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4-06 「誰でもいいからエッチしたい!」

「ラブコメ小説やマンガの主人公はバカじゃないのか? 僕だったら絶対エッチなことをするのに」

いつもチャンスを逃す主人公たちに、イラつきを覚えていた田中真たなかまこと

そんな真は高校生になり、同級生の利香と付き合うことになる。

デートを重ねるうちにエッチなことができるのではと期待していた真だが、実は罰ゲームの相手として選ばれていただけだった。

誕生日デートの約束をした当日、その事実を知り絶望する真。

失意の中、帰宅途中の電車で、やけくそな気持ちから痴漢被害に遭っている同級生を助ける。その同級生は三年前に突然疎遠になった幼なじみ・佐々木夏希だった。

学校では誰もが認める礼儀正しい優等生の夏希だが、真の前では昔のようにじゃれつく困った幼なじみに早変わり。

真の部屋でベッドに横たわる夏希。

果たして、真は「誰でもいいからエッチしたい」という願望を叶えるのだろうか?

【ごめん。せっかく今日はまことの誕生日なのに、体調が悪くて無理。】


 僕の名は田中真。これは彼女である園田利香からのメッセージだ。

 文面からも僕の誕生日を楽しみにしていたのが伝わる。

 だからこそ、体調を崩し一番悔やんでいるのは利香だろう。 【分かった。ゆっくり休んでね】と返事をする。


「まあ、せっかく外に出かけたんだから、どこか遊びに行くか」


 そんな強がりが僕の口から漏れる。

 勢い余って、一時間も早く待ち合わせ場所に来ていたのも良くなかった。

 たぶん、利香も僕がまだ家にいるのだと思っているだろう。

 

 今日は楽しくデートをして——良い雰囲気になったらあわよくば、と期待していた。

 あれだけ二人で今日の計画を立てて盛り上がっていたのだ。そりゃ、色々と期待するだろう?


 僕は常々、マンガや小説の主人公、特に男は本当にバカなんじゃないかと思っていた。

 男子高校生なのに、目の前に女の子がいてチャンスなのに、エッチなことをしないなんて!

 どう見てもヒロインは主人公に好意を抱いているのが分かるのに、二人きりという絶好のシチュエーションなのに。年中賢者モードなのか? と思うくらいにチャンスを逃してしまう。

 そんなシーンを見るたびに、心の中で叫んだものだ。


『ありえん! なんでそこで手を出さないんだ!?』


 僕は決心する。もし、そんなシチュエーションに遭遇することがあれば、ヘタレ主人公のようなマネは決してしない。誰でもいい、高校生になったことだし絶対にエッチなことをしてやると。

 

 そんな願いが通じたのか、僕は高校入学とほぼ同時に同学年の利香に告白された。それから付き合い、僕も好きになりチャンスがやってきた。


 そう思っていた。


 いや、今日はダメでも次こそは、きっとチャンスがある——道を歩きながらそう思っていた矢先のこと。


「あれ? あそこにいるのは……」


 道の向こうに僕の彼女である利香を見つけた。だけど、その隣には男がいて一緒に仲睦まじく歩いている。

 その密着した様子はどう見ても友人関係ではなく男女のそれで、僕はパニックに陥った。


「あっ! 真……くん……?」


 お互いに接近し、利香も僕に気付く。


「利香……? なんで? 今日は体調が悪いって連絡、さっき……」

「あ、えっと、これは違っていて」


 もしかして、浮気、だよなあ。

 利香とくっついて歩いていた男が僕を見て笑う。


「あっ、もしかしてコイツが罰ゲームの相手の田中クンなの? 噂通り童貞君って感じだな!」


 その顔立ちに見覚えがあった。サッカー部の先輩で、学校内でもとても人気がある爽やかイケメンだ。


「なっ、何言っているの! 違うの。これは——」


 何か言いかけた利香の言葉を遮り、先輩は続けた。


「いやいや、俺たちさ、さっきまで利香と散々エロいことしてたんだよね。そうだろ?」

「……でもっ、違うの」

「利香、もういいって。お遊びはおしまい」


 先輩と利香の言葉、そして状況から理解した。利香は先輩と特別な関係で、僕のことを弄んでいたのだと。

 しかも、なんだ『罰ゲーム』って。

 じゃあ、僕に告白してきた利香は最初から騙すつもりだったのか?

