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Next Story  作者: rimu
第4章 仲間
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アクア編

ミカはヘレンの後ろについて行く。


「王宮を出たのはいいものの、どこへ向かうのですか?」


ヘレンは振り返らず、歩きながら答える。


「ギルドよ、姫であるあなたなら、

 お金には困らないでしょうけど、

 力を解放するために旅をする以上、

 モンスターを倒さなくちゃならないなら、

 ギルドに登録して報酬を貰えるようにするの。」


ヘレンは後ろ歩きになり、ミカの顔を見る。


「あなた、殺しをしたことは?

 王室にあった死体を見て、吐いてないってことは、

 死体にはなれているようだけど。」


ミカは少し下を見る。


「そうですね…小さな頃は、

 よく人が道で亡くなっていることがありましたから。

 モンスターを退治したことはあります。」


ヘレンは少し頭を傾ける。


「倒したのは人型?」


ヘレンの問いにミカは首を振る。


「いえ、ノーネームです。」


ノーネームとは、

容姿はスライムに近く、不意に何処にでも湧く存在。

しかし、飛びかかる以外は特に何もできない。

厄介なのは、ノーネームがより強くなると、

スライムやゴブリンなどに具現化し、ネームドに変化する。

よって、ノーネームを見つけ次第、

討伐しなければならない。


ヘレンはまた前を向いて歩き出す。


「そう。」


スタスタと歩くヘレンに

ミカは少し緊張した声で話しかける。


「あの!!…名前…なんてお呼びしたらいいでしょう?」


ミカの問いに少し考えてからヘレンは答える。


「ヘレンでいいわ。敬語も要らない。

あなたの呼び方はミカでいいかしら?」


ミカは元気に答える。


「はい!!

 ミカと呼んでください!!…ミカってよんで!!」


しばらく街のことを話しながら歩いてきた二人は足を止める。


「ついたわね。」


ヘレンにミカは顔を合わせる。


「ええ。」


ここは王都を代表するギルド。


地方自治体だけでなく各国の依頼まであるギルドであり、

ギルド管内では•鍛冶屋やアイテムショップ•

カジノなど様々な施設がある。

今日も今日とてギルド周辺は賑やかであり、

この国の経済効果にも大きく貢献している。


「さて、それじゃあミカは先に受付に行って、

 ギルドに登録してきてちょうだい。

 私は手頃な依頼を見つけてから行くから。」


ヘレンが依頼を探している間にミカは登録を済ます。


「そこのお嬢〜さん」


声をかけられたミカは振り返る。


片手剣を持った深緑の髪と瞳をした青年。

肩から指先まで黒いゴム製の分厚い手袋をし、

金色の鎧を両腕に装着している。


青年はミカの顔にぶつかるほど近づく。


「俺はファル。君の名は?」


ファルはミカが国の姫だと気づいていない。


いや、ギルドにいる者達、皆気づいていない様だ。


それもそのはず。

普通考えれば、姫がギルドにいるなど誰も思わない。

容姿が似ているだけで、

全くの別人だとミカを見たものは皆思っている。


距離感の近さに驚いたミカは一歩下がる。


「私はミカと…言います。」


ファルは一歩前へ詰め寄る。


「ミカか、

 なぁ登録してたってことは此処は初めてなんだろ?

 一人できたのか?もしよかったら、俺と組まねーか?!

 あっ、俺のことは気軽にファルって読んでくれよ!!

 敬語はいらねーからな!」


「誰?アンタ。」


登録を済ましたヘレンが、依頼書を持ってやってきた。


「おっ?なんだ、連れがいたのか。

 だか、見たところ魔法使いっぽいな。」


ニヤニヤしているファルにヘレンは苛立ちを覚える。


「君ら二人だけなのか?ならちょうどいいじゃん。

 槍に魔法使いなんてバランス悪いし、

 剣士の俺が入ればバランス取れるっしょ。

 俺のパーティー、クエストの事故がトラウマになって、

 長いことやってきたメンバーみんなが止めちまったんだよ。

 お願い!!独り身なんだ。

 君たちのパーティーに入れてくれないか?」


ヘレンはミカを見る。


「私はこういうタイプ嫌いだから、

 あまり気乗りしないのだけれど、

 こいつのいうことはごもっともだし、

 登録したばかりの初心者パーティーに近寄る

 物好きなんて、そういないわよ。

 ミカがいいならパーティーに入れてみても良いけど?

