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第6話 不思議な少年

 盛り上がる話は、さらに加速していく。


「そういえばリシュ様、足を少し痛めているようですが大丈夫ですの? まさか、足を踏まれたのですか?」


「ええ。あんなにダンスが下手な令嬢に会ったのは初めてですよ。何回もあの巨体に足を踏まれて……。嗚呼、思い出すのも嫌だ。あっ、この話はここだけの内緒話にしてくださいね」


 リシュが困った声でそう言うと、令嬢たちがまた私の悪口を言い始めた。


「食べすぎなんじゃありません? ダンスの前にもかなりの量のお料理を食べていましたから。全く。恥ずかしくないのかしら」


「女としての恥じらいがないなんて、嫌ですわ。おほほほ」


「リシュ様のお相手として最も相応しくないですわよね」



 (何よ。みんなで寄ってたかって……)


 私は、リシュと令嬢たちの会話をこれ以上聞いていることが出来なかった。

令嬢たちの悪口よりも、リシュの本心を知ってかなりショックを受けたのだ。

知らず知らずのうちに涙が次から次へと溢れてくる。

憧れの人とダンスが出来たという幸せな気持ちは、私の元からもう去って行ってしまった。


 私は、城の中に戻りたくなくて再び庭のベンチに座った。

涙で視界がぼやけて何も見えない。

憧れていたリシュからの酷い言葉の数々に、とても耐えられそうになかった。


「ううっ……リシュ様、私のことあんな風に思っていたなんて……ひどいわ……ううっ」


 爽やかな笑顔の裏の顔を知ってしまった事への怒り、悲しみ。

涙が枯れるほど泣いた私は、だんだんとリシュに対して憎悪の気持ちを抱いていった。


「許さない……」


 私が思わずそう呟いた時、私が座るベンチの横に誰かが立つ気配を感じた。

ふと横を見ると、まだ少し幼さが残る少年が立っている。

少年は、泣き顔の私を見て驚いたような顔をして言った。


「どうしたの? お姉さん。泣いてるの?」


「えっ……?」


「あっ! さっき料理をたくさん食べていたお姉さんだ!」


「うっ……」


 見知らぬ少年に大食いを指摘され、私はまた泣きそうになった。

しかし、少年のほうはすごく嬉しそうに私に話し掛けてくる。


「城の料理、美味しいでしょ! 僕も大好きなんだ! だからお姉さんが料理をいっぱい食べてくれて嬉しかった。あんなに美味しいのにいつもみんな少ししか食べないんだもん」


「……」


 私が少年の言葉に何も返せずにいると、少年は辺りを見回し始めた。


「ちょっと待ってて。この辺りにあるはずなんだ……」


 (……?)


 何かを探している少年の姿を、私はじっと見つめるしかなかった。

すると、少年は探していたものがあったようで笑顔で振り向いた。


「あった!!! ほら、この花綺麗でしょ。

庭師のトムが大事に育ててるんだけど、今日は特別。お姉さんにあげるね」


 少年はそう言うと、私の巻いた髪にそっとピンク色の花を飾ってくれた。


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