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98話 迫りつつある世界の危機

 「君は、冒険者か……?」


 武装した集団を率いる男性が、やや困惑した様子で声をかけてくる。


 「はい。これでもシルバーランクです」


 リリィは冷静に答える。嘘ではないことを示すため、冒険者カードを見せた。

 しかし、視線を少しずらすと、足に大怪我をした黒いローブの女性が、小部屋から引きずり出されているところだった。


 「これは、いったい何があってこんなことを?」

 「君は彼女の知り合いか? 悪いことは言わない。すぐに帰りなさい」


 リリィがシルバーランクの冒険者だからか、相手は敵対的な姿勢を見せずにいた。

 厄介事を避けるなら、はいわかりましたと言ってさっさと立ち去るのが賢い選択なのだろう。

 だが、リリィの白いウサギの耳は聞いてしまった。


 『……やれやれ、世界が終わるという時に、あの子たちも運がない』


 意味深なことを呟く女性。

 そしてその女性を罪人のように扱い、捕らえている集団。

 これはもう、無視しようにも無視できない。気になって仕方がない。

 リリィはいつでも動けるよう足に力を入れつつ質問をする。


 「さっき会ったばかりです。怪我してるので、代わりに水を汲んで、お駄賃を貰った程度です。あの人は、地上で何かやらかしたから捕まってるんですか?」

 「……もう一度言う。帰りなさい」


 どうやら、捕まえた理由を話してくれそうにはない。

 多勢に無勢。

 戦闘になれば危険過ぎるので、リリィはため息混じりにその場を離れる。

 しかし、ウサギの耳は小刻みに動いていた。

 ある程度進み、曲がり角で一度立ち止まる。


 「上じゃなく、下に向かうのか……」


 足音、金属音、それらは遠くからでもよく聞こえる。集団であれば、なおさら。

 リリィは追跡する気でいたが、その時、サレナがやって来た。


 「あれ、セラとレーアは?」

 「依頼を優先してる。あたしは、勝手に単独行動をする誰かさんを支援するために来た」

 「ちょっと物音立てずに一緒に来てくれる?」

 「……危険なことに首を突っ込むのは避けるべきだと思うが」


 サレナは黒ウサギな獣人。

 当然、ウサギの耳によって謎の集団とリリィのやりとりを聞いていた。

 だからか、警戒を強めている。


 「まあ、やばくなったら逃げるだから」

 「あたしたちはここに来たばかり。地の利はないぞ」

 「わかってる」


 ダンジョン内部において、白黒ウサギの二人による追跡が始まった。

 声を出さず、音を立てず、静かに追いかける。

 モンスターは二人を狙わず、集団の方を優先するため、無駄な戦闘はせずに済む。


 「……追いかけて、そのあとどうするんだ?」

 「……臨機応変に対応する感じで」

 「……はぁ、行き当たりばったりか」


 ローブの女性を捕えた謎の集団は、地下十一階に到着すると、移動をやめて話し合いを始めた。

 すかさずリリィとサレナは、耳をすませる。


 「ふぅ、あんな小さい子どもがシルバーランクか」

 「現地のギルドのお偉いさんのコネ……も考えたが、無傷で地下十階にいる時点でそれなりの実力があると考えていい」

 「世の中は広いな。そういう奴と戦わずに済んでよかったよ」

 「ま、うちの隊長がちゃんとしてるからな。短気な乱暴者じゃ、今回の任務はこなせない」

 「お前たち、雑談はほどほどに。数は少ないとはいえ、まだ他の冒険者がいる階層だ。……冒険者が近づかないよう、散らばって見張りを」

 「はっ」

 「了解です」


 軽い注意のあと、雑談は止まった。

 そしていくつかの足音が散らばっていったあと、隊長と呼ばれていた人物と足に大怪我をしている女性が話し始める。


 「ふぇふぇふぇ……いたいけな婦女子を力ずくで連れ去るとは、恐ろしい殿方もいるものだねえ」

 「サーラ。魔族であるあなたに聞きたい。……あちらの世界は、何を考えている?」

 「質問の意図がわからないよ。もっと、わかりやすく」

 「………この世界への侵略は、未だに行われているのか?」


 まさかの言葉を耳にして、盗み聞きしていたリリィとサレナは顔を見合わせる。

 流れからして、魔界がこの世界を侵略するというわけだ。それはどういうことなのか?