 …どうする?」


ミカはファルに向かってぺこりと頭を少し下げる。


「ファルが良ければお願いしようかな。」


ファルはミカの両肩を持つ。


「よし、きまりだな!!これから宜しく!!」


パーティーを結成した三人は依頼された場所へと向かう。


依頼内容は人型のノーネームとホブゴブリンの討伐。


夕方に山から現れては、作物を奪い山へと帰る。


徐々にホブゴブリンの数が増えていることから、

人型のノーネームがゴブリンへと具体化したと考えられる。


早急に根絶やしにして欲しいとのことだ。


夕方、草むらにてモンスターを待つ三人。


作戦はヘレンが決めたものだ。


ヘレンが魔術でモンスターの動きを止め、

モンスターの動きが止まったら、

ファルがモンスターの足を切り、逃げれない様にする。

そして、最後にミカがトドメを刺す。


ミカがトドメを刺しやすい状態を作るのが、今作戦の肝だ。


「今回はあくまでミカに、

 とどめを刺すことに慣れてもらうのが目的よ。

 アンタ一人でバサバサ切り殺さないでよ。」


ヘレンはジト目でファルを見る。


「分かってるって〜。あくまでサポートだろ。

 ミカがピンチの時しかトドメは刺さねーから。

 安心しろって。ガハハ!!」


ファルは笑いながらヘレンの肩を何度も叩く。


ヘレンは苛立ちを抑えられなくなり、

ファルはゲンコツをくらって悶えている。


「それじゃ…始めるわよ!!」


ヘレンの合図と共にファルに続いてミカが飛び出す。


「ーフラッシュー」


ヘレンの魔術により、

強い閃光がモンスターを盲目にさせ、動きを止める。


「ーフィジカルエンハンスメントー」


ファルは身体強化のスキルを使い、モンスターの両足を切り、

その場から逃げれない様にする。


「キェぇぇぇぇあぁぁぁぁー!!」


モンスターの断末魔が響き渡る。


「ハァー!!」


ミカは槍をモンスターの喉に次々と突き刺した。

一心不乱に、一匹残らず的確に刺し殺して行く。


「ごガァぁぁぁぁ!!ギギギガぐガァぁぁぁ!!」


しかし、

急所が外れてしまい、ゴブリンは泣き叫び、暴れ始める。


ミカはゴブリンの抵抗に驚き、後ろに腰から崩れ落ちる。


「あ」


その時ミカは、止まってしまった。

ミカは自分の状態を把握しまったのだ。


槍にはゴブリンの血肉がつき、

服や顔は返り血で染まっている。


鼻につく血と死体から出た排泄物の匂い。


耳から離れない断末魔が、

頭の中で重なり合う様に再生される。


とどめを刺す。そんなことは頭の中にはもうない。

ただひたすらに動けないまま、断末魔を聞き、

苦しむ顔を横目に見ている。


「これは緊急事態ってことでいいよな?!」


ファルが残りのモンスターにトドメを刺して行く。


たった数分の出来事だった。


それだけなのに、

ミカには数時間と感じるほど辛い体験となった。


「ミカ、大丈夫?」


ヘレンは優しくミカの背を摩る。


「おいおい、大丈夫かよ?!」


ファルはミカの顔を覗き込む。


「…ぁ…ぇ…はぁ…」


ミカはしばらく放心状態となり、

落ち着きを取り戻すのに時間がかかった。


「どう?落ち着いた?」


ヘレンは心配そうにミカを見つめる。


「…はぃ…落ち着きました。」


ミカは小さく返事をした。


「悪いけど、ミカには殺しに慣れてもらわなくちゃならない。毎度敵と遭遇した時、こんな風にヘタレ込まれた

らいくらなんでも助けることができないわ。」


ミカはうつむき、下唇を噛む。


「あなたが慣れるまで、明日からも特訓は続ける。

 今日はもう寝なさい。」


三人は野宿をする。


ファルとヘレンは交代で見張りをし、

ミカを少しでも回復できる様に尽くした。


しかし、

ミカは頭から断末魔が抜けず、

あまり眠ることはできなかった。


そんなミカの訓練が丸4日続いた。


今ではモンスターをファルなしで

討伐し切れる様になったようだ。


「大分慣れてきたわね。もう訓練は大丈夫かしら?」


ヘレンの判断にミカは明るく答える。


「うん、もう大丈夫。」


ファルがミカとヘレンと肩を組む。


「よし、これで他のクエストもジャンジャン受けれるな!!

 目指すわ億万長者だ!!」


まだミカが姫である事に気づいていない

ファルの馬鹿さ加減に二人は笑う。


それに釣られたファルもまた笑い出し、


この日、三人は良き仲間となった。

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