表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/121

88話 裏切った団長との戦い

 「……え?」


 最初に気づいたのはリリィだった。

 何かが爆発する音がかすかに聞こえたあと、塔が揺れた。

 この段階になって全員が気づき、一時的に戦闘は止まる。


 「へえ? 爆発ということは……誰かが火薬を使って爆発を起こしたか。うんうん、急がないとまずいね。外の状況は急速に動いている」

 「空を飛べる存在。ハーピー辺りが動いたか」


 オーウェンは深呼吸をし、一気に踏み込む。

 そしてエクトルをあっさりと斬り捨てた。


 「しまっ……」

 「悪いな」


 塔に起きた明らかな異常、それに注意が向いているうちに。

 これにより、壁となる者は消えて魔術師のセラへの攻撃は阻まれなくなる。


 「次はあんただ。すまんが、死んでくれ」

 「嫌よ。あの子たちを裏切れるほどに、若返りは大事なの?,」


 あの子たちというのは、リリィとサレナの二人。親を知らない白黒ウサギたち。

 幼い頃から見知った少女、それをここで殺す価値があるのか。

 その問いかけに、オーウェンは苦笑する。


 「耳が痛い。けれど、いくらか面倒を見ていた子どもをこの手で殺すことになろうとも、若返りというのはそれだけの価値がある。……セラ、大人の女として世の中を見てきたあんたなら、わかるだろう?」

 「まあね。老いというのは恐ろしい。今までのように食べれなくなる。今までのように動けなくなる。けれどね、そもそも私は死にたくないのよ!」


 今にも振るわれる剣を見て、セラは叫びながら杖を振るう。

 その瞬間、二人の大人の間には爆発が発生し、お互いに飛ばされることで距離ができる。


 「あと、あの生意気な白ウサギのクソガキには、お仕置きをしてやらないといけないから、無事に生きて帰ることが必要なの」

 「……いたたた、自爆覚悟とはな」


 オーウェンの防具は損傷し、露出している手や顔から血が出ていた。

 それは彼が塔の中に入ってから受ける、初めての怪我らしい怪我だった。


 「魔法は覚えてても、制御できないと危ない。だけど、使おうと思えば使える。代償としてこうなるけど。あー、痛い」


 怪我をして体のあちこちから血を流したまま、セラは苦笑してみせる。

 きちんと制御できて、安全に使える魔法でないと、自分の身が危ない。命の危険がある。

 しかし、制御を気にしないなら高位の魔法を使うことはできる。それだけの実力がセラにはあった。


 「色んな魔法を学んでも、他の実力ある魔術師と違って、私が安全に使える魔法はほんのわずか。でもまあ、あなたみたいな強い奴にダメージを与えられたなら、そう悪いものでもないわ」

 「苦労してきたようだな」

 「そりゃあね。なにせ、人を食べることがでこるラミアだもの。昔よりもマシになってるとはいえ、忌避はされる」

 「そうか」


 オーウェンは軽く頷くと、一気に迫り、剣をセラに突き刺した。

 魔法を使うよりも先に、仕留めにかかったのだ。


 「くそ……覚えておきなさいよ……私はこの程度で……」


 ラミアは生命力が高い、つまりしぶといからか即死はしない。

 ただ、もはや喋ることも難しく、戦力としては期待できそうになかった。

 オーウェンは首を切り落とそうと剣を持ち上げるが、背後からの声に動きを止める。


 「団長! どうして、こんな……」

 「サレナか。いいのか? リリィを手伝わなくて」


 視線を動かせば、リリィとグラムが切り結んでいる。

 動く死体については、ソフィアやジョスが魔法で数を減らしていた。

 そして頃合いと見たのか、妖精のジョスはサレナの近くにやってくる。


 「あいつはエクトルを倒した。戦うにしても、子ども一人じゃ無理だろう。援護する」

 「助かります」


 黒ウサギの獣人であるサレナは、険しい表情で、今まで世話になった人物相手に剣を構える。

 オーウェンはすぐに決着をつけようと剣の柄を強く握るが、何か思うところがあるのか力を抜いた。


 「サレナ、お前は自警団の中でも一番の有望株だった。リリィほどじゃないにしても」

 「……あたしは、お姉ちゃんがいないと生きていなかった。どこかで死んでいた」

 「あいつは面倒見がいい。ただ、割と適当なところもあるからな。お前が自警団でやっていけると判断したからか、自分は自警団を抜けるという適当さだ。まあ、組織の一員というのが合わないのもあるんだろうが」


 自警団の団長と団員。

 二人が話すのは、リリィについて。

 だからか、部外者のジョスは黙ったままでいた。


 「つらかったか」

 「はい。捨てられたと思いました」

 「一緒に冒険者として活動できるのは嬉しかったか」

 「はい。お姉ちゃんと一緒にいられるから」


 どこまでも真面目な様子で返すサレナであり、それを見たオーウェンはわずかに顔をしかめる。


 「サレナ、お前は俺が目をかけてやった一人だ。どいてくれないか? 邪魔をするなら斬らないといけない」

 「できません。あたしが団長を通せば、お姉ちゃんが……リリィが死ぬことになる」

 「そうか。残念だ」

 「来るぞ!」


 ジョスはサレナに魔法をかける。

 子どもでも大人と正面から戦えるように、身体能力を強化したのだ。

 その後、オーウェンへ氷の矢をいくつか放つが、剣や腕にある防具などで受け流される。


 「この塔は人工物。使える魔法も限られ、対処は容易。戦場を選ぶのも大事なことだ」

 「くそ、これだから経験ある冒険者ってやつは!」


 ガギン!


