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好きだと言うのなら

「そんな恋敵だらけの場所で仕事をさせるのは嫌だ」


 ブレイズ様はサイモン様から掛けられた水でびしょ濡れのまま、私を抱きしめて阻止しようとしてきたが。私の強い希望もあって、サイモン様の提案通り軍の健康管理を任される事となった。


 ブレイズ様が用意してくれていた、動きやすいデザインのドレスに着替えた後。私はサイモン様に辺境伯軍を管理しているという建物を案内されていた。

 軍に所属する者達の宿舎や食堂、治療室や私が事務をする部屋までが備えられた5階建の大きな建物。皆が己を鍛える訓練場と、その隣に隣接して建てられたこの建物を行き来しながら仕事をするらしい。

 

「ブレイズ様、嫌がっていたけど……大丈夫かしら」


 あの場では押し切ったが、あくまで私は婚約者。ブレイズ様の気持ち次第で、私は婚約破棄されてしまう可能性もある。嫌われてしまわないか今更心配になった。廊下を先導して歩いてくれているサイモン様が、こちらに少し体を向けつつ返事をしてくれる。


「ブレイズ様はあの見た目ですからご自身への評価が低く、ローズ様が他の男性に目移りするのを心配しているだけです。軍にはイケメンの魔術師から、筋肉に溢れた騎士まで、沢山の男がいますからね。ただの嫉妬ですよ」

「そんな心配しなくても、私の性癖ドストライクなのはブレイズ様くらいなのに」


 探せば素敵な筋肉を持っている人は沢山いるだろうが、唯一使える魔法まで筋肉増大系な人は珍しいだろう。


「私達はそんなローズ様だからこそ、ブレイズ様の妻として歓迎したのですよ。魔術師だった前辺境伯とは違い、ブレイズ様は大柄で肉体派。半年前に亡くなったばかりの父親と自らの姿を比較し、情けないと落ち込まれる事もあります」

「そんな……」


 一晩一緒に過ごしただけだけど、ブレイズ様は意外と優しい真面目系ゴリラだった。突拍子もない事もするがそれには一応理由が存在するし、情けないだなんて少しも感じない。


「私達からすれば、五年もの間軍を率い続けたブレイズ様は、それだけでも立派な辺境伯なのですけどね。生きて帰ってきてくれて良かった」


「後継が居なくなる所でした」なんて冗談を言われるが、全然冗談になっていない。ついでに「子供は多めにお願いします」とも言われるが、それはブレイズ様次第な所もあるので……!


 そんな事を話して歩いているうちに、大きな両開きの扉の前に着いた。


「さて、こちらの食堂に軍所属の人間達を集めておりますので挨拶しに行きましょう。どうぞお入りになってください」


 サイモン様がそのドアを押して開けると、中で席について居た人々の視線がバッとこちらに集まった。ざっと見ただけでも百人以上はいるだろうか。そんな中をサイモン様の後ろについて上手側へ向かって歩くと、皆がざわめき立つ。


「うわぁ、本当に赤薔薇の聖女だ」

「くそ……不可侵条約はどこにいったんだ」


 ざわざわと皆が騒ぐが。サイモン様が軽く咳払いするとシーンと静かになった。


「皆、静粛に。この度我らが辺境伯ブレイズ・ウィルドハート様と婚約されたローズ様だ。戦場の治癒院で世話になった者も多いだろう。覚えのある者は挙手したまえ」


 ザッと七割ほどの人間が手を挙げる。


「え? そんなにいるの?」

「ウィルドハート軍は一部の兵を国に貸与しておりましたが、一年限りの入換制としてきました。五年間ずっとあちらにいたのはブレイズ様くらいで、他の者は入れ替わっているのです」


 成る程、だから五年も治癒院にいたのになかなか皆の顔を覚えられない訳だ。私が筋肉ばかりを見ていたのが原因では無かったのかもしれない。

 

(あら? でも私、ずっと戦場にいたはずのブレイズ様も見覚えが無いわ)


「明日からはローズ様が君達の体調管理をおこなう。迷惑をかけぬよう適度に頼るように」


 サイモン様が肩をポンっと叩き合図してくれるので、簡単に自己紹介をして。明日からは筋肉見放題だ! と心の中でニマニマしていると。

 バーンッ!! と激しい音がして、入り口の両開きのドアが吹き飛んだ。

 

