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2話 ラミアの女性

 「うーん……どこだ? 見つからない」


 探索を初めてから三十分近くが経過した頃、リリィは唸っていた。

 ダンジョンは、町に匹敵するほど一つの階層が広い。

 ここに不規則な通路や小部屋が組み合わさることにより、なかなか探索は進まない。

 幸い、石造りの地下通路といった内部構造は歩きやすいが、それは敵対する存在にとっても同じこと。


 「グルルル……」

 「野犬、じゃないよね。イヌの姿をしたモンスターか。邪魔だな」


 ダンジョンの中では、モンスターがどこからともなく現れる。

 さっき通った場所に現れたりするので、探索している時は気を抜けない。

 そして現在、リリィは獣のようなモンスター三体に狙われていた。

 敵意のない相手なら、戦わずにやり過ごすことができるが、残念なことにモンスターの方は今にも飛びかかる気満々だった。


 「お金にはならないけど消すか。そりゃっ」


 襲ってきた冒険者に投げつけたのと同じ、おもりのついた紐を投げる。

 これは相手を倒すというより、行動不能にするため。

 一体の足に絡まるが、残る二体には避けられる。


 「ガァッ!」

 「危なっ」


 避けたモンスターは一気に迫り、上と下から飛びかかってくる。

 明確に頭と足を狙ってきていた。


 「ふおおおっ」


 これをリリィは前に転がることで回避し、すれ違いざまに下側にいたイヌのモンスターを剣で斬ってしまう。

 そのついでに、紐が絡まっていて満足に身動きできないモンスターにはトドメを刺す。

 一対一ならそこまで危険ではないため一気に仕掛けていくと、勝ち目がないと判断したのか生き残りはその場から逃げていく。

 しかし、曲がり角を超えた瞬間にモンスターの悲鳴があがり、さらに吹き飛ぶ姿を目にすることに。


 「ん? いったい何が」


 その答えはすぐに判明する。

 モンスターが向かったところから、別の冒険者が現れたからだ。


 「あら、こいつらはあなたが仕留めたわけ? だから生き残りがこっちに来たのね」


 なにやら納得するように頷くのは、魔術師の格好をしたラミアの女性。

 紫の髪と目を持つ、一目見て美人と言っていい人物。

 ラミアとは、上半身がヒトで下半身がヘビという、半分ほどモンスターな存在。

 そのため、大昔は他の種族と激しく争っていたが、時代が進むと共に争いは減っていき、今ではそれなりに交流が進んでいる。

 それでも、だいぶ異質な姿のため奇異の目で見られることは多いのだが。


 「ええと、あなたは?」

 「セラよ。冒険者として登録してる名前はセラ・グローム。私は名乗ったから次はおちびちゃんの番」

 「リリィです。登録してるのはリリィ・スウィフトフット」

 「スウィフトフット? また大層な名前をつけてるわねえ」


 驚きながら肩をすくめるセラという女性。

 これだけなら普通だが、少し意識を下に向けると、彼女のヘビな尻尾が近づき、途中から一気に迫ってくる。

 巻きついて捕まえようとしているのだ。

 リリィは咄嗟に後ろへ跳んで回避すると、小さな拍手の音が聞こえてきた。


 「足の速さは確かなもの、と」

 「いきなり何するの」

 「ごめんなさいね。ちょっと試したくなっちゃって。今の行動については謝るわ」


 出会い頭に仕掛けたことについて頭を下げるセラだが、その場から立ち去らずにリリィのことを見つめていた。


 「あなた、どんな依頼を受けてここに?」

 「言う必要はないと思う」

 「怒らないでよ。さっきのお詫びとして、一回だけ依頼を手伝ってあげる。私は依頼が片付いたから、あとは帰るだけだし」


 手伝ってくれるということなので、リリィは歩くキノコを探していることを伝える。


 「場所知ってる?」

 「歩くキノコか。どっかで見た気がするけど、どこだったかしら……」


 セラはダンジョンの地図を開くと、しかめっ面になって思い出そうとするが、なかなかに難航していた。

 結局、詳しいことは思い出せず、大雑把にこの範囲にいるだろうと口にするだけ。

 リリィはちょっと冷めた目で、セラという大人を見つめる。


