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第9話 回想(リシュ目線)②

 俺が集まっている人々の隙間からそこを覗くと、そこでは並べられている料理を皿の上にこれでもかと乗せて食べている女の姿があった。


 (何だあれは……あれがフルール嬢だって?)


 大食いゆえの締まりのない身体。

こんな身体でダンスを踊れるのか……?

そもそも、夜会に来てまでこんなに料理を大食いするなんて恥じらいというものがないのだろうか。

今からあれにダンスを申し込まなければならないなんて……。

俺は少し身震いをしたが、この依頼を実行しなければアルベール公爵に紹介してもらえなくなってしまう。

俺は、その場から少し離れ大きく深呼吸をした。

そして意を決して、フルールに近づいた。


「フルール様。お久しぶりですね」


 俺が爽やかな笑顔でそう言うと、フルールはすごくびっくりした顔で料理を食べる手を止めた。

そして、口の中の食べ物でむせそうになっていた。


 (本当に下品な女だ……)


 こちらが恥ずかしくなり、すぐにでもこの場から去りたくなったが、アルベール公爵の娘ルイーズに会うためだと自分に言い聞かせた。

なるべくフルールを見ないようにしながら、俺は作り笑顔で話を続けた。

フルールは、俺が自分を探していたと聞くと少し頬を赤らめている。

そんな姿を内心笑いながら、俺はフルールをダンスに誘った。


「私のダンスのお相手になっていただきたく、お願いに参りました」


「……」


 極めつけの俺の爽やかな笑顔で、フルールの思考は完全に固まってしまったようだ。


 (ふん。ちょろい女)


 その後、我に返ったフルールに俺は仕方なく右腕を差し出し、ダンスフロアへ向かった。


***


 ダンスくらい多少はたしなんでいるだろう……。

そんな俺の思いはすぐに打ちのめされた。

フルールは、全くダンスを踊れないようだ。

仮にも伯爵令嬢なら、簡単なステップくらい覚えてこいよ。

ダンスのダの字も知らない女をリードするのは苦痛だ。

ターンを決めるたびに足を踏まれる。


「痛っ……」


 もう何回目だよ。

謝るフルールにひきつった笑顔を向けながら、俺は早くダンスを終わらせたいということしか考えていなかった。



 やっとダンスが終わり、俺は息も絶え絶えなフルールを上から見下ろしていた。


 (二度とお前なんかと踊らないからな)


 最後に慈悲で飲み物を持ってきてやろうと言ったのに、フルールは庭で休憩すると言う。


 (俺の役目はもう終わりだ。いつものように可愛らしい令嬢たちに囲まれて気分を変えよう……)


「では、私はこれで」


 もう爽やかな笑顔などそこにはなく、俺はクールな視線をフルールに向けてその場を後にした。

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