 剣と剣がぶつかる。

 だが、すぐに離れる。

 一ヶ所に留まると、ジョスによる魔法攻撃が飛んでくるため、オーウェンは積極的に動いていた。


 「団長! あたしたちより、若返ることが大事ですか!」

 「そうだ。これ以上の話はやめよう。空しくなるだけだ」


 サレナは歯を食い縛ると、最低限の動きで迎え撃つ。

 動けばそれだけ体力を消耗する。

 オーウェンのペースに合わせれば、体力のないこちらが不利。

 そう考えてあまり大きく動かない。


 「ふん!」

 「ぐ、重い……でも!」


 素早くて重い一撃。

 受け止めるだけでも一苦労、受け流すのでさえ集中しないといけない。

 ただ、魔法により一時的に身体能力が強化されたサレナは、意外にもオーウェンと互角以上に渡り合えていた。


 「意外と、やるな。町を出てから一ヶ月か二ヶ月くらいしか経ってないというのに」

 「それは、あたしが強化されてて、団長が弱っているからです」

 「弱っている?」


 元々の実力差があろうとも、片方が強化され、もう片方が弱体化することで、差は大きく縮まった。

 オーウェンは一度距離を取ると、セラの魔法でぼろぼろになった自分を見る。


 「……表面だけの怪我だけじゃなく、意外と内部まで来ていたか。それに、疲労も」


 まず倒れているエクトルを見たあと、次にセラを見る。そして軽いため息をついた。

 リザードの前衛相手に疲労を蓄積することになり、そのあとラミアの魔術師の魔法によって負傷した。

 それらが合わさることで、自分の予想以上に肉体が弱っていたのだ。


 「早めに、終わらせないといけないか」

 「あたしは、終わりません。リリィのためにも」

 「思いだけでは、届かないぞ」

 「なら、思い以外で届かせます!」


 剣と剣がぶつかることで火花が散る。

 そして団長と団員のどちらも、衣服や髪が切られ、一部は宙に舞う。

 ほぼ互角の状況、放っておけばいつまでも続きそうな戦い。

 片方には妖精の援護があるとはいえ。


 「動きを止めるものは……これしかないか」


 サレナが押されそうになったその時、ジョスは舌打ち混じりに呟く。

 何か呪文を唱えると、次の瞬間、倒れていたエクトルが動き出す。

 ぎこちない動きのままオーウェンに向かっていき、体を斬られようとも止まらずオーウェンに掴みかかる。


 「今だ、やれ。一時的にあいつを操ってるが、長くは無理だ」

 「え、でも」

 「リザードはしぶとい。あとは回復魔法使えるソフィアに任せればいい」


 本当にいいのか疑問に感じるサレナだったが、千載一遇のチャンスなため、エクトルごとオーウェンに剣を突き刺した。

 次に道具袋を奪ってから、剣を引き抜き、さらに一撃を加える。

 その念の入れように、オーウェンは血を吐きながら笑みを浮かべた。


 「は、はは……やるじゃないか」

 「団長はまだ三十歳で若いじゃないですか。どうして若返るためにあたしたちの敵に……」

 「もう、三十歳だ」


 もはや体は動かない。

 敗北を悟ったオーウェンは、床に倒れたまま天井を眺めて呟く。


 「二十代の頃と比べ、わずかな衰えが感じ取れた。まだ、鍛えれば補える範囲だが」

 「…………」

 「三十五辺りでも、ギリギリなんとかなるだろう。しかし、四十になれば? 五十になれば? 肉体の衰えは隠しきれないものとなる。思うように体が動かせなくなることの恐ろしさは、形は違えどわかるだろう?」

 「……はい。お腹が空きすぎて、動けなくなる。頭では動かそうとしているのに、体は動かない。それは……怖いことです」


 自分の意思に、肉体が追いつかなくなる。

 その恐怖を口にしたあと、オーウェンは大きく息を吐いて目を閉じる。


 「サレナ、お前の大好きなお姉ちゃんが苦労している。急げば、助けられるかもしれないぞ」

 「さようなら、団長」

 「なあに、若いまま死ぬのも、それはそれで……」


 いくらかの悲しみを抱えたまま、サレナはその場を離れた。


 「一つの決着がついた、か。だけど、戦力は足りるのか? 急がないと」


 残されたジョスは、倒れている者たちの道具袋を漁り、無事なポーションを取り出した。

 そして飲ませるために飛び回る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