。)


と、内心テレビにツッコミを入れる。


 ちなみに俺は車で30キロくらい先の町で、役場の職員をしており、主に農林課で鳥獣の被害の対策に携わっている。だから電気柵を張るのもお手のものだ。


(こりゃやべぇな。週末、心配だから両親の様子でも見に行こう…。)


そんなことを思うのだった。


◇◇


「おお、一真っ!元気か。恭ちゃーん、ジィジだよ。こんにゃろっ!」


父、要一は嬉しそうに恭弥を抱っこする。


「お義父さん、ドラゴンの件何だか大変そうですね。あ、これお土産です。皐月堂のどら焼きです。中に栗と求肥が入ってて美味しいですよ。」


摩耶がお土産を渡すと、父は嬉しそうに破顔した。


「何も気を遣わなくても良いのによぉ。」


そう言いながら早速どら焼きを食べた。


「おおっ!ウメェな!おーい、母さんっ!茶ー入れてくれーい。」


「うるさいよっ!ジジイッ!お茶くらい自分で入れなっ!」


母に怒られた父はシュンとしながら自分でお茶を入れた。


「父さん、畑は今の所どうなってんの?」


「いやー、それがよ。苗とかも結構食われちまって。今年は綺麗に咲いたチューリップでポチも墓ん中で喜ぶと思ったのによ。


 本当やんなっちまうよなぁ。」


そう言ってため息を吐いた。


「お父さん、ドラゴンに一泡吹かせるっ!とか言って窓からBB弾撃ったんだけどね。


 窓ガラス開けないで撃っちゃってさ。


 ガラスがバリバリに割れちゃって。


 修理費に五万もかかっちゃって。本当やんなっちゃったわよ。


 今度やったら覚悟しなっ!ジジイッ!」


そう言って母もため息を吐く。


 2階に行って窓を見たら本当にバリバリに割れていた。一応ビニールと養生テープで簡単に留めたみたいだ。親父、色んな意味で大丈夫だろうか。


「…ちなみに、BB弾撃ってドラゴンはどんな反応してたんですか?」


摩耶が聞くと、


「なんか、鼻くそでも沸いたような顔しやがってよ。何でも無いような顔してキュウリの苗食いやがったんだわ。まじで腹立つわ。」


そう言って父は憤っている。


「…怖くないんですか?」

摩耶が眼を見張る。


「うーん、まあ怖がっても、来るもんはもう来るしよ、仕方ねぇからよ。


 とりあえず畑に入ってこれねぇように電気柵張るしかねぇだろ?」


そう言って、長持強ながもちつよしの『センパイ』を歌いながら湯呑みを洗い出した。


 そもそも電気柵なんてドラゴンに効果があるんだろうか。まあ、去年シカ対策に購入したものが物置にあるから気休めでも張るのは手伝うが…。


 オヤツのあとは父とポチの墓に手を合わせてから2人でせっせと電気柵を張る。


 なお、恭弥と摩耶は万が一ドラゴンに遭遇すると危ないので家の中で遊んでいてもらっている。


 母に最近おもちゃの滑り台を買ってもらった恭弥はご機嫌である。


(しかし、電気柵張るのも一日掛かりだなぁ。)


普通の動物ならイチコロの品物だが、あまりドラゴンに効くかはわからない。


 猟友会の人達に討伐申請に許可が出たら退治して貰いたい所だが、そもそもドラゴンを倒せる銃なんてあるんだろうか。


 そんなことを考えていると、急に周りの風景が暗くなり影が落ちてきた。


 顔を上げると、なんと上空にバサーっと羽を広げたドラゴンが飛んでいるではないか。


(でかいっ!こんなのに喰われたら一溜まりもないぞっ!!)

 

俺の背中に嫌な汗が流れる。


「おうおう、今日もジョリコのやつ元気に飛んでんなぁ。」


(は?)


