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69話 水面下で進む陰謀

 「このまま行くと……南門のほうだな」


 サレナが低く呟く。

 リリィたちも気づいていた。

 王都にそれぞれある門は、商人や旅人が頻繁に出入りする場所だ。

 だが、いったい何を密かに取引をしていたのか。それがわからない。


 「……まだ追いかける?」

 「当然だ。そっちも同じ考えのくせに」

 「まあね」


 サレナが先頭に立ち、リリィとレーアがそのあとに続く。

 男性は警戒したまま慎重に南門へと向かっていき、そして門の近くにある古びた倉庫の前で立ち止まった。

 確実に何かある。

 リリィの勘はそう告げていた。

 男性は周囲を見回したあと、倉庫の扉を軽くノックした。


 「……合言葉は?」

 「王女の微笑み」


 扉の向こうから聞こえてくる声に、男性はつまらなそうに答える。

 すると扉が静かに開く。

 中には何人かの姿があった。

 城で働く兵士に、貴族らしき者、まるで物乞いのような人すらもいる。

 様々な階層の人々が集まっているが、ここまでこそこそしているのは普通ではない。


 「……なるほど」


 リリィは小さく呟く。

 これはただの怪しい取引ではない。

 どうやら、王都の内部に何かしらの陰謀が渦巻いているようだった。


 「どうする?」

 「決まってるだろ。もう少し探る」

 「サレナにここまで野次馬根性があるとか、驚いたよ」

 「あるいは、リリィと一緒にいられるから探偵の真似事を続けていたり、とか」

 「…………」

 「あら、まさかの図星ですか」


 レーアはやれやれといった様子で頭を振るが、止めるまではいかない。

 怪しすぎる集まりを見つけた。大きな問題が起こるかもしれない。一国を巻き込むほど規模の大きいものが。

 つまり、大きい儲け話に繋がる可能性がある。


 「とりあえず、いざとなったら逃げますよ」

 「はいはい。ところでサレナ、さっきレーアが言ってたことってどれくらい合ってる?」

 「……うるさい」


 リリィたちは倉庫の中に潜む者たちの正体を探るため、慎重に近づいていく。

 最初はその辺の通行人に紛れ、次に建物同士の隙間を通り、誰にも見えない背後に回り込むと、倉庫の中でどんなやりとりが行われているのか、ウサギの耳による盗み聞きが開始される。


