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119話 お騒がせウサギの帰還

 道中、色々あったものの、リリィたちの乗る飛空艇は昼頃に無事ヴァースの町へと到着した。

 町に飛空艇が降り立つことは珍しいため、船内からでもわかるくらい、地上からの注目を集めていた。


 「で、どこに降り立つわけ?」

 「そりゃあ、もちろん……自警団のところ」


 飛空艇はそこそこ小さいものの、馬車よりは大きい。

 町の外では盗られる可能性がある。かといって中は中で場所は限られる。

 そこでリリィは、自警団の敷地に降り立つことを決めた。

 訓練場や厩舎が存在し、だいぶ広いためだ。


 「ところで、団長に連絡とかは」

 「してない」


 あっさりと言い放つリリィに、尋ねたサレナはため息混じりに頭を振る。


 「まったく……まあ、いいか」

 「サレナってたまに辛辣な時あるよね」


 自警団の上空に到着したあと、少しずつ高度を下げていく。

 いきなりやって来て降り立とうとする飛空艇に、地上の団員から文句が出てくるが、これはサレナがロープを使って船内から地上に向かうことで対応する。


 「サレナ、あとリリィ。もう少しやりようがあると思うんだが」


 二人のことを昔から知っている古参の団員は、やれやれといった様子で肩をすくめた。


 「とりあえず、団長を大急ぎで呼んでる。あの人が到着するまで、そこで待機してくれ」


 大急ぎという言葉通り、数分もすると自警団の団長であるオーウェンがやって来る。

 いつもの見慣れた格好で、苦笑しつつ飛空艇に視線を向けていた。


 「おいおい、少し見ないうちに、とんでもない帰り方をしてくるじゃないか」


 リリィはオーウェンに向かって、にやりと悪戯っぽく笑ってみせた。


 「色々あったけど、無事にこうして戻ってきたわけで」

 「そうだな」

 「団長の裏切りとか、団長の裏切りとか」

 「もしかして、事あるごとにそれ言ってくる気か?」

 「どうしよっかなー」


 わざとらしく考えるふりをしたあと、リリィは軽く息を吐いた。

 今までの旅路を思い返しながら。


 「ま、そのうち言わなくなるかも。裏切りと引き換えに、団長から色々と貰ったので」

 「お騒がせウサギめ。……今日はどうするんだ?」

 「適当に宿で……いや、レーアの屋敷で一泊すてから考える予定。ところで団長」

 「ん?」

 「わたしたちがいない間、町で何か変わったことってありますか」


 あの時、ヴァースの町を旅立ってから、いくらかの月日が過ぎていた。

 帰ったからなんとなく。

 そんな気持ちで尋ねるリリィだが、オーウェンは肩をすくめ、何も変わってないことを伝える。


 「なんにも。おかげで、少しばかり人が減って寂しい限りだ」


 ヴァースの町はダンジョンに多くを頼る経済だった。

 そのダンジョンが攻略され、消失したとあっては、儲け話を求める冒険者たちが寄りつかなくなり、経済的に打撃を受けた。


 「とはいえ、だ。伝え聞いただけだが、色んな地域のダンジョンが次々と消失してるらしくてな。……魔界での冒険の結果だが」


 オーウェンは声を抑える。

 広い範囲でダンジョンが消えたため、ヴァースは相対的に被害が少ないところになったとのこと。

 それもこれも、ラウリート商会あってのもの。

 そう語ったあと、飛空艇を見た。


 「これは自警団で預かってやる。泥棒とかから防ぐために」

 「それじゃ、またあとで、団長」

 「へいへい」


 リリィたちはその場を離れ、町の通りを歩いていく。

 目指す先は、ラウリート商会のお嬢様であるレーアの屋敷。

 母親であるエリシアからプレゼントされたというその屋敷は、留守を任されていた従者たちが綺麗に維持していた。


 「お帰りなさいませ、お嬢様」

 「来客は三人。泊める準備はできますか?」

 「もちろんです」


 まずは少し遅い昼食を屋敷で取る。

 そのあとは入浴。

 謎の果物による酔っぱらい騒動のせいで、リリィだけ他の三人から微妙に距離が空いたまま洗うことに。


 「これ、実際やられると地味に傷つく」

 「バカなことをやったのが悪いわ」

 「…………」

 「こら、私の尻尾を見つめるな」


 一通りのことを済ませているうちに、すぐに夕方から夜へ。

 四人は屋敷の中庭に腰を下ろし、前よりもいくらか静かになった町の喧騒に耳を傾け、そして頭上の星空を眺めた。


 「世界の危機は遠ざかった。これからどうしようかな」


 リリィは手入れされている芝生の上に寝転がり、ぼんやりと空を眺める。


 「数ヶ月ほどの旅。その間に、色々あった。でもまあ、あたしはリリィと一緒に旅をすることができてよかったと思ってる」


 ピクピクと動く白いウサギの耳を触りながら、黒ウサギなサレナは呟く。

 血が繋がらない姉妹であり、それゆえに語りたいことも語れないことも溢れている。


 「わたくしは、町の外の世界というものを知ることができ、得難い経験を積むこともできました。旅ができてよかったという言葉には、同意見です」


 ハーピーとしての翼をふわりと動かしながら、レーアは言う。

 お金持ちな家のお嬢様であり、母親は過剰な愛情を注いでくる。

 世の中、良いことや悪いことに満ちている。だからこそ、己の目で見て耳で聞くことは大事。


 「……初めて会った時は、尻尾で締め上げて痛めつけてやりたいくらい生意気なクソガキだったのに、まさかこういうことになるなんてね」


 ラミアであるセラは、ヘビの尻尾を目の前に持ってくると、小刻みに揺らす先端を見つめる。

 大人と子ども。違いはあれど、手を組む意味はあった。

 時々、ムカッとすることはあれど。

 最初は微妙な出会いだったが、世界の危機を救うに至る。偉業だが、ほとんどの者は知らずにいる

 やがて盛大なため息をついた。


 「ため息はよくないよ?」

 「ああもう、この白ウサギったら、ほんと尻尾で締め上げたくなるわ」


 短くも濃密であった旅路。

 その果てに戻ってきた始まりの場所。

 しばらくすると全員が沈黙し、星空を眺めた。




 誰からともなく、ゆっくりと立ち上がる。


 「星、綺麗だったな」


 ぽつりとリリィが呟き、サレナは小さく頷いた。


 「そういえば、旅の間ゆっくりと星を見ることは減っていた気がする」

 「言われてみれば、そうかも」


 リリィはあくび混じりに答えた。

 屋敷の中へ戻る途中、レーアが口を開いた。


 「これから、どうしますか?」


 問いかける言葉は、リリィ個人に向けられたものだが、自然と全員の足が止まる。

 リリィは少し考え込むと、それから、にっと笑う。


 「んー、まずは寝る。明日考えよう」

 「……ある意味、リリィらしい」

 「まったく……まあいいわ」

 「では、全員分の個室を用意しているので、中に急ぎましょう」


 サレナとセラは揃って頭を振ると、レーアは肩の力を抜くように笑った。

 急ぐ必要なんて、ない。

 ほとんどの者に知られないまま世界を救った英雄たちは、今はただ、世界の片隅で、小さな安らぎを手にしている。

 未来のことは、明日考えればいい。

 夜風が静かに吹き抜ける中、リリィたちは並んで歩き、暖かい屋敷の灯りの中へと消えていった。

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