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いらっしゃいませ
鏡の前に立つ。
そこに映る、形の定まらない影を見つめる。
紺色のローブを羽織り、フードを深く被る。
はじめて、“人の形”となる。
彼が営む店の名は「Phantom」
それは苦難を抱えた者の前にのみ現れる。
客は現れた扉を前にして、誘惑に抗えず吸い込まれる様に入店する。
さて、今日はどんなお客様がおいでかな?
私の名はヨスガ。
少なくとも、そう“名乗って”いる。
趣味で始めた宝石店は、お陰様で、大繁盛とは言わないまでも、まぁ、悪くない。
いつ、何処で、店の扉に出逢うかは客次第。
「御縁」というわけだ。
冒頭にもあるように、私は「人」ではない。
「人」の形をした影を想像してくれれば、それでいい。私に関する話をすると長くなるから、それはまた後ほど。
カラン、キン、コン…
ほら、お客様だよ。