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108話 魔界のダンジョンへ挑む

 三週間という日々は、驚くほどあっという間に過ぎ去った。

 その間、リリィたちは装備を整え、仲間を増やし、さらなる経験を積んでいった。

 救世主教団からは使者が訪れ、魔界へ通じる新たな門の建設も進められた。

 そして、アルヴァ王国からの伝令が到着したとき、リリィのパーティーだけでなく、サーラとレオンのパーティーも同席していた。


 「報告があります。各地域での用意は整ったとのこと。詳細については、こちらの魔導具を用いてお話を」


 差し出されたのは、同種の魔導具同士であれば遠距離でも会話が可能という、貴重な品だった。

 伝令は、この魔導具の運搬という重要な任務も担っていたようで、リリィはそれを受け取ると、すぐに使用を開始した。


 「もしもし? 聞こえますか?」

 「……こえています。その声はリリィですか」


 最初は雑音でよく聞き取れなかったが、やがてはっきりと声が聞こえてくるようになる。

 ソフィアの声だった。


 「私は今、南部諸国の一つにいます。リセラ聖教国の方面は、私個人の知り合いに任せました。騎士であり冒険者でもある人物です」

 「攻略はいけそう?」

 「無理があろうとも押し通します。世界からダンジョンという脅威を取り除く、絶好の機会なので」


 言葉だけとはいえ、明確な意思を感じられる。

 とりあえず大丈夫だろうということで、リリィは話題を変える。


 「王国の方はどうなってるの?」

 「ラウリート商会が、国王陛下と秘密裏に協力して攻略部隊を用意しています。率いるのはオーウェンという人物」


 まさかの名前に、リリィの白いウサギの耳はピクッと動いた。

 自分が知っている中で一番の実力者。

 魔界にある未知のダンジョンに挑むなら、経験豊富な冒険者を利用しない手はない。


 「なんでも、成功したら借金が帳消しになるとか」

 「あー……」


 かつてリリィが抱えていた大量の借金。

 今はすべてオーウェンが背負っており、そんな借金を一度に消せるなら、オーウェンは断らないだろう。

 それと同時に、レーアの母親たるエリシアの恐ろしさに、リリィは遠い目となる。

 借金を無くすことができてよかった、と。


 「まあ、それなら王国側は攻略成功は確実である、と。団長は強いし探索もいける人なので」

 「リリィ、私はそちらの攻略を期待しています。イドラだけ、攻略すべきダンジョンが二つあるので」

 「うん。頑張ります」

 「その魔導具は持っていてください。また連絡する時に備えて。では」


 会話はこれで終わる。

 そして王国からの伝令も去り、リリィはサーラとレオンの方を見る。


 「攻略に失敗しても大丈夫な数はどれくらい?」

 「……一つか二つ、だろうねえ」

 「まず、どれも失敗しない方がいいのは大前提。こちらの予想を超える事態も考えると、すべて攻略できないと不安が残る」


 魔界にあるダンジョンの攻略手順が、サーラによって手短に語られる。

 コアを手に入れ、こちらの世界に戻ること。

 単純だが、難しい。

 一応、ダンジョンの外に出ても成功ではあるが、襲撃されて回収される可能性があるので長居すべきではない。


 「それじゃ、期待してるよ」


 サーラは手を軽く振ると、パーティーメンバーと共に、別の場所に作られた魔界への門を通る。


 「わたしたちも行こう」

 「ああ。備えはしてきた。だが、不安はある」

 「お母様から、大量のスクロールを送ってもらいました。大抵のことはどうにかなるはずです」


 リリィのパーティーは六人構成。子ども三人に、大人が三人。

 大人組は、だいぶ真面目な様子で警戒に満ちた視線を魔界に通じる門へ向けていた。


 「さすがに緊張してきたわ。……死ぬ可能性が高いから」

 「うむ。寺院を追い出された時と同じくらい、色々と悩むものだ。死ぬ覚悟はしてきたとはいえ、恐ろしいものは恐ろしい」

 「妖精として百年ほど生きてきた。でも、魔界に挑むことになるとはね」


 最後の確認を済ませ、白ウサギのリリィをリーダーとした六人のパーティーは、魔界へと足を踏み入れる。


 「あそこが目標、か」


 サーラによって門が少し調整された結果、六人は塔のような建物の近くに出た。

 階層は不明。

 ただ、十階以上はある。


 「イドラのダンジョンよりは浅いけど……」

 「地図がない、どんな相手が出てくるかわからない、コアを手に入れないといけない。大変だぞ、これは」


 先人たちが足を踏み入れ、少しずつ解き明かしていったダンジョン内部。それを描いた地図。

 元の世界では、お金を払えば地図を買うことができたが、魔界ではそうもいかない。

 情報がない中、探索を進めないといけない。


 「早速ですが、スクロールを使います」


 塔に入ったあと、レーアはそう言うと一枚の羊皮紙を取り出す。


 「なんの魔法?」

 「生命や魔力を感知する、探索系のものです」


 敵や罠に備えて、まずいきなり使用するとのこと。

 そのあと手描きの真っ白な地図に線を引き、少しずつ情報を加えていく。

 歩く通路、道中の扉、小部屋の存在、そして出口や、上に通じる階段など。


 「行って終わりではありません。帰ることも含めての攻略ですから」

 「ふむ。起点となる場所を確保。一定の地図を描いたあと少しずつ範囲を広げていくか。悪くない考えではある」


 熟練冒険者たるエクトルはそう言うと、壁を拳で軽く叩いたりする。

 帰りのことを考えるなら、地図の作成は必須。

 何事もないまま、一階から二階へと上がる。

 ここでも探知魔法のスクロールをレーアが使用し、得た情報をもとに地図を描く。


 「そういえば、監視する人とかいないのかな?」

 「気になるところではある。まあ、最下層に滞在するギルド職員みたいに、コアのあるところにだけ、人がいるのかもしれない」


 リリィはサレナと話ながら歩いていたが、物音を聞きつけたのか、ウサギの耳が小刻みに動き、足を止めた。


 「何か近づいてくる」

 「人じゃない。恐らくはモンスター」


 武器を握り、警戒していると、曲がり角から巨大な存在が姿を現す。

 それはヴァースの町で見かけた、サイクロプスというモンスター。


 「ダンジョンで見たのと、同じだ」

 「私から行くわ。先手必勝ね」


 セラはすぐさま、魔力の塊を何発も放ち、サイクロプスの一つしかない目を狙う。

 目に飛んでくるものを見て、サイクロプスは慌てて手で防ごうとするも、一つだけ軌道を変えて目に命中するものがあった。


 「ガアアアア!!」


 痛みからか叫び声が出てくるも、それはわずかな隙を生む。

 リリィは無言で走り寄ると、体重を乗せた突きを、サイクロプスの喉に放った。

 質の良い剣のおかげで貫通し、それ以上の叫び声が出ないまま、巨体は崩れ落ちた。


 「あの時よりは、楽だったね」

 「経験もそうだけど、装備も違うでしょ? そりゃ当然よ」


 かつて少し苦労した相手は、もはや苦労することなく出会い頭に仕留めることができた。

 それは成長の証でもあった。


 「あ、死体は小部屋に移しましょう。幸い、血はあまり出てないので、水を出すスクロールで洗い流して……」


 騒ぎになる可能性を下げるため、レーアから提案が出される。

 協力して巨体を小部屋に移したあと、一行は探索を再開した。

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