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78話 死霊術師の死体を操る者

 崩壊が進むダンジョン。その最下層において尋問が行われる。


 「何が目的なんだ? お前たちは」

 「……既にわかっているのでは? 新たな国王陛下」

 「予想はしている。だが、まだ確定はしていない」

 「我々は、あなたの父に雇われた。魔族はまた別口とはいえ」


 意外と色々話してくれる相手に、警戒は自然と強まる。

 口を閉ざした者から力ずくで聞き出すよりは楽だが、なんらかの意図を感じずにはいられない。


 「父上の目的は」

 「王になる以外、何かあるとでも?」

 「だが、王になったところで年齢が問題だ。人間は、長命な種族ではない」


 ここにいる国王は、年齢的に三十代。

 その親ともなれば五十代辺りなわけだ。

 もし王に戻ったとしても、まともに活動できるのは二十年か三十年くらいが限界。

 わざわざ、これほどの騒ぎを起こしてまで固執するのはなぜなのか?


 「歳を取る。これはすべての種族が避けられないもの。しかし、若返ることができるなら?」

 「…………」

 「あなたの父は、あなたの娘を代償にすることで、若返ることができる魔導具を持っている。どこで手に入れたかはともかく」


 重苦しい沈黙が訪れる。

 王女であるロジーヌは、まだ十歳の幼い子ども。

 若返りの代償に彼女を使うということは、ほぼ確実にロジーヌは死ぬだろう。

 それゆえに国王は険しい表情でいた。状況を察したセラも黙っていた。

 ただ、短い間とはいえロジーヌと過ごしてきたリリィは近づくと質問をする。


 「止めたい。どうしたらいい?」

 「王女の犠牲を止めるだけなら、前の国王陛下を殺せばいい」

 「今回の騒動全部を止めるには?」

 「はははは、子どもが言うことではないぞ。それは」

 「わたしは一人じゃない。地下には、二人の味方。地上には、もっと多くの味方がいる」


 一人じゃないからこそ、リリィは強く出る。

 自分だけでは無理なことは多い。

 だが、味方が増えれば、無理なことは減っていき、できることが増えていく。

 凛とした様子でいる白ウサギの少女。

 それを見た死霊術師の男性は、観察するような視線を向けた。


 「……名前は?」

 「リリィ・スウィフトフット」

 「ふむ。覚えた。その仮面を私の顔につけてくれないか」

 「なぜ?」

 「君たちが相手している存在がどれほど厄介か教えてあげよう。抵抗するも、諦めるも自由だ。なに、君たちに危害を加えることはない。この肉体がわかりやすい変化をするだけ。いざとなれば、殺せばいい」


 リリィは国王とセラを見る。


 「試してくれ。殺すのは、こちらでやる」

 「どれほど厄介な相手か知りたいわ」

 「うん、それじゃ……」


 不気味な仮面を持つと、リリィは言われた通り顔につける。

 すると、死霊術師の男性は全身を震えさせ、仮面が顔と一体化していき、十秒ほど経つとその肉体は糸が切れたように倒れて動かなくなった。


 「し、死んでる……」

 「冷たい。仮面が命を吸い取ったのか? それとも……」

 「動くわ。警戒して」


 死体と化した相手を調べようとした瞬間、起き上がって話し始めた。

 別人のような声で。


 「やあ、君たちの頑張りは見ていたよ。凄いね。死者を出さず、手足を失うことなく勝ってみせた」

 「……誰?」


 死霊術師の男性の肉体を利用している何者かに対し、リリィは声をかける。


 「うーん……とても凄い死霊術師。他の死霊術師の死体を操り、遠隔操作しながらさらに骸骨を操ったりしてるわけ。いや、ちょっと自画自賛し過ぎたかな? まあ些細なことだよ」

