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76話 ダンジョンのコアを目指して

 ダンジョンの内部にて走り続ける三人。

 国王は武器を持ったまま、先頭に。

 襲ってくるモンスターがいた場合、返り討ちにすることで道を切り開く。


 「分かれ道だ! どっちを曲がる!?」

 「ええと、右に一回、左に一回!」


 リリィは武器を手に持たず、代わりに地図を見ながら国王についていき、下の階層へ向かう最短経路を教える。


 「セラ、後ろはどんな感じ?」

 「少しずつ近づいてきてる」

 「なら、王様からもらった攻撃用のスクロールを使って」

 「そうするわ」


 セラは二人の少し後ろを進みつつ、時折振り返り、状況を確認する。

 自分たちを追っている骸骨たち。

 それは死霊術師に操られている疲れを知らない存在。

 定期的に足止めをしないと、追いつかれてしまう。

 そこで、セラは二枚のスクロールを取り出すと、一時的に立ち止まって使用した。


 「まったく、この骸骨を操ってる奴をぶっ飛ばしてやりたいわ」


 愚痴と共に、まずは骸骨の先頭で大きな爆発が発生し、その後、土の壁が現れて通路を一時的に塞ぐ。

 これにより、少しとはいえ時間が稼げた。


 「現在位置は、地下十階。最下層たる地下十五階までは、まだかかるか」


 三人は一時的に休憩し、携帯食料や水を口にしつつ、ダンジョンの地図を囲む。

 地図は二種類あった。

 一般的に知られている方と、異変をきっかけに調査が進んだ方の二つ。

 今は、一般的に知られている方を進んでいた。

 コアの位置が確実にわかっているのと、内部の地図がすべて揃っているためだ。


 「そういえば……リリィ。君にはロジーヌの護衛を任せていたが、娘はどうしている? こちらの救援に来たということは、安全な場所に移したと想像するが」

 「ラウリート商会のハーピーの人たちに空中を運んでもらって、わたしが知っている中で一番の実力者のところに」

 「ほう?」


 リリィは、若さの割には実力がある。

 国王はそれを理解しているからこそ、王女である娘の護衛に選んだ。

 娘と同じウサギの獣人という部分も、判断に大きく影響しているが。

 そんな若者が口にする、一番の実力者。

 とても気になるのか、国王は尋ねた。


 「どういう人物かね? 教えてほしいな」

 「ヴァースの町で自警団の団長をしている、オーウェンという人です」


 オーウェンという名前が出ると、国王は軽く笑う。


 「そうか、彼か。それなら安心だ」

 「王様と団長には何か関係が?」

 「あるとも。昔、火遊びが激しかった若い頃、一時的にパーティーを組んで冒険者をしていた。パーティーメンバーは他にも数人いたが、次期国王となる私の護衛ばかりでね。表向きには素性を隠していたが。彼だけが、純粋な冒険者だった」


 過去を思い返しているのか、時々思い出し笑いをする。


 「昔は楽しかったですか?」

 「ああ。今も楽しいことはあるが、冒険者時代の頃と比べると刺激が足りない」

 「刺激?」

 「あまり異性相手に話すことではないと前置きしておくが……冒険者の女性たち数人と関係を持ったことがあってな。複数の相手と関係を持っていることが知られたあとは、それはもう必死に逃げた。彼女たちに殺されるという危機感から」

