エピローグ
「あの井戸はね、王族がこの王宮から避難するために作られたものなの。うんと昔のもので、今は別のルートがあるから、使われていないわ。……実は横穴があるのよ。そしてね、その横穴がつながっているのが、ここの離れなの。配管を通じて、井戸からの声がね、私の寝室に届くようになっているのよ」
つまり王太后は、聞いていたのだ。王族の婚約者として王宮へやってきた令嬢達が、あの井戸に向け、叫んだ苦しみを。そしてその内容からもし、その令嬢が悪役令嬢であり、言われのない罪で断罪されそうになっていたら、助けたいと思っていたのだと言う。
「スチュワート伯爵令嬢の苦しみを聞くうちに、『ああ、この子は悪役令嬢に転生した子だわ』と思うようになったの。まさか自分の孫が、あなたを苦しめることになるなんて。驚いてしまったわ。自分の子供ならまだしも、孫は……。目に入れても痛くないというけれど、本当、そう思う。でも、孫が間違ったことをしようとしているなら、それは正さないとならない。動くなら今だわ――そう判断して、昨晩は動かせてもらったの」
そこで鴨肉のロティが運ばれてきた。しばしその味を王太后と共に味わい、話が再開となった。
「王太后様が来ていただいたのは、まさにベストなタイミングでした。あの時、ゴーマン殿下は、不敬罪を持ち出そうとしていたのだと思います、私に対し。私が……その、スカート丈の短いドレスを着て、脚を露出したので」
「ええ、それは分かっていましたよ。井戸で叫んでいましたからね。婚約破棄したいのに、叩いても埃が出てこない。婚約破棄に持ち込む理由を、ゴーマンは見つけられなかった。そこでスチュワート伯爵が悪さをしているという、でっちあげまでしようとするなんて。本当にヒドイと思うわ。あ、その件はすべてこちらで解決しておきましたから。スチュワート伯爵の名誉が汚されることはないから、安心して頂戴」
そこで王太后は焼き立ての白パンを食べ、話を続ける。
「脚を公衆の面前で見せるなんて、あり得ないことよね。この世界において。それを理由にゴーマンが婚約破棄できるよう、お膳立てしたのよね、スチュワート伯爵令嬢は。そんなことをしたら、あなたの名誉に関わるのに。でも大丈夫よ。ゴーマンは婚約者がいるのに、浮気をしていて、しかもターナー公爵令嬢を騙したのだから。ニュースペーパーの記者にも、記事にするならそっちにして頂戴ってお願いしておいたわ。伯爵令嬢の決死の覚悟を、面白おかしく記事にさせるわけにはいかないですからね」
「王太后様……!」
そこで王太后はニコッと笑い「前世ではあれぐらいのスカート丈、騒がれることなんてないのに。この世界は不便よね。私はスチュワート伯爵令嬢のあのドレス姿、素敵だと思ったわ」なんて言ってくれるので、なんだか嬉しくなってしまう。
転生した乙女ゲームの世界で、前世のことを話せる相手に出会えるとは、思っても見なかった。こうやって笑い合えるだけで、とても気持ちが軽くなる。
「ゴーマンについては、反省させる必要があるから、三つの罰を与えることにしたの。まずは三年間の奉仕活動につくこと。第二王子に割り当てられる予算を三分の一まで減らすこと。今後王族を抜ける際の爵位は男爵ということで、決着させてもらうことにしたわ」
奉仕活動で自分より身分の低い者に頭を下げるなんて、プライドの高いゴーマンからすると、屈辱的なことだろう。
さらに減らされた予算で浮いたお金は、我が家への賠償金やマーガレットへのお詫び金に使われる。予算が三分の一まで減れば、使用人の数は減り、食事のグレードも落ちるだろう。ゴーマンには地味に辛いことだ。
そこでデザートのフルーツタルトが到着し、それをいただきながら、王太后との会話は続く。
「それにね、婚約破棄にまつわる違約金などを、スチュワート伯爵に求めることはないわよ。むしろ、ゴーマンのせいで婚約破棄になるようなものだから、王家から賠償金を支払わせていただくことにしたわ。追ってスチュワート伯爵に、ゲイリーから書簡を送らせるから」
さすが王太后! ゲイリー……国王陛下は彼女にとってはあくまで息子なのね。国王陛下からそんな書簡が来たら、父親は驚いてしまいそうだわ。
それにしてもあのゴーマンが、男爵になるなんて……。この国では新しい王の即位にあわせ、兄弟の既婚の王子は爵位を賜り、王家を離れることが慣例になっている。よってすぐにゴーマンが男爵になるわけではないけれど……。
ゴーマンはプライドの塊でもあるから、この遅れてやってくるボディーブローに、後々苦しむことになりそうだ。
あ、でも。新しい婚約者は見つかるかしら? マーガレット……というかターナー公爵家からは、父親にもお詫びの手紙なども届き、そこでゴーマンと娘が婚約することはないと書かれていたという。
放課後、王宮のゴーマンの部屋で、マーガレットは数時間過ごしたこともあったようだが、そこはさすがヒロイン。一線を越えるようなことはなかった。ちゃんと純潔を保持していたから、ゴーマンと婚約するしかない……という事態には陥っていない。
ということで公爵家の令嬢を騙し、私と婚約破棄し、醜聞が広がったゴーマンは、新たな婚約者を見つけられるかしら? まあ、もう私は知ったことではないけれどね!
こうして私は悪役令嬢として転生し、自力で断罪回避が難しくなり、窮地に追いやられることになった。でもそこには魔法を使わない魔女がいて、私を助けてくれた。
身勝手なゴーマンとは婚約破棄できたし、妃教育により、私は伯爵令嬢にしてはかなりのマナー、教養、ダンス、社交術、語学、乗馬……とにかくいろいろ身に付けることができたわけだ。
「キャメロンだったら、隣国の王族や皇族の婚約者にだってなれるぞ! 王太后も口を利いてくれると言っている」
父親であるスチュワート伯爵は、そんな風に言ってくれているけれど……。
「お嬢、荷物は全部、運び出しました。後はお嬢をスチュワート伯爵家の屋敷に連れ帰るだけです。……どうしますか、僕がエスコートしましょうか?」
優雅に手を差し出してくれるアントニーを見て、考えてしまう。
もしかしたら私、婿養子を迎えればいいのでは?――なんてね。
~ fin. ~
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【サプライズ】
本作のアナザーエンディングを読み切り短編として
実は告知なしでこっそり更新していました!
『断罪は悪役令嬢ではなく父親に!?~ざまぁと婚約破棄の行方~』
https://ncode.syosetu.com/n8366io/
全6話でサクッと読めます。
プロローグは微妙な違い、それ以降は、本作のもう一つの世界線で物語が進行していきます。
よろしければページ下部に目次ページへ飛ぶイラストリンクバナーがございますので、ご覧くださいませ。
【全13話で完結!読み始めると止まらない!】
1/16週間異世界転生恋愛ランキング完結済9位☆感謝
『ざまぁは後からついてくる~悪役令嬢は失って断罪回避に成功する~』
https://ncode.syosetu.com/n3197io/
予想外の展開×山場からの衝撃事実×ほっこり読後感
ぜひご覧いただけると幸いですヾ(≧▽≦)ノ
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