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56話 異変を解決した報酬

 ラウリート商会の建物へ戻る二人だが、そこには笑みを浮かべるレーアが待ち構えていた。

 口は笑っているが、目は笑っていない。かなり怒っている。


 「お帰りなさい。無事でなによりです」

 「せめて連絡の一つくらいあれば……もう過ぎたことだけど」


 セラは隣で肩をすくめるだけ。

 お金持ちなお嬢様が怒った場合、どうすることもできないのを自覚しての行動だった。


 「何があったのか、じっくりと聞かせてもらいます。異論は一切認めません」


 レーアは子どものハーピー。

 手入れの行き届いた茶色い髪や高価そうなドレスを見れば、一目でお金持ちなのがわかる。

 普段は可憐な少女である彼女だが、それはいくらか演技が入っている。

 そう振る舞う方が、家にとっても有益なのを理解しているのだ。

 だが、今はその演技を捨てて鋭い視線をリリィに向けていた。


 「怒ってる……?」

 「怒ってませんよ? さっさと中へ」


 外では人の目がある。

 商会の建物に入ったあと、商会がレーアに用意していた個室に全員で向かい、扉が閉まったあとレーアはリリィに詰め寄った。


 「なぜ連絡の一つもなかったのですか?」

 「いやもう、色々あって……」


 リリィは疲れたような表情で、商会を出たあとの状況を語っていく。

 即位式が中断した日、王都の冒険者ギルドに向かった。

 そこで国から出された大きな依頼を、他の冒険者と共に受け、ダンジョンの中を探索した。

 いくらかの成果を持って報告しに戻れば、金貨百枚をボーナスとして貰い受ける。

 ここまでは順調だったが、地下から巨大なモンスターが地上に出てきてからが大変だった。

 ギルドが放棄されたあと、救世主教団からの接触があり、教祖のソフィアに会いに城へ向かう。

 そしてソフィアと協力して暗殺組織を撃退したあと、オーウェンのところに向かうも崩落に巻き込まれ、最下層よりも下の階層で怪しげな装置を見つけて破壊した。


 「とまあ、これだけのことがあって、だから連絡する余裕がなかった」

 「…………」

 「嘘は言っていない。あたしも一緒に行動していたが、本当のことだ」


 ヴァースの町の自警団員として真面目に活動していたサレナの言葉を受け、レーアの茶色い目から怒りが少しだけ消える。

 しかし完全にはなくならない。


 「はぁ……踏むだけで勘弁してあげます」


 半人半鳥なハーピーという種族は脚が鳥となっている。

 リリィの足を踏みつつ、鳥としての鉤爪を食い込ませた。


 「痛い」

 「加減はしてます」


 まだ色々と言いたいことはあるようだが、とりあえずこれで終わりにするらしく、レーアは次の話に移った。


 「今後どうするか、ですが」

 「ええと、ちょっと話が」


 今後について話そうという時、リリィは気まずそうに手をあげる。


 「なんですか?」

 「異変を解決した一人として、ギルドで報酬を受け取ったあと、色々と寄るところが」

 「ギルド、救世主教団、他には何があります?」

 「……団長と一緒に調査。ちなみに団長直々の依頼」


 レーアは笑みを浮かべたまま、リリィの両肩に手を置いて壁際に押さえつける。


 「今度はどんな面倒事なのか、詳しい説明を。さあ、早く」

 「他の人には言わないでよ? 最下層よりも下の階層で……」


 半ば脅される状態となり、リリィは簡単な説明をする。

 異変を引き起こしていた装置の中には、自我を持つ存在がいた。

 その存在が、指示を出したのが王様だと口にした。

 オーウェンは王様を調べるらしく、報酬先払いで協力を求めた。

 これらの説明のあと、レーアは険しい表情となる。


 「そろそろ叩いてもいいですよね?」

 「なんか暴力的じゃない?」

 「モンスターが地上に出てきて暴れたせいで、わたくしはしばらくの間、お母様の代わりに商会で色々やらないといけないことができました。……また、待つしかありません」

 「リリィ。あなたねえ、とても危険なことに首を突っ込んでること理解してる? 王様をどう調べるわけ」


