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73話 王女を守護する

 「セラ! 窓から来てる!」

 「ああもう、いい加減引き下がってほしいものだけど!」


 大規模な陽動に合わせた襲撃。

 それは周囲からの助けを期待できない状況を作り出す。

 リリィはセラと二人で、王女たるロジーヌを守るはめになっているが、幸いにも今のところは防げている。


 「おらぁ!」

 「がはっ」


 扉の方は、とにかく家具を積み上げて塞ぎ、窓から入り込もうとしている者に対しては、セラが杖を使って突いたり叩き落としたりする。

 さらに、魔力の塊を放つ魔法を上手く制御し、ロープを切断したりも。


 「ったく、こっちを放っておいて王様のところに仕掛けなさいっての」

 「セラ、さすがにそういうことを言うのはちょっと……」


 近くに国王の娘がいることから、軽く注意する。

 ただ、肝心の本人は、殺されそうになっているというのにだいぶ落ち着いており、のんびりと果物を食べている。


 「意外と余裕でなによりです」

 「ロジーヌはロジーヌで、もう少し焦ってほしいというか」


 積み上げた家具が崩れないよう、定期的に確認をするリリィは、ため息混じりに頭を振った。


 「まあ、順調に守れてるからいいとして……」


 言葉は途中で止まる。

 窓から外を見れば、少しずつ骸骨の集団、あるいは軍団が城に迫っているのが見えた。

 いくつかの道では冒険者たちが兵士と協力して骸骨を撃破し続けていたが、膨大な物量ゆえに他の部分では突破されていたりする。


 「これは、まずいよねえ」

 「私たちに打つ手はないわ。まず襲撃者をどうにかしないといけないし」

 「王女への襲撃がそこまで激しくない。つまり王様はまだ生きてる。でも、増援とかは相手の方が期待できるわけだから……」


 現在、膠着状態にある。

 しかし敵の増援が来れば、一気に状況は変わるだろう。

 もちろん悪い方に。

 外では、貴族街を守る第二の城壁に集まった兵士が、骸骨の軍団と戦っているのが見えた。

 優勢でいるため、まだしばらくの時間は稼げるが、疲労の問題からやがて突破されるのは明らか。


 「あーあ。どこの誰がこんな凄まじいことをしてるのやら」

 「どっかの死霊術師」

 「それはわかってるよ。……死霊術師をどうにかできれば、あの骸骨は止まるかな?」

 「そりゃ止まるでしょ。問題は、勝てるかどうかだけど。あと居場所の問題もあるわ」


 どこにいるか不明な死霊術師。

 王都を一望できるどこかにいるのだろうが、そもそもどこに向かえばいいのか。

 これだけ大量の骸骨を大雑把にとはいえ動かせている時点で、強いことは間違いない。


 「うーん、いざとなったら…」

 「なったら、何よ?」


 セラが聞き返すので、リリィはとあるものを取り出した。

 それは魔法のスクロール。

 以前、レーアから貰った、ダンジョンから脱出できるという代物。


 「ダンジョンから脱出できる魔法のスクロールがあるけど、これを地上で使ったらどうなると思う? セラは魔術師だから知ってるでしょ」

 「こういうのは、ダンジョンに近い地上になるから、ギルドの中ね」

 「よし。どうしようもない時は城からギルドの中へ脱出ということで」

 「……私はそれでいいけど。王女様はどうなの?」

 「そうですね……いい考えだと思います」


 やがて、襲撃が来ない時間が長く続いたためリリィは耳をすませる。

 襲撃者たちの話を聞いて状況を把握するために。


 「やれやれだな。王女一人を仕留めるのに、これほど手間がかかるとは」

 「国王を担当してるところよりはマシだろう。あちらは激戦の最中なようで死者が多い」

 「こっちは監視で済んでるから、楽と言えば楽か」

 「窓から入ろうとした奴らは落とされて死んでるが」


 扉の向こう側では監視が行われているようで、部隊が待ち構えている。

 そこまでやる気はないのか、どこか面倒臭そうな様子でいた。


 「しっかしまあ、死霊術師か。外の骸骨は」

 「どこからあんな実力者を探し出したのやら。あそこまで大規模にやったら、国王と王女のあとに術師本人を消す必要が出てくるだろうに」

