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92話 見え見えのパフォーマンス

 もはや、かつての威容はどこへやら。

 ぼろぼろに崩れかけた城に到着したリリィたちは、周囲に立ち並ぶいくつかのテントの前に来ていた。


 「申し訳ありません。国王は急用のため、お会いできるのは数十分ほど遅れます」


 出迎えた兵士が申し訳なさそうに頭を下げる。数時間ではなく、ほんの数十分の遅れなら、どこかで時間を潰そうという話になった。

 しかし、テントにはすでに先客がいた。

 熟練の冒険者であり、賞金稼ぎでもある、エクトルとジョスの二人だった。


 「ここに集められたか」

 「やれやれ、しばらく狭苦しくなるね」


 待つ間、することがなくて暇なので、リリィは二人に尋ねる。


 「二人も、王様に会う予定なの?」

 「うむ」

 「どれくらいの報酬がもらえるのか……それが一番大事だよ。そっちもそうだろう?」

 「それは、まあ……」


 王国の危機を救ったのだから、それなりの報酬が期待できる。

 しかし、荒れ果てた城の様子を見ると、どこまで期待していいものか、やや不安になってくる。

 とはいえ、一介の冒険者にはどうすることもできない。

 リリィはふと気づいたことを口にする。


 「あれ? セラがいない……。二人は見かけなかった?」

 「いや、見ていない」

 「知らないね」


 グラムを倒し、塔を出たあと、セラは一人でどこかに姿を消した。

 今もまだ戻っていないが、報酬を受け取りにいずれ来るだろうと、リリィは深く考えないことにした。

 気にしても仕方ないというのもある。


 「じゃあ、ソフィアがどこにいるかは?」

 「王か王女のところではないか?」

 「お偉いさんと話してるんじゃないの」


 エクトルとジョスから有益な情報は得られなかった。

 しばらくすると、兵士が迎えに来て、国王のもとへ案内される。

 城の内部では、あちこちで修復作業が行われていた。

 兵士に従い、しばらく歩くと、倉庫のような部屋の前で立ち止まる。


 「中へどうぞ」


 扉を開けると、殺風景な部屋が広がっていた。

 運び込まれたばかりの椅子には、国王が座っていた。


 「おお、来たか。待たせてしまってすまないな」


 リリィは国王に確認する。


 「わたしたち、英雄として表彰されるんですよね?」

 「うむ。国の危機を救ってくれたのだから、それくらいは当然だとも……。まあ、現状の大変さを少しでも誤魔化すためでもあるが」


 王都アールムは、アルヴァ王国の政治や経済の中心地。

 そこで大規模な異変が起こり、市街戦まで発生した。

 幸いにも死者はそこまで出なかったが、それ以外の被害は甚大だった。

 だからか、国王は盛大なため息をつく。


 「英雄としての式典を開くが……どんな形式がいい?」

 「どういうのがあるんですか?」

 「一つは、貴族たちを集めて礼儀正しく進める……堅苦しい感じの正式な式典。影響力のある者たちに見せつけられる。もう一つは、大勢の市民の前で勲章を授与し、軽く褒め称えて終わる簡素なものだ」


 リリィは仲間たちと相談するも、どちらも同じくらい賛成されるため、最終的にリリィの判断に委ねられた。


 「なら……簡素な方でお願いします」

 「大量の報酬は期待できないぞ? 貴族の前で行えば、英雄にお近づきになっておこうと、貴族たちが金品を贈ってくる。しかし、大衆の前では、金品の代わりに名声が得られるだけだ」

