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75話 包囲下の城からダンジョンへ

 魔族の女性は崩れ落ちる。

 これでひとまず安全は確保できた。

 だが、相手は死んでいなかった。


 「計画を、次に早め……」


 懐から羊皮紙を取り出すと、口から血を吐きつつも、この場から姿は消え去る。

 羊皮紙は魔法のスクロール。中に仕込まれていた魔法は、どこかに転移するものであるようだ。


 「なんたることか。これでは情報を得られん!」


 貴重な情報源は逃げ去ってしまった。

 国王に敵対していた兵士を尋問するのは、時間がかかりすぎる上にどれくらい有用な情報が手に入るか不明なため、あまり期待できない。

 城内では、魔族の女性を倒したあと国王側が盛り返しており、完全制圧までもう少し。

 しかしながら、城の外では骸骨の軍勢が王国軍をものともせずに進み続け、次の危機はすぐそこにまで迫っている。


 「王様、情報の共有をお願いできますか?」

 「……この段階に至っては、言わねばならないか」


 リリィが情報を求めると、国王は渋々といった様子で話し始めた。


 「いつからかは不明だが、王であった父上に魔族の者が接触した。私が生まれる前のことなので、長い付き合いというわけだ」

 「前の王様と魔族はズブズブ?」

 「そう考えていい。実の息子である私に魔族のことが知らされたのは、数年前。アルヴァ王国の利益になるということで、私としても受け入れていた」

 「さりげなく調べたりとかは」

 「当然、したとも」


 国王は首を横に振る。

 その表情はどこか険しい。

 信頼できる者に、前王が組んでいる魔族とはいったいなんなのか調べさせたものの、これといった成果が出ていないことを語る。

 そして剣を床に突き刺した。


 「まず、城内の危機は乗り越えた。次は城外となるが、手を貸してもらえるだろうか。報酬については、たっぷりと用意する」

 「手を貸すのはいいんですけど、ただ戦うのはさすがにきついかなー、と」


 外の骸骨は、途中で冒険者や兵士たちが迎撃することで数をいくらか減らしているとはいえ、まだまだ膨大な物量を誇る。

 普通に戦ったところで、やがて疲れて動けなくなってしまう。


 「どうにかできる手段はありますか? 私たちは、そこら辺の冒険者より強いとはいえ、体力には限りがあります」


 セラは倒れている兵士を尻尾で掴み、軽く投げ飛ばすというパフォーマンスを見せつける。

 操られている骸骨には体力がないが、生きている人には体力という制限がある。

 その問いかけに、国王は大きく頷いた。


 「外は包囲されている。しかしながら、最近になって一つ新たな道ができた」


 話をしながら、下を見る。

 床ではなく、そのさらに向こう側を。


 「ま、まさか」

 「ダンジョン……」

 「そうだ。未だに復旧作業の途上にあり、完全には塞がっていない。地上を放棄して地下に逃げるぞ」


 早速移動し始める国王であるが、すぐ外で話を聞いていた兵士たちは驚いた様子でいた。


 「へ、陛下。我々はどうすれば」

 「骸骨が来ても、抵抗せずに通してしまえ。骸骨の狙いは、私と娘であり、逃げ惑う民衆や兵士を襲ったりはしなかった」

 「……無念です。敵に、城を明け渡すことになろうとは」


 城内に敵を入れまいと防衛している兵士たちがいるが、そちらの限界は近い。

 急いでダンジョン内部に潜る準備が進められる。

 携帯食料や飲み水を人数分。ダンジョン内部の地図に、さらに予備の武具を少々。ポーションは、効能のある高価なものを選別して持っていく。


 「皆、上の階に集まり、骸骨を避けるように」


 やがて国王は外にいる兵士たちに向かって叫ぶ。

 自分は地下に向かうからそれ以上の足止めは不要である、と。

 それは骸骨を操っている者に対しての報告でもあった。

 どこか近くで聞いているのか、国王と彼についていくリリィたちが地下のダンジョンに入り込むと、骸骨たちの動きもそれを追うものに変化した。

 兵士たちのことは無視し、穴へ殺到する。

 ただ、そのせいで一時的に詰まってしまう有り様。