 「そもそもどこにいるんだ? というか、あれだけの骸骨をどこから運び込んだ?」


 現場で動く者にも知らされていないことが多いようで、しばらく愚痴が続いた。

 リリィはひとまず扉から離れるが、セラに呼ばれる。


 「どうしたの?」

 「ちょっと、あそこ」


 窓の外を見ると、空を飛びながら近づく存在がいた。

 それは数人のハーピー。

 何かを探しているような感じで城の近くを飛んでいる。

 その中にレーアの姿を見つけたリリィは、窓から身を乗り出して大きく手を振った。


 「レーア! こっちこっち!」


 すると、すぐにレーアを中心としたハーピーたちが窓の近くにやって来る。


 「ここにいましたか」

 「なんでわざわざ城の方にまで?」

 「オーウェン団長があなたに渡したいものがあるそうで。それでわたくしに任せたいと。ちなみに、一緒にいるのはラウリート商会の者たちです」


 ある程度、骸骨を押し留めることができたあと、オーウェンはレーアのところに来るといくつかのアクセサリーを手渡した。

 これらをリリィに渡してくれと言って。

 見知らぬ者には任せられないらしく、レーア本人が運ぶように要求してきたため、今に至る。


 「いくらゴールドランクの冒険者といえど、お嬢様に無茶なことを言うものだと思いましたよ」

 「幸い、迎撃されることはありませんでしたが、もし攻撃があれば、お嬢様と共に引き返していました」


 商会の者たちは、どこか疲れたような表情でいたが無理もない。

 自分たちが働く商会を束ねている人物が溺愛している娘。

 もし何かあったらと考えると、気が気ではない。


 「わたしに渡すものって?」

 「これです」


 鳥の足に掴まれている袋。

 それをリリィが受け取ると、中には指輪やペンダントといったアクセサリーがいくつもあった。


 「特殊な効果があるアクセサリーなようで、身につけると身体能力が向上するものばかり。他にもなんらかの効果があるらしいですが、わたくしは把握しきれません」

 「おぉ、団長がこんな贈り物をしてくれるとか」

 「ちなみに、すべて終わったら返してほしいそうです」

 「だよね」


 用事が済んだため、戻ろうとするレーアたちだが、リリィは呼び止める。

 その脳裏には一つの考えがあった。


 「待った。ハーピーが数人いるなら、人を運ぶことってできる?」

 「まだ子どもであるわたくしはともかく、他の者なら」

 「王女様を団長のところにまで送って」

 「……確かに、ここにいるよりは安全とは思います。けれど、運べば空中で攻撃を受ける可能性が」

 「わたしが止める。セラも援護して」

 「この白ウサギは無茶苦茶言うわねえ。まあ、やるけれど」


 話している間に、リリィはオーウェンが贈ってきた、特殊な効果のあるアクセサリーを身につけていく。

 それを見たロジーヌは、着替えたあと変装してから窓際に来る。


 「耳や髪を隠し、高価な衣服を着替えることで、灰色のウサギであることを隠します。これで攻撃を受けるまでの時間を引き伸ばせます」

 「……わかりました。王女様をオーウェン団長のもとに送り届けて、護衛を頼むことにします」


 レーアは軽く息を吐いたあと、商会の者たちにロジーヌを運ばせる。

 落とさないよう、紐などで軽く固定した上で。

 そして城から離れていくが、数十秒後、王女が逃げていることに気づいた者たちが攻撃を行おうと大声で指示を出していた。


 「セラ、ちょっと上の方に行ってくるね」

 「はいはい、無事でいるのよ」


 特殊なアクセサリーをいくつも身につけることで、リリィは軽々とした動きで窓から飛び上がり、切断されたロープの端を掴む。

 そして瞬く間に上の階に到着すると、そこにいた者たちを斬り伏せた。


 「身体が軽い。剣も……。これなら一人で……」


 圧倒的な強さで敵を蹴散らせた。

 高揚する気持ちでいたリリィは、このまま一人で城内にいる者を倒してしまおうかと考えた。


 「ちょっと! 終わったなら私が上に行くのを手伝いなさい!」

 「あ、セラ。置いていったら、危ないか」


 すぐに高揚は冷め、室内にあるロープを柱に結んでから下に垂らすと、少ししてからセラが上がってくる。

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