 ラノベの主人公なら力強く言い返したり利香を問い詰めるのだろうが、僕は想像以上にヘタレだったようだ。情けない言葉が口から漏れる。


「そ、そうですか」

「そういうこと。お前みたいな童貞君を利香が相手にすると思っていたの?」


 返す言葉もない。確かに、見た目は不釣り合いだと思う。

 でも、そういうことを気にしない女の子だと思っていたんだけどな。


「じゃあ、童貞クン、僕たちはこれからもっと楽しいことしてくるから。バイバーイ」

「……」


 そう言って、二人は去って行った。利香は僕の方に目をくれず、無言のままだった。

 ポツンと取り残される僕。


「最悪だ……家に帰る……か」


 もう、街をぶらつく気力さえ失った僕は、そうつぶやいて帰ることにしたのだった。



 ——カタンカタン。電車に揺られながら、さっきのことを思い出す。


『俺たちさ、さっきまで利香と散々エロいことしていたんだよな』


 あの爽やかイケメンの発言を思い出すだけで腹が立つ。

 僕と利香は付き合っていたはずなのに、よりにもよってあんな男に奪われるとは。


 あー、マジでムカつく! 失望感が怒りに変わり、ひたすら悶々とし続けていた。


 そんな時のことだ。


 ふと車内を見ると、僕と同じ高校の制服を着た生徒の集団が座っているのが目についた。

 女子生徒が多いが、男子も少し混じっている。連れ立って学校に向かう途中なのだろう。

 休みなのに大変だな。


 そんななか、一人離れて立っている制服姿の女子もいたが、様子がおかしい。

 後ろにスーツ姿の男が立っているが、妙に密着していた。

 痴漢されている? その女子は、なんだか辛そうな表情で今にも泣き出しそうだ。男の空いた手は、スカートの中に入っていて何やらゴソゴソ動かしているように見える。

 間違いない、痴漢だ。


 正義感とかそういうものでもないし、同じ学校とはいえ女の子を助けようと思った訳でも無い。

 半ば、ヤケクソになっていたし、怒りをぶつける相手が欲しかった。僕は二人に近づく。


「……あのー、ちょっといいですか? そういうの、やめた方がいいですよ」


 僕の言葉に、スーツ姿の男はびっくりしたようだ。

 けれど、すぐに気を取り直したようで女子の背後から離れた。


「チッ」


 男は舌打ちするとそのまま去っていった。


「逃がすか!」


 追いかけようとしたところで、痴漢されていた女子生徒にぐっと手を引っ張られる。彼女は震えながらも僕を見上げていた。

 よく見ると、どこかで見たことがあるような?


「大丈夫?」


 こくりと頷く女子。長い黒髪を束ねるリボンが揺れ、良い香りがした。


「……真さんに助けて頂いたので。ちょっと待っててください」

「へ?」


 戸惑う僕を置いて、その女子は席に座っている同じ制服の集団に向かっていった。

 その中にいた、生徒会長らしき人物に話しかけている。


「あら夏希さん、どうしたの?」

「——あの、すみません。今日体調が悪くて、生徒会の仕事は難しいです」

「確かに顔色が悪いね、無理して来なくても良かったのに」

「いいえ。生徒会の仕事は大切なものですし、やりがいがあります。なので残念です——」


 そんなやり取りが聞こえた。

 痴漢されていた女子の名は佐々木夏希だ。クラスメイトであり、生徒会の委員をやっている。同時になんと、僕の幼馴染みでもある。

 こうやって直接話すのは3年ぶりくらいだろうか。


 家が隣同士なので互いの両親の仲もよく、小学校までは互いの家に行って遊んだり時にはそのまま泊まるような関係だった。

 しかし、中学に入学してからは一切の交流がなくなり、話すこともなくなった。そのため、僕は嫌われたのだと思っていた。

 それがなぜか同じ高校に入学し、同じクラスになってしまったのだ。それでも会話はしていないわけだけど。


 他の生徒会らしき生徒と話す姿は可憐で、礼儀正しく、まさに才色兼備といった印象。

 僕が抱く夏希のイメージと真逆だった。


「真さん、お待たせしました。じゃあ、一緒に帰ってください」

「えっと、うん」


 僕はワケも分からないまま、夏希に手を引かれ次の駅で降りる。夏希は僕の隣の家に住んでいるので、家に帰るのなら同じ方向だ。


「久しぶりですが真さんの家で休ませて下さい」

「なあ、その言葉使いどうしたんだ?」

「いつもと変わりませんが?」


 三年ぶりとはいえ、昔は呼び捨てだったのが今は丁寧語になっていることに強い違和感を覚える。

 その後は無言のまま歩き、夏希は言葉通りに僕の家まで来てしまった。


「おじゃましまーす。やっぱり、真の両親はいないね!」


 急に砕けた言葉使いになり、本性を現す夏希。


「夏希、ちょっと待って」


 勝手知ったる我が家のように、さっさと僕の部屋に向かって行ってしまった。

 先ほどの凜とした態度や敬語は完全になくなり、心なしか足取りも軽く見える。


「ああぁ。やっぱり落ち着くよぉー」


 僕の部屋に着くなり夏希はブレザーの上着を脱ぎ捨て、胸元のリボンを外して放り投げるとベッドにダイブする。

 電車にいた生徒会のメンバーは、こんな姿を見たら卒倒するかもしれない。


「おい、夏希?」


 声をかけるも、うつ伏せになり、足を少しばたつかせてから僕の方を見る夏希。かつて僕が知っている夏希そのものだ。

 しかし、高校生になった今……色々とあの頃と違う。スカートが少しめくれ、はみだした白い足が艶めかしい。加えてシャツだけになり、大きな胸の膨らみがその存在を主張している。


「真もおいでよ。昔みたいに」


 出た。小学生の頃ベッドの上でくっついて甘えてきた夏希。当時はなんとも思わなかったし、鬱陶しいと感じていた。でも、高校生になった今、男女がベッドに並んで寝転ぶというのは凄い魅力がある。

 これって……僕の本懐を遂げるチャンスなのでは?

 夏希のことは嫌いじゃないし、話すのは三年ぶりなのに夏希も満更じゃなさそうだ。


「そうだな。昔みたいに」


 僕がベッドに近づこうとしたとき、脳裏に利香の顔がちらつく。

 あんなことがあったとはいえ、まだ正式に別れていない。この状況は浮気だ。止めないと僕は最低の奴になってしまう。

 でも……。


「ん? どうしたの? おいで〜」


 両手を広げて、待ちわびている夏希。

 僕はベッドに近づき………

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