表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/121

93話 飛空艇の使い方

 新しい移動手段を手に入れたが、大きな問題があった。


 「これ、誰が動かすの?」


 海を進む船でも、思うように動かすのは苦労する。

 空を進む船ともなれば、さらに大変なのは火を見るより明らか。

 リリィが問いかけるも、答えは返ってこない。


 「セラ」

 「はいはい、ちょっと王様に相談してくるわ」


 物があっても、それを動かす者がいないとどうしようもない。

 というわけで、飛空艇を手に入れる立役者とまったセラは、国王に会いに行こうとするのだが、レーアがそれに待ったをかける。


 「待ってください。わたくしに考えがあります。お母様の力を借りればいい」

 「それはそうだろうけど、大丈夫なの? レーアが、その、大変な目にあいそう」


 娘のことを溺愛する母親。

 そんな人物に娘本人が頼み事をするとなると、どうなるか予想できてしまうため、リリィは少し困ったような表情を浮かべる。

 すると、レーアはわずかに渋い顔となるが、国王に頼るよりはいいと語る。


 「国王陛下は、なかなか油断ならない人物のようですから、何かを求めた場合、代価として何を要求されるか」

 「レーアがお母さんに頼るなら、レーアがイライラするだけで済む、と」

 「……リリィにも、お母様の鬱陶しさを味わわせてあげたくなります」

 「いや、それは……遠慮させてもらいます」

 「ふん!」

 「あいたた」


 リリィがすねを蹴られたあと、飛空艇は、数頭の馬を使ってラウリート商会の建物へと運ばれる。

 数人乗りの小型船ということで、そこまで場所を取らないが、それはつまり狭いということでもある。


 「うわ、王都に来る時に乗った船のがよっぽど快適だ、これ」

 「……狭い。荷物をたくさん積むのは無理そうだ」

 「空を飛べるんだから、我慢しなさい。荷物としての食料も減らせるし」


 リリィは、サレナとセラを連れて試しに乗ってみるも、一人ならまだしも、数人で乗った場合の狭さになんともいえない様子となる。

 レーアを含め、かろうじて四人で寝られるだけの空間はあるが、基本的に誰かと密着する形になるだろう。


 「皆さん、エリシア様が到着されたのでこちらへ」


 レーアの母であるエリシアは、ラウリート商会を率いる人物にして、実力ある商人。

 値段のことを考えないなら、大抵の物は用意できる。

 そんな彼女がいるという部屋に向かうと、先にレーアが入っていた。

 妙に疲れた表情で。


 「……遅いですよ」

 「もう少し遅くても構わなかったのですが。まあいいでしょう。話は聞いています。飛空艇を動かしたいそうですね」


 ハーピーとしての、腕と一体化した翼を動かし、エリシアは一冊の本をテーブルに置く。


 「幸い、小型の飛空艇ということで扱いは容易。これを読みながら自分たちで動かすのがいいでしょう。その方が、空間の節約にも繋がりますから。王都の外までは、商会の方で運んでおきましょう」

 「ありがとうございます」

 「では、早く行きますよ」


 母親と二人きりの間、何かあったようで、レーアは本を持つと急いで部屋から出ていく。

 リリィは慌てて追いかける。


 「何があったの?」

 「ぎゅっとされたり、幼い頃よちよち歩きだった時してたようなキスに、あとは……言いたくありません」

 「大変だね」

 「蹴りますよ?」

 「勘弁して」


 全員で飛空艇のところに戻ったあと、商会の者が運ぶ準備をしている間に、エリシアが用意した本を読む。


 「ええと……」


 “まず、飛空艇の魔導炉に魔力を供給し、動力を起動させます。次に、舵を使って進行方向を定め、高度調整用のレバーで上昇・下降を行います。速度は中央のスロットルで調整し、停止する際は魔導炉の出力を絞るか停止させてください”


 書かれていたことをまとめると、これだけ。

 意外とわかりやすいが、問題は実際に動かす場合。


 「……思ってたよりは簡単そう」

 「基本的な操作は簡単ですが、安定した飛行には慣れが必要でしょう。……船が大きく揺れて、吐くようになることだけは避けたいところです」


 レーアが補足をする。

 海とは異なる船酔いについても語った。


 「とりあえず、動かすだけなら問題なさそうね」

 「誰が最初に動かす?」


 セラは腕を組んで頷き、サレナは問いかける。


 「じゃあ、最初はわたしで」


 こうして、一行は飛空艇の初飛行に挑むことになった。

 運ばれる飛空艇と共に歩き、王都の外に広がる平原に到着したあとは準備を進めていく。

 なお、万が一落下するような事故が起きた場合に備え、商会からは大人のハーピーが数人ほど派遣されていた。


 「うーん、本に書かれてる通りに……セラ、魔力お願い」

 「はいはい、魔術師は私だけだものね」


 本に書かれた手順に従い、不慣れな手つきで各種装置を動かしていくリリィ。

 ややふらつく形になるが、飛空艇は無事に空へと浮かび、ゆっくりとした速度で空中を進む。


 「おおー! 空を飛んでる!」

 「……こ、怖い」


 それは初めての感覚、初めての景色。

 空から見えるのは、城壁に囲まれた都市。そこから各地に伸びる街道も。

 リリィは喜びの声をあげるが、サレナは怯えているのか、リリィのそばから離れようとせずに、じっとしていた。


 「まあ、初めての空はきついわ。これで怯えないって方が難しい」

 「大丈夫です。慣れです。何事も」


 四人の中で唯一、自力で空を飛べるハーピーのレーアは、自らの経験から自信満々に言う。


 「それはそうだけどね。こっちはハーピーほど気軽に飛べないのよ」


 やれやれといった様子でセラは肩をすくめると、次にリリィを見た。

 怯えることなく、どこかノリノリで飛空艇の操縦をする白ウサギ。

 鼻歌混じりに船の舵を動かし、何度も方向転換をしたりする余裕があった。


 「……意外と、あの子は余裕そうね」


 やがて、飛空艇はゆっくりと降下していき、無事に地上へと降り立つ。

 順調な初飛行に、商会から派遣されているハーピーたちは口々にリリィを褒めた。


 「初めての操縦で、ここまで危なげなく動かせるとは」

 「さすがはエリシア様が目をかけた子」

 「まだ初心者丸出しですが、この分だと早々に腕は上がる。商会の一員になってもらいたいものですが」

 「こら、あなたたち! リリィはわたくしのパーティーメンバーですよ」


 その後は、サレナやレーア、セラといった面々に飛空艇を任せるも、さすがに初めての者ばかりということで、リリィほど上手く動かせる者はいなかった。

 そして数日ほど、飛空艇の操縦に時間を費やしていると、来客があった。


 「これはまた、驚くことをしているな」

 「団長? なんでここに」


 どこか暇そうにしているオーウェンがやって来た。

 その目はリリィに向いていた。


 「貸してた特殊効果つきのアクセサリーあるだろ。あれを返してほしいと思ってな」

 「でも団長、あの時裏切ったじゃないですか」

 「おっと、そう来るか」

 「なので返しません」


 返す気がないのをリリィが伝えると、オーウェンは苦笑しつつ頭を振った。


 「なら、しょうがない。返してもらうことは諦めるとしよう。どれも高価な代物だ。無駄にはするなよ?」


 裏切りの部分を突かれると、あまり強くものを言えないようで、オーウェンは飛空艇を見たあと去っていった。

 とりあえず様子を見に来ただけのようだ。

 それからさらに数日が過ぎ、飛空艇の運用が安定してくると、あとはどこへ向かうか決めるだけとなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