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101話 役立つ魔導具

 朝、イドラの港にリリィたちはいた。

 目的は、巨大なモンスターを解体している途中で体内から出てきた宝石のような代物の鑑定。


 「レーアお嬢様、本日はどのような用件でこちらに?」

 「これの鑑定を」

 「わかりました。いささか、時間はかかりますが」


 ラウリート商会の船に向かうと、すぐに鑑定をしてくれることになった。

 とはいえ、時間がかかるようなので、しばらく港をぶらぶらと歩いて時間を潰す。


 「鑑定が済んだら、ダンジョンにいるあの人のところに行ってみたいけど、いい?」

 「まあ、色々聞いたらいいんじゃないか」

 「そうですね。今後どうするべきか、考えるのに役立つはず」

 「前いた場所にいるなら、だけども。いない可能性もあるわ」


 イドラの港は、お金がかけられていて発展している。あちこちから冒険者が来ているのが理由だろう。

 ある程度、実力とお金を持っている者が集まっているのも大きい。

 少し歩けば、冒険者同士が物々交換している場所を発見する。

 商人を介さずに、取引をしたい者が集まっているようだ。


 「お、ここって」

 「物々交換……少しあれを試してみます」


 商人としての勘なのか、レーアは荷物を漁り、見覚えのある小さな肖像画を取り出すと、それを何かに交換できないか動き始めた。


 「あーあ、行っちゃった」

 「何かあってもいけない。あたしはレーアお嬢様についていく」

 「私は見物。交換できそうなものないし。リリィは?」

 「レーアについていくよ」

 「そう」


 セラだけがその場に残ると、レーアが中心となって三人は動く。


 「この肖像画を交換したいです」

 「ふーん、出来は悪くないな。あんたら、どこの国から?」

 「アルヴァ王国です」

 「へえ。向こうじゃなんか色々あったらしいが。ま、一つくらいなら交換してもいい」


 意外なことに、リリィが男装していた時の姿を描いた肖像画は、数人に一人の割合で求める者がいた。

 イドラという島は、ダンジョンと冒険者により経済が成り立っており、それ以外の部分は寂しい限り。

 素人が描いた絵はあっても、出来の良い肖像画が出回ることはほとんどないからか、物珍しさから物々交換が進んでいく。


 「思っていたよりは順調ですね。リリィ、商会で新しくあなたの肖像画を作ってみましょうか」

 「いやいや、さすがに勘弁して」


 やがて、格安で手に入れた肖像画はすべてお金や物資に変わった。

 多少なりとも商人としての経験を積めたからか、レーアは自信に満ちた笑みを浮かべていた。

 リリィはそれを見て、なんともいえない表情でいたが、その時、辺りを歩いている冒険者から声をかけられる。


 「白ウサギのリリィ・スウィフトフットさん」

 「……なんですか?」

 「自分は教団の者です。教祖から、これをあなたに渡すように」


 リリィが警戒混じりに答えると、相手は手短に話したあと、折り畳まれた紙を手渡してどこかへ去っていく。

 一度セラと合流し、人の少ない場所に移ってから渡された紙を開くと、文章が書かれていた。


 “私を含めた救世主教団のいくらかが、そちらに向かいます。しばらくは、あまり予定を詰めないようにお願いします”


 これは、教団の教祖であるソフィアから送られてきたものであるようだ。


 「いつ頃に到着するかな?」

 「一週間か二週間か」

 「飛空艇を使うなら、もう少し早くなる可能性が」

 「……もう来たみたいよ。あそこ見てみなさい」


 港には大勢の人々がいる。

 その中に、水色の髪をした見覚えのある女性が近づいてくるのが見えた。


 「お久しぶりですね。元気そうでなによりです」

 「……来るの早くない?」


 救世主教団の教祖ソフィア。

 元々はリセラという国の神官だった彼女は、リリィの問いかけに、笑みを浮かべて答える。


 「国王陛下から、特別に飛空艇を貸してもらったので、すぐに到着できました」


 ソフィアをよく見ると、髪などはボサボサに荒れている。寝不足なのか顔色も悪い。

 かなり急いでやって来たようだ。


 「そもそもの話、いきなり声を送ってくるのはどうかと思いますよ。しかも内容が内容ときました。……とはいえ、そのおかげで国王陛下が性能の良い飛空艇をすんなりと貸してくれたわけですが」

