106話 戦力や装備を整える
辺りはひどい有り様だった。
喧嘩のせいで、怪我したまま倒れている者ばかり。
野次馬以外で唯一立っている者も、無傷とはいかなかった。
「少しいい?」
勝者であるリザードのエクトルに、リリィは声をかけた。
「ああ。ジョス、倒れている者の対処は任せる」
「おいこら、ちょっと待て。僕に全部任せるのか」
「ええと、じゃあ、ポーションどうぞ」
リリィがポーションを渡し、倒れていた者が全員起き上がると、なんともいえない空気の中、舌打ち混じりに去っていく。
集団で一人に負けたという事実の前には、何も言えないわけだ。
野次馬も解散したあと、歩きながらリリィは尋ねる。
「何があって、あんな大勢と喧嘩を?」
「よくある揉め事だ。そこから、乱入してくる者が増えたりして、あそこまでの規模になった」
「うーん……」
ざっと見ても、三十人以上がいた。
それだけの喧嘩は尋常ではない。
その時、浮遊している妖精のジョスが口を開く。
「このイドラにいる冒険者は、誰もがそれなりの実力を持って、各地から来ている。だから、地元と同じ態度のまま振る舞う者がいてね」
「それで、似たような者同士がぶつかって喧嘩になる、と」
「そんなところだよ。こっちからしたら何やってんだかと言いたいけど」
やれやれといった様子でうなだれるジョスだが、すぐに気を取り直すとリリィを見た。
「で、わざわざ魔導具を使ってまで声を送ってきた理由は?」
「いきなり、頭の中に声が響いた。あれは驚いた」
熟練冒険者の二人でも初めての代物。
そんな魔導具を貸し出している店で連絡を取ったのだとリリィが説明すると、二人は感心したように頷いた。
「ふーむ。魔導具を貸し出してくれる店か」
「貴重な店だね。何か危ない仕事をするなら、そこで借りるのも手か」
そして話題は、声を送った理由に戻る。
港に近い騒がしい場所に差しかかったところで、リリィは立ち止まった。
「わたしたちのパーティーだけじゃ、戦力的に不安があるから、一時的な戦力として加わってほしい」
「四人では足りないのか?」
「前衛と後衛が揃ってる。こちらから見たら、ダンジョンで不足はないように思えるけど」
イドラで活動できている時点で、リリィたちのパーティーは実力的に問題ない。
だからか、熟練冒険者の二人は首をかしげた。
それは予想通りの反応だったため、リリィは軽く手招きをしてから、小声で呟く。
「魔界って知ってる?」
「…………」
「あー、理解した。そういうことね。そりゃ、戦力が足りないわけだよ」
エクトルは険しい表情を浮かべ、ジョスは理解した様子で頷いていた。
「魔界については、多くを知らないが、少しは知っている。協力するのはいい。だが、何をするのか教えてもらいたい」
「魔界のダンジョンに挑む」
「へえ? とんでもない冒険の話が出てきた。……報酬は?」
レオンからお金の入った袋を貰ったため、金貨を百枚と伝える。
しかし、不服なのか金額を吊り上げてくる。
「まだ足りない?」
「うむ。装備を整えたりといった、未知に挑む準備には費用がかかる」
「そうそう。君たちとは知り合いだけど、だからといって割引はしない。なにせ、命がかかってるわけだから」
「金貨二百枚、合計で四百!」
「受けよう」
「若いながらも儲かってるね。その運の良さに乗っかるためにも、受けるさ」
合流はまた今度ということで、一時的に別れる。その際、居場所がどこにあるか教え合う。
そして二人が去ったあと、リリィは仲間たちを見た。
「それじゃ、次はわたしたちの装備を新調しよう」
「販売されてるのを買うか、特注の品を依頼するか」
「時間的な問題がありますから、まずは売っている店に行きましょう」
「ラミア向けのが販売されてるといいけど」
イドラにある店は、基本的に高価なところばかり。
消耗品関係は安いが、装備については同じ品物でも他の地域より高かったりする。
「むむむ、ヴァースの町より微妙に高い」
「イドラのダンジョンは深くて稼げるから、その分値上げしているんだろう」
「高くしても売れるなら、そうする方が儲かりますからね。わたくしも同じことをするかもしれません」
「じゃ、まずは私からね」
いくつか店を渡り歩いたあと、ラミア向けの防具があったことから、多少高い値段でもセラはそれを購入した。
鎖帷子に、金属で冷えないよう加工された頑丈な布を合わせた防具で、ヘビのような下半身に合う形状をしていた。
ついでに、上半身を守る特殊なローブも購入する。これはクモ型モンスターから得られた糸で作られた逸品だった。
「長丁場になるだろうし、動きやすさも考えてみたわ。それに、これでどこかの誰かさんが噛んでこなくなる」
「なんでわたしを見るの」
「私の尻尾、噛みたい?」
「うん」
「…………」
即答するリリィに、セラはピクリと表情を引きつらせるも、ぐっと言葉を飲み込み、次は杖を選びに向かった。
金属製で、魔法の威力を高めるというよりは、敵を殴ったり、攻撃を受け止めたりするのに適したものだった。
「私の用意はこれでいい」
次に装備を整えたのは、ハーピーのレーアだった。
空を飛べることを考慮し、セラよりも軽装で済ませてしまう。
武器の槍は、母親であるエリシアがラウリート商会を通じて用意した高級品なため、そのまま使うことに。
「わたくしは、あまり変わりません。代わりに、大量のスクロールを持っていきます」
「なら、基本は私と同じ後衛かしらね。前衛は、白黒ウサギの二人に任せる形で」
そして三番目は、黒ウサギなサレナだった。
ダンジョン産の装備で、サイズが小さいために売れ残っていた防具を見つけ、割引価格で購入する。
胴・腕・脚と一式が揃っており、鍛冶屋で少し手直しが必要だったが、子どもである自分なら問題なく身につけられるためだ。
武器に関しては、とにかく頑丈なものを選んだ。
「あたしはこれでいい。少し、慣らす必要があるけど」
その視線はリリィに向けられていた。
装備を新調したあと、軽く模擬戦を行うつもりであるようだ。
「最後はわたしかぁ」
装備を新調しなくても、問題ないといえば問題ない。
クモ糸で作られた衣服に、オーウェンから貰った高価な剣。
これらのおかげで、今までの戦いを乗り越えられた。
それに加え、特殊効果つきのアクセサリーも、オーウェンから巻き上げてある。
「わたしはこのままでいいや」
「なら、戦おう。リリィ」
気が早いというか、待ちきれないというか。
サレナはさっそくリリィに模擬戦を申し込んだ。
場所は、ダンジョンの地下三階にある広い部屋。
そこで模擬戦を行うため、一行は移動する。
見物役のセラとレーアは、怪我に備えて高価なポーションを準備していた。
それは手足がなくなっても生やせるという優れもの。その分、市場にはあまり出回っておらず、かなり貴重。
「大怪我しても、恨みっこなしで」
「それはこっちの言葉だ」
白と黒、それぞれの色をしたウサギの獣人の二人は、剣を持ったまま一気に動いた。




