74話 国王の救出
「で、このあとの予定は?」
「脱出か、王様を助けるか。どっちにしよう」
制圧した室内において、リリィとセラは今後について話し合う。
外は夕方から夜になりつつあり、王都の混乱はこれからが最高潮に達するだろう。
自分たちの命を優先するなら、さっさと城から出ていくのがいい。
しかし、国王に恩を売れる貴重な機会でもあるため、助けに行くのも選択肢の一つではある。
「情報が足りないわ。とりあえず、そこにいる奴から聞きましょうか」
セラは倒れている兵士のうち、息がある者にポーションをかけたあと、ヘビな尻尾で軽く締め上げつつ尋問を始めた。
「う、うぅ……」
「国王の城で働く兵士はいい待遇よねえ? 安物じゃないお高いポーションを支給してもらえるから。おかげで、死にかけた奴をこうして尋問できるってものだけど」
「なにが、聞きたいんだ」
「王様はどこにいるわけ? あんたたち側の勢力が襲ってるでしょ」
「誰が、言うものか」
「あっそ。言いたくなるようにしてあげる」
ミシミシミシ……
ラミアの下半身はヘビとなっている。
それも太く強靭であるため、巻きつかれた上で締め上げられたなら、人の骨など一つや二つ余裕で折れる。
嫌な音が何度か続くため、無言で顔をしかめるリリィだが、口を挟むことはしない。
「や、やめてくれ……言う、言うから」
容赦というものが感じられないセラのやり方だが、効果はあった。
今、国王がいるのは城の三階にある大部屋。
そこで近衛兵と共に、立て籠っているという。
急いで向かおうとする二人だが、城内では突然の騒動のせいで国王側が押されていた。
「セラ、見かけたところは助ける感じで」
「そうね、私たちだけじゃきついし、味方は多い方がいい」
あちこちで戦闘が起きているが、リリィとセラは次々と乱入していく。
二人だけとはいえ、実力ある者が暴れることで少しずつ国王側の兵士は助けられていき、他の兵士と合流して部隊となる。
「助かった。君たちは冒険者か」
「はい」
「城の中も外も大変なことになってる」
「すまないが、国王陛下を助けるために君たちの力を貸してほしい。」
もとからそのつもりなので、二人は頷いた。
そして兵士たちと共に、国王が抵抗を続けているところへ向かうのだが、既に包囲されているので多くの敵が存在している。
「うーん、魔術師とかがいるし、あれじゃ進めない」
「増援を防ぐってことは、まだ王様は無事なようね。兵士の人たち。爆弾とかないわけ?」
「えっ...…いや、そのようなものはさすがに……」
城内で爆発物を使おうと考えるセラに、同行している兵士たちは困惑するも、一人だけ手をあげる者がいた。
「爆弾はありませんが、煙玉はあります」
「じゃあ、煙玉を投げたあとは、一気に突撃で」
セラが敵の集まるところへ煙玉を投げると、リリィと盾を持つ兵士たちが突撃を開始。
少し遅れる形でセラも進む。
「なんだなんだ!?」
「遅い!」
煙によって視界が遮られる中、ウサギの獣人たるリリィは音で位置を把握しつつ斬っていく。
優先すべきは魔術師。
杖を破壊し、腕に傷を負わせ、次々と無力化していくが、殺そうとすればそれだけ時間と労力がかかるため。
とりあえず魔法を使えないようにすれば、あとは味方に任せればいい。
数分後、敵を倒して追い払うと、突入の準備を整える。
「あとは王様だけども」
「倒れてる奴からポーション巻き上げて。それで回復してから」
「セラはずいぶん手慣れてるけど、そういう経験が?」
「あのねえ、周囲には兵士たちがいるんだけど……まあ、そうね」
倒れている敵兵士からポーションを手に入れると、リリィとセラの他に、怪我している味方兵士たちにも分け与えられる。
扉の向こうでは戦闘の音が聞こえているが、敵味方のどちらかは不明なものの悲鳴も混ざっている。
盾を持つ兵士が最初に扉を越え、リリィたちもあとに続く。
「ほう、遅かったじゃないか」
「ちっ、満足に足止めすらできないとは」
そこにいたのは、満身創痍の国王とわずかな近衛兵。
その他には、角を生やした妙齢の女性と多数の負傷した兵士。