 「……はどのくらい進んでいる?」

 「今の進……七割ほど。王女の恋人という奴が出てきた……遅れが出ている」


 外がうるさい、壁越し、中の会話が小声。

 そういったことが合わさり、途切れ途切れにしか聞こえない。

 リリィたちは、より聞こえやすいところを探して少しずつ場所を変えるが、いきなり怒鳴り声が聞こえてきたので驚いてしまう。


 「ふざけるな! 殺せだと!? 我々に頼まずそっちでやってくれ!」

 「その態度はいけないな。お互い、一蓮托生だというのに」

 「国王が亡くなれば、王の子どもたちも遅かれ早かれだ。苦しみに満ちた生よりは、誰かに利用される前に死なせてあげるのが救いになる。王族というものは」

 「……ここに入った時点で今更、か。わかった。王女とその恋人はこの手で仕留める。……それで、国王は誰がやるんだ?」

 「ここにはいない、特別な人物さ。実力は確かだ。直接証明することはできないが、三日後、間接的に証明できる」


 まさかの内容に、リリィはサレナとレーアの顔を交互に見ていく。

 そして自らの顔に手をあてて、盛大なため息をついた。


 「わたしも狙われてるとか……」

 「王女のところに向かわず、隠れていればどうにでもなると思う。その場合、王女は死ぬだろうな」

 「国王や王女に、今聞いたことを知らせますか? そうすると、王女の恋人の正体を探る動きが活発化すると思いますけど」

 「待った。中ではまだ続きが」


 倉庫の中では話が続けられるようで、リリィは小声でそう言うと盗み聞きに集中する。


 「一つ、お尋ねしたい。特別な人物とはどのような者であるのか」

 「かなりの実力を持つ術師とだけ。深入りしない方が良いこともある」

 「実力ある罪人の力を借りたとでも? まあいい。成功して上に立つか、失敗して処刑されるか。もはや、そのどちらかしかない」

 「三日後、大規模な陽動を行う。国王はこちらが。王女やその恋人はそちらが。よろしいか?」

 「ソフィアという護衛がうろちょろしている。彼女は実力ある魔術師にして、回復魔法すらも扱える。対策は?」

 「そちらについても対策は用意している。ご安心を。まあ、この場では言えませんが」

 「秘密主義なのは結構だが、それで失敗しても後悔なきように。では失礼する」


 大まかな話し合いはこれで終わるようで、様々な足音が聞こえ始める。

 見つかる前に立ち去ろうとするリリィたちだったが、その時近くの壁が開いて人が出てくる。

 どうやら、壁に偽装した扉らしく、人に姿を見られず出入りできるようにしてあるようだ。


 「……ええと、こんにちは」

 「聞かれていたか。逃がさん」


 ガンガンガン!


 相手は金属製のガントレットを身につけており、そのまま倉庫の壁を叩いて大きな音を出した。

 中にいる者たちに異常が起きたことを知らせる合図というわけだ。

 リリィたちは一目散に逃げ出すと、幸いにも相手は追いかけてこない。


 「よし、ひとまずこれで……」

 「いや待て。回り込まれてる」


 サレナは舌打ちする。

 王都の内部に進む道に、明確な意思をもってこちらを見ている者たちがいた。

 走っている三人の子ども。これ自体は軽く視線を集める程度で、ほとんどの者はすぐに視線を外す。

 しかし、じっと見つめたままの者がいる。

 その手は武器に置かれており、いつでも引き抜けるようにしてあった。


 「外への道は……空いてる」

 「人が大勢いるところでは、さすがに周囲の目が気になるようだ」

 「どうしますか? 明らかに、外へ出るよう誘導しています。わたくしたちが、のこのこと外へ出たなら、集団で攻撃してくるでしょう」


 謎の集団は、規模が大きく統制が取れている。

 正面から相手にするのは大変。

 しかし、抜け出すやり方がないでもない。

 リリィはレーアを見る。

 より正確には、鳥となっているハーピーとしての四肢を。


 「レーア。どれくらい飛べる?」

 「そこそこ、としか。あまり飛ぶ練習はしていないので」

 「サレナを運んだまま商会まで行ける?」


 ラウリート商会は、それなりの規模の組織であり、自前の武力も持っている。

 もし二人が避難できれば、短い間ならなんとかなるだろう。

 なにせ、相手は三日後にはなんらかの行動を起こすのだから。

 そんなリリィの考えを読んだのか、サレナは険しい表情で質問をする。


 「それで、お前はどうするんだ」

 「んー……走って、相手を撒いて、男装してから城に向かい、王女を通じて国王に告げ口ってところ。それに、わたしが走り回れば、狙いを分散できるし」

 「また、自分だけ危険なことを」

 「昔の話だけど、お姉ちゃんだからね」


 リリィはかすかな笑みを浮かべると、サレナの頭をそっと撫でる。


 「……ふん」

 「それでは、サレナはわたくしの足をしっかりと掴んで。こちらでも掴みますが、飛び道具や魔法が飛んでくる可能性があるので、力が抜けることも」

 「よし。さん、にい、いち……」


 タイミングを合わせて同時に動く。

 リリィは王都内部を目指して走り、周囲の視線がそちらに向いた隙にレーアはサレナを運ぶ形で飛び始める。

 王都には大勢の人々がいる。それだけ多くの種族がいる。


 「意外と、攻撃は来ませんね」

 「うぅ、早く地上に降りたい……空は苦手だ」


 ハーピーのように空を飛べる者は、さすがに少ないがぽつぽつと王都の空を飛んでいるため、巻き添えを避けるためか、地上からの攻撃はかなり控えめだった。


 「向こうは無事か。あとはわたしの方だけど……」

 「逃がすな! あのガキを捕まえろ!」

 「さてと、こっちも頑張らないと」


 空にいる者は捕まえにくい。

 それゆえに、地上にいるリリィのことを捕まえようと、魔法などで身体能力を強化した者が追いかけて来ている。

 リリィは少し深呼吸すると、意識を切り替えて本気で走り始めた。

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