 セラは腕を組むと、頭を横に振る。

 そして、今からでもその依頼を断りなさいと言う。


 「そうだ。いくらオーウェン団長の頼みとはいえ、報酬を返してでも首を突っ込まない方がいいことはある」

 「ちなみに、団長はみんなに協力してほしいようだけども」


 その言葉を受けて、他の三人は渋い表情となる。


 「私はパス。まだ死にたくないの」

 「わたくしは商会のことで手一杯なので、手伝えません」

 「さすがにそれは危険過ぎるとしか言えない。あたしは、協力できない」


 王様を調べるというのは、あまりにも無謀としか言い様がない。

 三人は協力できないことを伝えるも、リリィはしょうがなさそうに頷くだけ。


 「ま、ある程度団長に付き合って、ダメそうならやめるから。あ、ギルドに報酬を受け取りに行くけど、これは一緒に来てよ」


 ギルドに行くことに関しては、三人とも同意した。

 リリィが先頭に立ち、半分ほど崩壊しているギルドの建物に入ると、中では掃除や片付けが進められていた。

 かろうじて無事な受付では、かなりの行列ができていたが、リリィに対してギルドの職員は大きな袋を直接持ってくる。


 「リリィ・スウィフトフットさんですね。あなたが来たら、これを渡すようにとの連絡が」


 両腕で抱えないと持てないほどに大きな袋。

 人のいない隅に移動してから中身を確認すると、大量の金貨が入っていた。


 「おぉ……」


 思わず声が漏れ出てくるが、周囲の冒険者たちに中身が知られるのはよくないため、リリィは咄嗟に口を閉じる。

 幸い、誰にも注目されなかったため、気をつけながら商会へ運ぶ。

 そして、ベッドの上に金貨がぶちまけられた。


 「どのくらいあるかな」

 「数えればいい。面倒だが」

 「こういうのは、商会に計算を任せましょう」

 「なら、ひとまず袋に戻さないといけないわ」


 一枚一枚数えていたら時間がかかってしまう。

 なので重さから大まかな枚数を予測することに。

 ラウリート商会には重さを測る器具が置いてあるため、商会の代表者に話を通し、大量の金貨が実際に何枚あるのか確認してもらう。


 「ギルドから、これだけの報酬を得られる冒険者。ぜひとも、ラウリート商会に所属してほしいところですが」

 「それでは、リリィがお母様のものになるので嫌です」

 「これは失礼しました。確かに、エリシア様の駒になっては意味がない。組織に縛られていては、これほどの成果を得ることは難しいでしょう」


 大きな天秤があった。

 片方には金貨の詰まった大きな袋、もう片方にはおもりが乗せられ、釣り合うようにおもりの数は調整される。


 「大まかにですが、金貨二千枚といったところです。数枚ほどの誤差があるかもしれませんが」

 「計算をしてくれてありがとうございます」

 「いえいえ。お金の計算はよくやっていることなので」


 今回、国の依頼をこなすことで得られたのは、参加するだけで得られた金貨十枚、探索した結果わかった情報を持ち帰ることで得られたボーナスとして金貨百枚、そして異変の解決をしたということで金貨二千枚。

 莫大な報酬に、リリィはにんまりと笑う。


 「この分だと、借金を返し終わって悠々自適な生活はそう遠くないかも」

 「いや、それは楽観的過ぎるぞ」

 「そうです。今回、王都で厄介な出来事が起きたからこそ、これだけの報酬を得られる機会がありました」

 「今回と同じ規模の事件とか、正直言って巻き込まれたくないわ。私たちのうち、誰か死ぬかもしれないし」


 危険で厄介な出来事が、アルヴァ王国の心臓部たる王都アールムで起きたからこそ、大金を得られた。

 これは新王の即位式という重要な時期に重なったのも大きい。


 「重要な時期に、大きな出来事……何か色々動いてそう」


 大量の金貨については、このまま持ち運ぶのも大変なので、二千枚はそのまま借金返済に回される。

 これで残る借金は金貨三千枚。

 身軽になったリリィは、次の行き先として救世主教団へ向かう。

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