どうやら、あと少しというところで間に合ったらしい。
「陛下を守れ!!」
「うおおお!!」
国王側の兵士たちは叫びながら突撃するも、突然の爆発によって蹴散らされてしまう。
威力は弱めだが、範囲は広い。
そのせいで一気に戦力は半減してしまった。
「鬱陶しい! 有象無象がどれだけ群れようと勝てるものか!」
「……とのことだ。相手は魔族。知ってる者はわずかだろうが、実力ある者でないと床に転がることになるぞ」
怒り心頭といった様子でいる魔族の女性。
それを見たリリィは、セラの耳元で囁く。
「もしかして、王様とその護衛ってかなり強い?」
「今それを言ってる場合じゃないでしょ。滅茶苦茶強いとは思うけど」
兵士たちを魔法で蹴散らせるような相手に、倒されることなく立ち続けている。
この時点で、かなりの実力があるわけだ。
とはいえ、劣勢な状況が続いたせいか満身創痍。
戦力としては期待できない。
「わたしたちがやるしかない、か」
「王様にポーションぶっかけるから、少しは楽になる」
リリィはまず、魔族の女性へ近づいて斬りかかる。
素早い動きからの、横へ薙ぎ払う一撃。
しかし、剣で受け止められてしまう。
「この白ウサギも鬱陶しい!」
「やば……」
反撃をすかさず回避するも、白ウサギに対する怒りがあるのか追撃が行われる。
「王女に白ウサギ。ここにも白ウサギ。まったく、人の邪魔をするガキというものは!」
なぜか魔法を使わないので、リリィは耐えることができている。
それを見たセラは、まだ動ける味方兵士にポーションを用意させると、国王に対して投げつけた。
「へ、陛下」
「案ずるな。戦闘の際、ポーションを投げつけることはよくある。容器が無駄になるから、普通はあまりしないやり方だが」
満身創痍だった国王が少し回復すると、魔族の女性は盛大な舌打ちをして、辺りに魔法を撒き散らす。
属性も威力も様々なものが混ざったそれは、城の内部を破壊していき、これは危険とばかりに兵士たちは次々に避難する。
「残ったのは、三人か」
国王、リリィ、セラ。
最後まで立っていたのはこの三人だけ。
近衛兵はすべて倒れ、兵士たちも倒れるか逃げるかしている。
辺りにうめき声が響く中、リリィは再び仕掛ける。
「はぁっ!」
「ちょこまかと鬱陶しい!」
アクセサリーのおかげで身体能力が向上しているというのに、魔族の女性は攻撃を防いでしまう。
なんとも厄介な相手だが、リリィは怯まずに攻撃を続けると、セラが魔法による援護を始めた。
「私を忘れてもらっちゃ困るわ」
「その程度の魔法、避けるまでもない」
「ったく、面倒ね」
命中してもあまり被害はないのか、表情一つ変えない相手にセラは舌打ちをする。
「冒険者たち、手伝おう」
まるで初対面を装う国王は、魔族の女性に対して大きな剣を振るう。
力強く素早い一撃だが、受け流されてしまう。
二度三度と連続で仕掛けるも、効果的な攻撃にはならない。
「強すぎる……」
「さすがは、父上が側近として置いていた者か」
「陛下、しばらく相手を任せても?」
「ん? まあ、いいが」
このまま正面から戦い続けても、無駄に時間だけが過ぎていき、やがて大量の骸骨が城にやって来る。
そうなれば国王は死ぬ。
つまり早急に、目の前にいる女性を倒す必要があるが、リリィは道具袋にさりげなく手を伸ばす。
「一つ、尋ねたい。父上はどこにいる? この城にいるのか、とっくに避難しているのか」
「さあ? どこかにいるでしょう」
「ふざけるな! 子が、親の居場所を知ろうとしているのだぞ!」
国王はわざわざ質問を、しかも大声を出したりすることで、相手の注意を自分に惹きつけた。
これにより、一時的とはいえリリィは行動しやすくなる。
おもりのついた紐を取り出すと、声に合わせて魔族の女性へ投げつける。
「っ……後ろ!?」
気づいた時には、既に紐が絡まっていた。
力ずくで千切るとしても、わずかな隙ができる。
その隙を見逃さず、国王とリリィは動く。
一気に迫ると、剣を突き刺した。
正面と背後から。




