111話 看守と奇妙なゴーレム
「……あなたは?」
警戒をにじませながら、リリィは尋ねる。
一見すると、罪人たちの仲間のように見える。
だが、言動からして明らかに違った。
「見ての通りだ」
「見た目だけじゃ、わかりません」
「罪人の中に紛れて監視を行う看守だ。なにせここは特殊な牢獄であるがゆえに」
髪の隙間から、わずかに角が覗く。魔族の男性だった。
着ている服は罪人たちと同じく安っぽいが、立ち振る舞いや纏う空気がまるで違う。
看守だと言われて、ある程度の納得がいった。
「あー、牢獄としての意味を果たせなくなるとは、どういう意味かお聞きしても? ちょっと、ここには詳しくなくて。ははは」
臨時に組まれたパーティーの中で、最も年長者である妖精のジョスが、気安さを装って尋ねた。
すると、魔族の男性はどこか観察するような視線でリリィたちを見回す。
「そのままの意味だ。ここは牢獄として利用されている。君たちは、どこからやって来た? 外部の者が簡単に入れないよう、周辺地域には罠を仕掛けてあるのだが」
警戒の色を強めつつ、魔族の男性は道具袋から何かを取り出した。
長方形の薄い箱に見えたが、それを耳に当てると、何か話しているのか口を動かす。
数十秒後、盛大にため息をつくと、剣を引き抜いた。
「他の塔に連絡を入れて確認したところ、どこの塔にも侵入者がいるようだ。……つまり、これは組織としての侵入行動である。無理矢理にでも話を聞かせてもらう」
「ちっ、来るぞ!」
相手は一人。こちらは六人。
しかしそれでも仕掛けてくるということは、なんらかの策がある。
あるいは、ただ単に強いだけかもしれない。
まずはエクトルが迎え撃つも、押されていた。
「いかん、こいつは手練れだ」
「ふん、所詮は一人で、生身の肉体を持つ者でしかない。エクトル、巻き込むけど我慢してくれ」
「なに!?」
前衛がすぐにやられないなら、後衛が助けることができる。
エクトルごと巻き込む高威力の魔法を、ジョスが使うことで形勢は逆転。
あとはリリィたちも加わると、数の暴力で押し切った。
個人としては強い魔族の男性だったが、多勢に無勢。
「とりあえず、これで大丈夫かしらね」
「……一つ聞きたい。何を目的に、ここへ侵入した?」
手足を縛られた魔族の男性は質問してくる。
それなりの敵意はあるが、こちらを殺そうとするほどではない。
なのでリリィは、少し迷った末に言う。
「ダンジョンを消すために」
「……ふむ。どこかの派閥が送り込んできた者か。まあ反対意見は根強い。このような状況もあり得るか」
なにやら一人で納得していた。
その様子からも、魔界が一枚岩でないことが伝わってくる。
そもそも二つの世界を融合させるなど、前代未聞の試みなのだから、当然かもしれない。
「もう止められないので忠告をしておく。コアがある部屋へと通じる道だが、特殊なゴーレムが潜んでいる」
「知っています。さっきの人たちの悲鳴を聞いたので」
「それは牢獄としての役割を維持するため、コアを目指そうとする者の心を攻撃する存在。侵入者が心を壊されて死んでも、私は助けることはしない」
這いずり、転がり、不恰好ながらも壁際に移動すると、壁に背を預けて無言のままでいた。
リリィはそんな魔族の男性から視線を外すと、未知の何かが潜んでいる奥の通路を見る。
「まずはわたしが行く。危なくなったら、すぐに回避できるから」
「……もしリリィの気が触れたら、剣で殴って気絶させてでもどうにかする」
「いや、それはちょっと……もう少し穏便な方法で」
真面目な顔でなかなか物騒なことを口にするサレナであり、リリィはなんともいえない表情となる。
そして、全員が警戒する中、広間から奥の通路へ進むと、顔をしかめたくなる光景が広がっていた。
「し、死んでる」
「全員、苦しんだ状態でいますね。心を壊すと言っていましたが、その結果、肉体に異常が出て死ぬのでしょうか?」
ハーピーとしての高い視力により、レーアは遠くからじっくりと観察していく。
通路には、数人の死体が転がっていた。
それは無罪を得るため、抜け駆けした罪人たち。
苦しみに満ちた表情のまま命を失っており、さらに奥へ視線を動かすと、奇妙なゴーレムがいた。
「あれは……何かわかる?」
リリィは問いかけるも、誰も答えられない。
そのゴーレムは、形状だけを見ると足の生えたキノコ。
ただ、全身がなんらかの液体で構成されており、動くたびに体は波打つ。
あまりにも怪しすぎて、近づくのを躊躇してしまうリリィだが、一度深呼吸して気合いを入れると、ゆっくり近づいていく。
「このまま通り抜けるのは……無理か」
ゴーレムは、先に進むことを拒むかのように通路の中央に立ち塞がっている。
幸い、今のところ向こうからは仕掛けてこない。
リリィは観察を続けた。
何か、核となる部分があるはず。それを破壊すれば……。
目を凝らすと、頭部らしき場所に握り拳ほどの金属の塊が見えた。
「セラ! ジョス! ちょっと来て!」
リリィが未だに無事なこともあって、呼ばれた二人は距離を縮めた。
そして頭部らしき場所にある金属の塊を示すと、二人は無言で魔法を使う用意を済ませた。
「せーのっ!」
まずはリリィが剣を振るい、液体で構成されたゴーレムから、核を外に弾いて出そうとした。
これは、かすめるだけで失敗に終わる。
続いてセラとジョスの魔法が命中し、効いているのか姿勢が崩れる。
「よし、あとは」
「逃げなさい!」
「逃げろ!」
ほぼ同時に出てくる叫び声。
リリィが視線を動かすと、液体のゴーレムから腕らしきものが生え、突如殴りつけてきた。
これにより、白ウサギの小さな肉体は壁に叩きつけられ、今まで動かなかったゴーレムが明確に動き始めた。
「……うぅ、痛いけど、生きてる」
危険な一撃だが、耐えた。
ゴーレムが仲間の方に向かっているので、リリィはそのまま奥に向かい、コアを探そうとするが、途中で足が止まる。
「霧……?」
いつの間にか、辺りにはうっすらと霧らしきものが満ちていた。
それは、ほんのりと甘い香りがする。
何度か呼吸をすると、リリィは大きく目を見開いた。
「まさか、この霧はあのゴーレムから……」
見ると、ゴーレムの周囲ほど霧は濃くなっている。
明らかに吸ってはいけないものだ。
呼吸を止めるのは困難だが、遠ざかろうと足を動かしたその時。
足に力が入らず、リリィは転んでしまう。
「まずい、このままだと……」
通路に転がっている罪人たちと同じ末路になる。
焦りながらも、意識は次第に薄れていく。
仲間たちが倒れていくのが遠くに見える。
やがて、リリィの目は完全に閉じた。