 「うわ、あれなら、しばらくは大丈夫そう」

 「少し試したいことがある。ついてきてくれ」

 「いったい何を?」

 「ダンジョン内部のモンスターが、骸骨に攻撃するかどうか」

 「……攻撃するなら、ダンジョンの中は地上よりは安全になる。けれど、もし協力する動きがあるなら」


 セラは真面目な表情で呟いたあと、頭を振って余計な考えを振り払う。


 「どちらにせよ、我々はしばらくダンジョンの中をうろつくことになる。地上にいる者たちが、状況を好転させるまで」


 王都で発生した陽動を兼ねた襲撃。

 これはすぐさま近隣の都市などに伝わり、やがて異常を知った他の地域から王国軍が駆けつける。

 そうなれば、いくら実力ある死霊術師といえど退却するしかない。

 その時こそ反撃の時であると国王は語るが、リリィは何か気になるのか釈然としない様子でいた。


 「うーん……」

 「何よ。気になることがあるなら、今のうちにいいなさい」

 「そうだとも。周囲に何十人もいるなら、口にする内容にも気をつけなければあとが大変だが、今は我々三人だけなのだから」


 大人二人がそう言うため、リリィは恐る恐る口にする。


 「魔族って、あの人だけ? 他にもいるはず」

 「……城で戦ったのと同じ強さの奴が何人もいるなら、こっちに勝ち目は」

 「何人かいる」


 低い声で国王は言う。

 とても厄介なことが確定したため、リリィとセラは次の言葉が出てこない。

 一人相手に数人がかりでようやく勝利できたというのに、向こう側に魔族が何人もいるなら勝ち目は薄い。


 「王様、このあとどうするんですか? ギルドに行けば、強い冒険者とかを味方にできますけど」


 リリィの提案に国王は首を横に振った。


 「ギルドに頼るのは悪くないが、それはそれで問題が出る。物量を生かせる地上での戦いは、向こうに有利だ」

 「じゃあどうするんです?」

 「敵を誘い込んだ上で、ダンジョンのコアを手に入れ、まとめて生き埋めにする」


 その言葉に、リリィとセラは驚きから目を見開く。


 「もちろん、我々が巻き込まれるわけにはいかない。ただ、幸いなことにダンジョンから脱出できる魔法のスクロールを持ってきている。全員で下層に潜り、コアを手に入れてからスクロールで脱出。異論は?」

 「それが成功する可能性は、どのくらい……?」


 セラが慎重に問いかける。国王は少し考えたのち、口を開いた。


 「確実とまではいえない。しかし、地上で消耗戦をするよりは良い。疲れ切ったところに、魔族が襲ってくる。そんな可能性もあり得るのだから」

 「なるほど、確かに良い考えな気が」


 リリィは納得したように頷く。しかし、気がかりなこともあった。


 「魔族とかも巻き込めたりできますか?」

 「そればかりは、運次第としか言い様がない。まあ、大量の骸骨を無力化できるなら、それだけでもやる意味はある」


 国王は剣を軽く振ってから前を指し示す。


 「急ぐぞ。骸骨が詰まっている間に、できるだけ最下層を目指す」


 リリィたちは足早にダンジョンの奥へと進んでいく。

 ダンジョンの内部は広大で、壁には青白い魔力の灯りがぼんやりと光っていた。

 壁や床は古びた石でできており、あちこちに崩れた瓦礫が散乱している。

 途中、何体かのモンスターが現れたが、リリィたちには見向きもせずに通り過ぎていった。


 「よし……少なくとも、モンスターは骸骨と協力関係にはない。ありがたいことだ」


 国王が呟く。これは好都合だった。ダンジョンの奥で戦闘になった場合、結果的にとはいえモンスターたちが援護してくれる可能性がある。


 「でも、骸骨の軍勢が押し寄せてきたら、モンスターですら足止めにはならなそう」


 リリィが不安げに言うと、セラが肩をすくめた。


 「だからこそ、さっさとコアを見つけないとね」


 その時、後方から地響きのような音が響いた。


 「……来たか」


 国王が剣を握りしめる。骸骨たちが詰まりを解消し、こちらへ向かってきたのだ。


 「全速力で進むぞ!」

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