 「手紙とかは時間かかるし……。だから魔導具を使って、知らせておこうかと」

 「とりあえず場所を移しましょうか」


 あまり外で長々と話すことではないということで、ひとまずリリィたちが寝泊まりする宿屋の一室に移動する。

 そしてどこか疲れた様子のソフィアは、軽く息を吐いてから話を続ける。


 「二つの世界が混ざる。そうなると世界中で災害が起きる。これは世界の危機であり、止めないといけません」

 「でも、どうやって?」


 あの時、ダンジョンの中で盗み聞きした内容からは、魔界に行かないとどうしようもないことが明らかになった。

 ここで魔界に通じる門を作ったところで、どれくらい効果があるのか。

 首をかしげるリリィだが、ソフィアは何か考えがあるのか、真面目な表情のままでいた。


 「まず、あなたが盗み聞きした相手の一人である、サーラという人に会い、助力を求めます。なにせ、私たちには情報が足りません」

 「今すぐ探してくる?」

 「いえ、ひとまず今日は休みたいですね。不眠不休で飛空艇に魔力を注いでいたため、寝不足でだいぶ疲れが……」


 部屋を借りるために、ソフィアは宿屋の受付に向かっていった。

 よっぽど急いでいたようで、だからこそ素早い到着が可能となったようだ。


 「ソフィアが来たとなると、色々できることが増える。明日から、色々と忙しくなりそう」

 「世界の危機……正直、あたしはまだ実感が湧かない」

 「実はわたくしもです」

 「まあ、裏でやばい出来事が進んでるのは、グラムという奴がいたりするから、信じるけれども」


 アルヴァ王国を襲った一連の出来事。

 前王と死霊術師、それに魔族が組んだことで起きた陰謀。

 リリィたちは危ういところでそれを防いでみせたが、だからこそ世界の危機というものを信じることができた部分がある。


 コンコン


 「うん?」


 話していると、扉が叩かれる。

 誰なのか尋ねると、ラウリート商会の者であるという。

 鑑定が済んだので船に来て欲しいとのこと。

 リリィたちは、隣の部屋で休んでいるソフィアに一言伝えたあと、港に向かう。


 「お嬢様、どのようなものか判明しました」


 商会の者は、どこか険しい表情でいた。


 「これは魔導具です」

 「どのような効果を持つものですか?」

 「……それが、わかりません」


 どういう効果を持つのか不明な魔導具。

 そう説明されると、ざわめきが起こる。

 血を近づけると反応らしきものがあるため、発動させる条件としては血に触れさせればいい。

 しかし、何が起こるかわからないため、試すに試せないという。


 「いかがしましょうか? 適当な船を借りて、海上で実行することを考えていますが」

 「待った。わたしに考えが」


 リリィは手をあげて言う。


 「魔導具に詳しそうな店があるから、そこの店主に確認してもらう。レーア、どうかな?」


 魔導具を貸し出してくれる店。

 その店主であるオリビアなら、何かわかるかもしれない。

 リリィがレーアの方を見ると、やや悩んだ末に頷いた。


 「そうですね。いきなり発動させるよりは、聞いてみるだけ聞いてみましょう」


 謎の魔導具を持ち、リリィたちはオリビアの店に移動する。

 そしてこの魔導具にはどういう効果があるのか尋ねると、オリビアは睨むような視線で見つめていく。


 「んんー? なんだか厄介そうなものを持ってくるとか……」


 少しすると、在庫について書かれた紙の束をペラペラとめくり、やがてその手は止まる。


 「うーん、わかんない。とりあえず発動させて」

 「何かやばいこと起きたりとかは」

 「大丈夫大丈夫。攻撃に使えるものとは異なる代物だから。やらかしても被害はないよ」

 「それなら……」


 リリィはレーアの鉤爪で、指を浅く斬ると、大きい宝石のようなそれに血を垂らす。

 次の瞬間、奇妙な音を立てて、宝石らしき丸い形から小さな道具に変化していく。

 完成品を見たレーアは、最初に呟いた。


 「これはコンパス、ですか。確か方角を確認する道具ですが」

 「うん? 針が」


 ぐるぐると一定の周期で回転し続けるため、方角を確認することには利用できなさそうだった。

 それを見たオリビアは、コンパスの形をした魔導具を持ち、念入りに確認していくと、やがて何か理解したような表情で下ろした。


 「リリィ、ちょっとこれを持って、何か欲しいものを思い浮かべて」

 「え、欲しいもの……じゃあお金で」

 「自分で持ってるようなのは無し」

 「なら、貴重な魔導具で」

 「またあやふやな……って反応してる!?」


 回転し続けるコンパスは、動きを止めてとある方向を示していた。

 それはオリビアの店の奥。


 「確認したいけども」

 「しゃーないわね。店の商品に手をつけないならいい」


 オリビアの監視つきで店内を移動すると、なにやら大きな木箱があった。


 「このコンパスが示してるのは、これかな?」

 「ちっ、このクソ魔導具、これに反応するとか性能は確かじゃないの」

 「その箱ってなに?」

 「名称決まってない。物を入れたら、代わりに別の物が出てくる。ランダムで。だから、ギルドとかにも知らせてないってのに」


 何かを入れると、別の何かが出てくるが、入れる物の価値が高いほど、価値が高いものが出てくるという。

 時折、入れた以上の価値のものが出てくることもあり、オリビアは便利なゴミ箱として利用しているとのこと。


 「ゴミ箱って、それはどうなの」

 「うっさい。もっと色々調べたら有用な使い方あるんだろうけど、自分だけで独占したいし」

 「まあ、この魔導具は欲しいものがどこにあるか大雑把に教えてくれるから、それがわかっただけでも収穫か。ありがとう」

 「はいはい、どうも」


 意外な収穫を得た一日だった。

 そしてそれは、残り少ない平穏な日でもあった。

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