父は麦わら帽子をクイッと上げて上空を見ている。


「じょ、ジョリコ?!親父、ドラゴンに名前つけてんの?!可愛がってんじゃねーよっ!」


思わず焦ってツッコむと、父は首を振る。


「いや。アイツは良いドラゴンだ。もう1匹オスのクズ太郎っていうドラゴンがいるんだけどよ。まあ俺が付けた名前だが。


 ソイツの方が畑の苗とか食ってくんだわ。


 俺が怒ってたらジョリコが一回クズ太郎をぶっ飛ばしてくれてよぉ。


 しかも俺の畑に被害が出ないように上空でやってくれたんだわっ。


 ありがたかったから、この前賞味期限切れた肉が余ってたから分けてやったら懐かれちまってようー。なんか可愛くなっちまったんだわ。」


そう言ってニコニコしている。


「餌付けしてんじゃんっ!やめろや親父っ!」


俺がそう言うと、父はブンブン首を振る。


「いや、ジョリコは俺の用心棒だ!


 それに、アイツ、肉のお礼にどこから取ってきたのかわかんねぇ金塊とか沢山色んなもの屋根の上に置いてってくれるんだわ。一回だけ人骨置いてったから、びっくりしたけどよっ!


 警察に連絡したら、パトカーいっぱい来てびびっちまったよ!」


き、金塊に人骨だとー!?!ドラゴン半端ないな!


とりあえず電気柵を設置し終えた俺は、実家を後にすることにした。


「また来いよな!!」


そう言って笑う父に俺はなんとも言えない不安を覚えたのだった。


◇◇


 ――数日後。


 ニュースを見ると、今度は

『S県、丸山地区に熊、大量出没!』


と出ている。


(ちょっ!!ドラゴンの次はクマかよっ!!どうなってんだ!俺の地元!!)


そんな事を思っているとテレビ画面にはデカデカと丸山地区が映し出された。


 なんと、画面に映っているだけで5匹のクマが、畑を荒らしている。


「あーっと!!鎌を持った七十代くらいの女性に!クマが近づいておりますっ!!


ヘルメットをかぶったレポーターが驚愕の声を上げている。


(…え?!あれって…。)


「お袋っ!!」


俺が思わず声を上げたその時だった。


「うおーい!!ばあさーん。」


すると、画面の端の方からジョリコがバサバサと飛んでくるのが映っている。


 ――その上にはなんと、父、要一が乗っている。


 俺は震えながらテレビを固唾を呑んで見守る。


「ジョリコー。あの熊からばあさん守ってやってくれーい。」


 ゴオオオオオオオオオ!!


 すると、ジョリコを火を吐きながら熊5体に向かってブレスを発射した。お袋はなんとか逃げ切ったみたいだ。


(よかったあああああ!!)


「なんということでしょうっ!!ドラゴンの上に七十代くらいの男性が!!男性が乗っています!!」


レポーターが興奮して捲し立てている。


 ジョリコは斬撃を繰り返すと熊を全て惨殺した。


「あ、今、男性がドラゴンから降りてきました!ちょっとインタビューしてみましょう。


 こんにちはっ!帝国テレビです!

 お名前伺ってもいいですか?!」


レポーターが興奮して父にインタビューしている。


「あ?オレか?鈴木要一!!71歳!!」


「鈴木さん!どうやってドラゴンを手なづけたんですか?!」


その言葉に父は顔を顰める。


「あ?別に手なづけてなんていねぇよ。コイツは俺の相棒だ!なっ!ジョリコ!!」


父がそう言って笑いかけると、ジョリコが嬉しそうに咆哮した。


 グルオオオオオオオオオ!!!


「そ、そうですか。現場からは以上です。」



――こうして、父はこの国で最初のドラゴン使いとして名を馳せ、クマの撲滅に貢献した。


 人と、ドラゴンが共存出来るようになってからは、害獣の被害が大幅に減ったのだった。



 おしまい。

この作品は何ヶ月か前に書いてボツにしていたのですが、クマの被害が減るのを祈って短編として放出することにしました。

少しでもクマの被害が減りますように。ちなみに、一回峠を車で夫と走っていた時、車体にクマがしがみついてきた事があります…。

離れるまで待って急発進しましたが、寿命が縮みました((((;゜Д゜)))))))

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