 「操った死者を通じて、さらに操っているというのか」

 「遠隔操作からの遠隔操作。並大抵の者では不可能。しかし、ここにそれを可能とする存在がいるんだな。はははは」

 「……この人、というか体は最初から死んでいた?」

 「そうだよ。なかなか気合いの入った演技でしょ? 楽しめたかな? それっぽく振る舞うのも大変なんだ」


 死体を操っている何者かは、平然と答えた。

 これまでのやりとりはすべて演技であるという。


 「ゴールドランクの冒険者と共に活動していた国王や、遠近どちらも戦えるラミアの魔術師は少し苦労するだろうなと思っていた。でも、意外な曲者がいて私は嬉しいよ」


 話の途中、声には喜びが混じる。


 「こんな可愛らしい白ウサギの子どもが、私の想像を超えてきた。……次は君の死体を使ってみようかな? 男の死体には飽きが来ていたんだ。ふわふわな耳と尻尾を持つ可憐な少女もたまにはいい」


 死体を操る何者かにとって、他人の死体は衣服と同じようなものらしい。

 その狙いがリリィに向いた瞬間、喉に杖が押し込まれる。


 「黙りなさい。私、というかラミアのことを人食いの化物とか言っていたくせに、そっちのがよっぽど化物じゃないの」

 「おっと、話が脱線してしまった。リリィ・スウィフトフット。君が一連の騒動を止めたいなら、するべきことは一つ。まずは安全なところで待つことだ」


 まさかの内容に、リリィは首をかしげる。


 「どういうこと?」

 「色々な者が集まって、これまた色々な計画が同時進行している。君によって前国王の計画はほぼ頓挫したけど、他の計画は今も進行しているんだよ」

 「魔族、とかの?」

 「そうなるねえ。ついでに私独自の計画もあるけれど、これは言えない」


 どこか楽しむような調子で語っていく。

 だいぶ信用できない相手だが、色々知っている貴重な情報源ではあるため、無視することもできない。


 「どうして、色々教えてくれるわけ?」

 「君の死体が欲しいからさ。この肉体、この状況では、白ウサギな君を殺すことはできない」

 「安全なところに居続ければ、わたしは死ぬことはない」

 「ふふふふ……君は嫌でも私のところに来る。おっと、一応名乗っておこう。広まってる名前はグラム。そこそこ有名でね? それじゃ、そろそろこの死体との繋がりが消えるからお別れだ。ばいばい」


 話すだけ話すと、仮面は砕け、死体は動かなくなる。

 大人二人は、出てきたグラムという名前に険しい表情となっていた。


 「二人は、グラムという人物について何か詳しく知っていたり?」

 「伝え聞いた話に過ぎないが、一つの都市を滅ぼし、全住民の死体を一人で使役できるとかなんとか」

 「手配書が用意される死霊術師は何人も知ってるけど、グラムに関しては数十年も前に捕まって処刑されたと聞いたわ。もしかして処刑は嘘で生かしていたのかしら?」

 「あるいは、殺されても死なずに済む方法を編み出していた、とかもあったりして」


 話し合っても答えは出ない。

 その実力の高さかた、国との取引をしたのかもしれない。

 危険視されて殺されたものの、それに備えて死なない手段を用意していたのかもしれない。


 「とりあえず、あのグラムって人は、わたしに安全なところで待つように言っていたけれども」

 「まずは地上に出なくてはな。状況がわからん」

 「計画、か。前の王様、魔族、怪しい死霊術師。進んでいそうなのは、大雑把にこんなところね」


 前国王は若さと王位を求めた。

 代替わりするのは内心嫌だったのだろう。

 ただ、魔族と死霊術師が求めるものはわからない。

 グラムに関しては、戦ったことでリリィの死体を望んできたりしているが、それより前に進められている計画こそが重要であった。

 三つの計画のうち一つは止まった。残り二つはまだ進行している。


 「骸骨は追ってきてるかな。それとも逃げたかな」


 脱出用のスクロールをいつでも使えるようにしつつ、三人はコアのあった部屋から出る。

 すると、辺り一面に崩れた骸骨たちが散らばっていた。


 「地上に出るのは問題なさそう」

 「これはこれで、不安が増すが」

 「まずはダンジョンを出てから考えましょう。生き埋めになったらどうしようもないわ」


 大量の骨が散乱して歩きにくいが、地上に戻ること自体は簡単だった。

 上へ上へと進むうちに、冒険者の姿を見つける。城に空いた穴から入った三人はギルドへと出た。

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