 気になるものの、隠れ続けるために会話はせず、盗み聞きを続ける。


 「わかっているだろうに。ダンジョンは消えず、宝箱から手に入る魔界のアイテムは、地上に運ばれていき、異なる世界同士を少しずつ馴染ませていく。やがて、二つの世界は一つになる」

 「……どうすれば止められる」

 「前も言った。この世界からでは打つ手はない。魔界に行けるなら話は別だけどね」


 ガン!


 ダンジョンの壁を金属の小手で力任せに殴ったのだろう。大きな音が鳴り響く。

 それを聞いて、散らばっていた者たちはひそひそと話すが、まだ隊長と女性の会話は続いた。


 「……サーラ。あなたは、魔界に通じる門を開けることができるはずだ」

 「できるよ。一度に数分。そのあと数日の休息が必要だけど。でも、そんなちっぽけな門で攻め込むつもりかい? 返り討ちにされるだけだよ、レオン坊や」


 サーラとレオン。どうやら二人は旧知の仲であるようだ。

 ただ、それはどこか奇妙な関係でもあった。


 「南部諸国の方で、災害が起きた。住宅街にいきなり別の建造物が空間から現れ、崩壊と融合が入り混じった状態となり、多くの人々が亡くなった」


 真剣な声だった。焦りもあった。


 「おやおや、時間がない、か。一ヶ月か二ヶ月か。それくらいの時が過ぎれば、世界が混ざり合い、さらに大きな被害が出るだろうね。特に、このイドラという島は世界で最も深いダンジョンがある。島自体がなくなるかもねえ」

 「…………」

 「はっは、そう怖い顔をしないでおくれ。幸い、ここは島だ。海に避難すれば、世界が混ざり合う災害からは逃げられる。その後を考えると、とても大変なことばかりとはいえ」

 「被害を防ぐために手伝う気は?」

 「あるよ。長くこちらの世界で過ごしたんだ。多少の愛着はある。とはいえ、打つ手がないから、ダンジョンの中で終わりの日を待つだけの暮らしだけども。おかげで、やんちゃなバカに襲われたりするのが、ちょっと面倒だね」


 結局、どうすることもできないのか、謎の集団は全員が集まると、来た道を戻り始めた。

 リリィとサレナは急いで近くの小部屋に隠れると、小声で話し合う。


 「……どう思う?」

 「……あたしに聞かれても困る」

 「……国の次は、世界がやばい」

 「……言ってる場合か」


 大勢の足音が遠ざかったあと、リリィは考える。

 世界が危ない。

 それをどうにかするには魔界に行くしかない。

 自然と、ソフィアのことが思い浮かぶ。

 アルヴァ王国からの協力を得て、魔界に繋がる門を作り上げた。

 彼女ならば、何かよさげな考えを生み出せるのでは?

 ただ、肝心の本人がどこにいるかわからない。


 「まあ、今はこなせる依頼をこなしていくだけか」

 「お金に、名声。それらが貯まれば、色んな手段は使えるようになる。高価な魔導具を借りることだって」

 「ふむふむ。遠くと連絡できるものとかあったし、いっそ国王や王女のロジーヌに連絡を取るのも」

 「いきなり一国の権力者と連絡するとか、悪目立ちしそうだ」


 目的は増えたが、やることは変わらない。

 冒険者として、ギルドの依頼をこなすだけ。

 その合間に情報集めをする必要はあるものの。

 二人は地上に戻り、ギルド内部の酒場で待っていたセラとレーアを探して合流。

 そして盗み聞きした内容を共有した。

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