 「お金には困っていないので、名声で大丈夫です」

 「ほう? 王都の復興を考えると、それはそれでありがたい話だ」


 リリィが式の日時を尋ねると、国王はあっさりと告げた。


 「一時間後だ」

 「えっ!?」


 あまりの急さに、リリィも仲間たちも驚く。

 リリィが抗議しようとすると、国王は肩をすくめた。


 「君の仲間にラミアの女性がいただろう? 彼女から提案があった。“急いで式を行う代わりに、国の持つ空飛ぶ船を譲ってほしい”と」

 「空飛ぶ船……?」


 リリィが首をかしげると、レーアとサレナがそっと肩を叩いてくる。


 「ヴェセという港町から、船でアールムに来た時、目にしましたよね?」

 「見かけたのは、あの時だけだが。ああいう代物と同じと考えていいはず」

 「あー、思い出した」


 一度目にしたが、そのあと見かけなかったため、リリィの頭の中からはすっかり抜け落ちていた。

 しかし、そうなると気になることは出てくる。


 「そのラミアの女性……セラがどこにいるかわかりますか?」

 「城の中で、彼女の言う空飛ぶ船の確認をしている。式になれば出てくるだろうから、そのうち会えるとも」

 「そうですか。ところで、報酬とかって」


 報酬の話になると、国王は笑みを浮かべる。


 「高価な魔法のスクロールでどうだろう。お金は、こちらとしても入り用でね」

 「……まあ、それでいいと思います」

 「はい。わたくしとしては、英雄の一人となれる時点で目的は果たせています」

 「同じく、良いと思います」


 リリィと共に行動している二人からは、同意の言葉が出てくる。

 しかし、それに異を唱える者もいた。

 エクトルとジョスである。


 「我々は、この少女たちとは異なるパーティーを組んでいる」

 「なので、お金の方を求めます」

 「ふむ。わかった。リザードと妖精の二人には、金貨が入った袋を渡そう」


 報酬の話が終わったあとは、式についての大まかな流れが説明される。

 とはいえ、基本的にリリィたちは真面目な顔をして立っていればいい。

 国王が語り、大衆の前で演技をし、ある程度盛り上がればそれで終了。

 ずいぶんあっさりしているが、王都の各所で復興作業をする人々が増えているため、そこまでおかしく思われることもない。

 式は貴族街の外れで行われた。

 最初は人も少なかったが、次第に集まり、最終的には人の壁ができるほどの賑わいとなった。


 「皆、新たな英雄たちに拍手を!」


 国王の声に合わせ、大きな拍手が響く。

 こうして、見え見えのパフォーマンスではあるが、式は無事に終了した。

 式のあと、エクトルとジョスは報酬を受け取り、すぐに立ち去った。


 「賞金首を探しに、別の国へ行く」

 「さようなら、また会う日まで、ってね」


 リリィたちには、国王から魔法のスクロール百枚が報酬として渡された。


 「中身は精査していないので、同じものが大量に含まれているかもしれないが」

 「う、うーん……ありがとうございます」


 嬉しいことは嬉しいが、予想よりも雑な報酬にリリィはなんともいえない様子でお礼を言う。

 ただ、これで終わりではない。

 国王は、無言で立っているセラに声をかける。


 「君の望む通り、空飛ぶ船をあげよう」


 国王はついてくるように言うため、全員でその通りにする。

 城の一階にある、古びた倉庫。

 そこに入ると、数人乗りの船らしき代物が存在した。


 「これは?」

 「一般的に、飛空艇と呼ばれている。ダンジョンの深い階層で、稀に部品が出てくる。それをコツコツと集め、組み立てると、こういう代物が出来上がる」


 もしかしてかなり貴重な代物なのでは?

 頭の中でリリィがそう考えていると、セラは木製の船体を手で叩きながら移動していく。


 「本当に貰えるとは思いませんでした」

 「大型のはさすがに無理だが、これくらいの小型船なら渡せる。それもこれも、今回の一件で英雄となったからではあるが」


 積もる話があるだろうということで、国王は一時的にその場を離れる。

 リリィはセラに、恐る恐る声をかけた。


 「これで、どこかに行くつもり?」

 「ええ。馬車より便利そうでしょ? あなたたちのためでもある」

 「それは嬉しいけど……いいの?」


 すると、セラはリリィに尻尾を巻きつけて軽く締め上げる。


 「パーティーの仲間でしょうが。私一人だけでやっていくつもりはないわ。ま、これは私からのプレゼントとでも言っておこうかしら」

 「あの、締め上げるのはちょっと」

 「それはそれとして、これまでのむかつく分は今ここでいくらか返しておくわ」

 「え、ちょ……」


 飛空艇が保管されている倉庫の中、リリィの苦しげな声が響く。

 多少は手加減されているとはいえ、ラミアの尻尾は強力。

 こうして、リリィたちは新たな旅の足を手に入れるのだった。

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