「──ローズッ!!」

「え!?」


 上宙を舞う扉二枚。そして入り口ドアを破壊したゴリラは私の方向かって全速力で駆けてくる。しかもその速度は人間より遥かに早い。


 私の横に立っていたサイモン様が溜息をつきながら宙を舞うドアに向かって手をかざし、魔法を放つ。放たれた光はドアに当たった瞬間激しい爆発を引き起こし、頭上に灰の雨を降らせた。おかげで皆ゴホゴホと咳き込んでしまう。


「ローズ、無事か? 野蛮な男達に何もされていないな?」

「一番野蛮なのは貴方ですよブレイズ様。ご覧ください、皆静かに座っているだけでしょう?」


 上半身裸のゴリラ姿のまま私を抱きしめるブレイズ様と、眉間に皺を寄せて諌めるサイモン様。


「く……るし」


 そしてゴリラパワーで抱きしめられた結果、胸筋による圧迫で呼吸困難に陥りそうな私。筋肉に埋もれて窒息だなんて素敵な響きだけど、私はまだ死にたくない。これから先も筋肉を愛てて生きるのよ!

 ぽんぽんとその胸を叩いて苦しさをアピールすると気がついたブレイズ様は慌てて解放してくれた。


「ハアハァ……死ぬかと思いました」

「す、すまない。今度から抱きしめる時は姿を戻すのを忘れないようにする」


 そう言いながらゴリラの姿から人間に戻ったブレイズ様は──やっぱり上半身裸だ。


「また破いたのですか? 今月何枚目だと……」

「サイモン、大丈夫だ。今回は脱いでから姿を変えたから、シャツ自体は無事だ」

「ならば、せめてそのシャツを持ってくるようにしてください。そんな雄々しい筋肉丸出しにしていてはローズ様に引かれますよ? もう男所帯じゃ無いんですから、気をつけてください」

「腹筋が素敵……」


『引かれる』ではなくて『惹かれている』私ならここにいます。


「……ローズ様、ブレイズ様を甘やかさないでください。そしてブレイズ様はあの書類の山は片付いたのですか?」

「勿論だ。ローズを質に取られた俺のやる気を舐めないでくれ」

「腹筋も良いけど、外腹斜筋のラインもセクシーで素敵……」

 

 もう場がカオスになってきた所で、集まっていた人々から野次が飛び交い始めた。


「ブレイズ様、一人抜け駆けしてズルいですよ!」

「そうだそうだ、不可侵条約はどこに消えたんだー!」


 ブレイズ様は私を隠すかのようにその体を盾にして皆の視線を遮る。おかげで私の視界は素敵な広背筋でいっぱいだ。眼福である。


「皆には申し訳ないが、赤薔薇の聖女は俺の婚約者となった。熱の籠った視線を向けるのはやめてもらおう」


 多分この場で一番熱の籠った視線を送っているのは、貴方の背後にいる私ですけどね? ブレイズ様。


「心配しなくとも私はブレイズ様一筋ですから」

「ローズ……なんて可愛らしい事を」


 そうして振り返ったブレイズ様は私の体を抱き上げて。彫りの深い精悍な顔が私にゆっくりと近づき、唇が交わる。

 わぁ……ッ!! と周囲から歓声が沸いた。


「んッ、ぶれぃ……、さ」

「喋らなくていい。ローズが俺を好きだと言うのなら、それを実感させてくれ」


 そう言われて断れる訳がない。

 それでも初めて交わす口付けが皆の前で、なんて恥ずかしすぎる。しかも何度も角度を変えて、深く与えられるソレに私は……白旗をあげた。


「も……ぅ、むりです……ッ!」


 涙目で降参した私を、ブレイズ様は大変満足げに眺めた。

 

「この程度で降参する程初心なのであれば、しばらくは『抱いてほしい』なんて言うのは禁止だな」

「はい、ごめんなさい……好き」


 完全に自分達の世界を作り上げている私達の横で、観衆の歓声をバックに家令のサイモン様だけが深く溜息をついていた。


「ブレイズ様の為を思って色々とお膳立てしてあげようとしていたのに、もはや必要ありませんね」

いつもお読みいただきありがとうございます(*´꒳`*)♡

作者的にギャグ全振り甘々なラブコメです!応援してくださる方は是非砂糖の代わりに評価を投入してください(๑˃̵ᴗ˂̵)♪


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