 「う、うーん……」


 まさかの話を聞かされ、リリィはなんともいえない表情となる。


 「まあ、オーウェンが“手足の骨を砕くだけで許してやってくれ”と言って仲介してくれたおかげで、重傷を負うだけで済んだが」

 「どうせなら、肋骨辺りも砕けてたらよかったのに」


 複数の相手と同時に関係持つとか、端的に言ってゴミ。

 そんな視線を隠そうともしないセラであり、だいぶ苛立った様子でいた。

 それはリリィからでもわかるほどであり、思わず尋ねてしまう。


 「な、何かセラは苛立ってるみたいだけど」

 「私ね、複数の相手と関係を持つ下半身がゴミクズな人って嫌いなのよ」

 「昔、そういう人と付き合ったりとか……?」


 返事は、無言で尻尾を巻きつけてからの締め上げ。


 「あー、くそ。骸骨に追われてる状況なのにムカムカしてきた」

 「ちょ、わたしに当たるのやめて」

 「嫌なこと思い出させる方が悪い」

 「ちなみに、何があったの?」


 締め上げる力は少し増す。


 「うっ……」

 「将来を誓った相手がいたのよ。いつか結婚しようってね。それが……気づいた時には私の財産を持っていった上で失踪しやがった! あー、見かけたら殺す。絶対殺す」


 一応、話すだけは話してくれるが、セラが言葉を話すたびに恨みに満ちた黒い感情が周囲に噴き出すため、これ以上浴びるのを避けたいリリィと国王はどうにか抑えようとする。


 「恨みはわかったから、お、抑えて」

 「う、うむ。もし捕まえた場合、手足の骨を砕く分には、罪には問わないよう取り計らうとも。殺すのは、王という立場から認めることはできないが」


 さすがに状況が状況なので、セラは尻尾による拘束を解くと、大きなため息をついた。


 「はぁ……リリィ、やつあたりして悪かったわ」

 「痛かった。次から気をつけてよ。でも、結構根深い恨みなんだね」


 リリィは苦笑しつつ、セラの機嫌を少しでも和らげようと、そっと肩を叩く。


 「愛と金、この二つを失う裏切りをやられたもの。……っと、そろそろ骸骨が壁を突破するから、そろそろ移動しないと」


 足止めとして作った土の壁は崩れ始め、骸骨の腕などが見え隠れしていた。

 休憩はこれで終わりとなり、三人は今のうちに移動していく。


 「次はどこをどう進むわけ?」

 「んー、今いる場所がここだから、次はこの角を曲がって、まっすぐ……」


 リリィは地図を見ながら指で道をなぞる。国王もそれを覗き込み、考え込んだ。


 「うむ。これまでのところ、比較的安全に進めているが……」

 「コアがある場所では待ち伏せがあったりして」

 「ないとは言い切れないのが、困った話ね」


 いるかもしれない、いないかもしれない。

 ただ、待ち伏せがいることを前提に行動した方が慌てなくて済む。

 三人は最下層を目指して走り出す。

 道中、追いかけてくる骸骨の軍団とダンジョン内にいるモンスターの群れが衝突し、大規模な戦闘が発生するも、のんびり見物している余裕はない。


 「戦闘の騒ぎに釣られて、他のモンスターも集まっているな」

 「冒険者が限られた人数で活動するのって、ああいうことを防ぐため?」

 「そうよ。より正確には、無駄な戦闘を避けて出費を抑えるって話だけども」


 戦い続ければ、武器や防具が損耗するので出費は増える。

 無駄な戦いを避けることは、無駄な出費を減らすことにも繋がるため、お金を稼ぐ冒険者は数人でパーティーを組むことが多い。

 そうこうしているうちに、アールムのダンジョンにおける最下層、地下十五階に到達した。


 「コアのある部屋は……何かいるな」


 コアが置かれている部屋には、通常はギルドの職員がいて、冒険者がコアを手に入れることを防いでいる。

 しかし今は、ぼろぼろになった職員が通路に倒れており、室内に何者かが潜んでいるようだ。


 「わたしたちの動きは、読まれていた?」

 「というよりは、向こう側がいくつもの手を打ってるだけかもね」

 「ああ。もし立場が逆の場合、私もコアのある部屋に戦力を配置しておくだろうな」


 戦闘に備えつつ三人が中に入ると、黒いローブを纏った男性がいた。

 フードを被っているが、わずかに盛り上がっている部分を見るに、彼も角が生えているようだ。


 「ふん、こちらに来るか。冒険者としての経験はある者は、これだから困る」

 「一人か。この好機は逃せん」


 国王は即座に仕掛ける。

 だが、黒いローブの男性は杖を振るい、土の壁を発生させて距離を取った。


 「バカめ。こちらが一人だから勝てると思ったか? その思い上がりを砕いてくれる!」


 さらに杖が振られると、辺りから骸骨が現れる。

 武器を持っていないが、骨になんらかの紋様が刻まれている特別製。


 「貴様、死霊術師か!?」

 「そうとも。とはいえ、すべてを一人で動かしているわけではないが」

 「複数人での分担、か。何人、あちら側に加わっている……?」

 「いかんいかん、口が滑った。王も、味方する者も、ここで消えてもらう!」


 黒いローブの男性が指を鳴らすと、特別な骸骨たちが一斉に動き出した。

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