 「な、なによ」

 「いや、別に~。あんまり使えないなって」

 「あー、尻尾で締め上げて苦しむ声を聞きたくなってきたわ」

 「さっきみたいに避けるけど」


 目的の場所はそこまで遠くない。

 一定の範囲をしばらくうろうろしていると、探していた存在を発見する。

 やや離れたところを、人間の大人よりも大きいキノコがゆっくりと歩いていた。

 赤い色をした傘は厚みがあり、その下にある胴体とも呼べそうな部分は、ずんぐりと丸みを帯びていて太い。

 これだけならただの巨大なキノコに見えるが、視線を下に動かすと、これまた太い二本の足が生えているのが確認できる。腕はないようだ。


 「それで、あなたの受けた依頼は、あのキノコをどうするように書いてあるわけ?」

 「頭の傘を切り取って持ち帰ってくるように、って」

 「なら、残りの部分は私が好きにしてもいい?」

 「何かに使うの?」

 「料理の材料として。普通に材料買って作るより、安く済むのよ。よければご馳走してあげるけど? モンスター料理をね」

 「むむむ……それなら、ちょっとだけ」


 一部のモンスターを食材として利用することは、そう珍しくもない。

 どの階層に、どのようなモンスターが出現し、どう調理すると美味しく食べられるのか。

 ダンジョンに潜る冒険者向けに専用のレシピが販売されているくらいには、モンスターを食べることには需要がある。


 「それじゃ、ちゃっちゃと目的を果たしましょうか」


 セラは音を立てずに背後から忍び寄ると、歩くキノコの足に尻尾を巻きつけてから引っ張った。


 ボトッ


 キノコ自体は大きさの割に軽いからか、倒れてもちょっとした音がするだけ。


 「ほら、チャンスよ」

 「はいはーい」


 すかさずリリィは駆け寄ると、巨大なキノコに対して力強く剣を振るい、まずは上下に真っ二つにしてしまう。


 「普通のキノコより、そこそこ硬い気がする」

 「そりゃモンスターだし。まあ、剣を防げるほどじゃないから楽な限りね」


 歩くキノコを仕留めたあとは、持ち帰る予定の頭の傘を慎重に切り取り、残りの部分はセラが食べやすい大きさに切り分けていく。


 「食材はキノコだけ?」

 「んなわけないでしょ、他の食材も加えるわ。そっちは私が自腹で用意する。とはいえ、まずはあなたの依頼を済ませてから。料理はそのあと」


 切り分けたものを大きな布に包んだあと、来た道を戻って地上を目指す。

 他の冒険者に襲われるということもなく、無事に戻れたあとはすぐさま受付へ。


 「依頼の品を納品しに来ました」

 「確認させてもらいます」


 数分ほど待ったあと、依頼を完了した報酬として銀貨が一枚支払われる。

 これにより、必要となる銀貨は残り五枚。

 追加報酬については、何かのチケットらしき代物が手渡される。


 「これは?」

 「ギルドの近くにある食堂の無料券です。使えるのは一人一回のみ」


 依頼には、食事を奢ってくれると書いてあったが、まさかの無料券ときた。

 ないよりは嬉しいが、少し期待外れでもあり、冒険者ギルドを出たあとリリィは渋い表情となる。


 「……ないよりはいいけれど」

 「おちびちゃんの気持ちはわかるわ」

 「どうせなら、もっと高い店の無料券だったらよかったのに。セラ」

 「はいはい、どうしたの?」

 「モンスター料理、期待してもいい?」

 「もちろん。お姉さんに任せなさい。店で厨房借りて、いくつか作るから」


 自信がかなりあるのか、堂々と胸を張り、不敵な笑みを浮かべる。

 その部分だけを見れば、大人のラミアということもあってなかなかに心強い。


 「不味かったりする可能性ってどのくらい?」

 「ふーん、ラミアである私から、きついお仕置きをされたいようね。この生意気なおちびちゃんは」

 「……お姉さん、許して?」

 「ええ、いいわ。尻尾できつーく締め上げたあとにね」

 「…………」

 「待てこら、逃げるな」


 一緒に指定された店に向かうリリィだったが、うっかり遠慮がなさすぎる言葉を口にしてしまい、しばらくセラに追い回されることになった。

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