アクア編
章ごとに分けました。
心地よい風が吹く今日この頃、
街は活気に溢れ、賑やかである。
今日は終戦記念日前日。
皆、終戦祭の準備に勤しむ中、一人の少女もまた、
皆と共に祭りの準備を整えている。
商人の漢は白い歯を見せながら言う。
「悪いな〜毎年手伝ってもらって!
仕事も沢山あるだろうに。」
少女はニコヤカに答える。
「ううん、私がやりたくてやってるだけだから、
気にしないで。今日のために、仕事も片してあるから。」
少女の名は、ミカ•ロード•マーベル。
ニール国の姫である。
ミカは国の姫でありながら、仕事の合間を観ては
街へと出向き、店の手伝いや子守り、
老人の介護などをしており、街の人々から愛されている。
翌朝、日が登り始め、少し肌寒い頃、馬車を走らせ、
目的地に向かう。
ノックの音。
「姫様、到着でございます。」
御者が扉を開く。
共にメイドと姫は馬車から下車し、目的地まで少し歩く。
ここはニール国、国境付近。
見渡すかぎり草原の丘がどこまでも続く場所に
一本の赤い槍が地に刺さっている。
ミカは膝を突き、胸の前で両手を組む。
「お母様、お久しぶりです。私は今日で18才になりました。」
終戦日である今日は、ミカの誕生日でもある。
ミカは少し暗い顔をする。
「終戦から18年が経った現在、
国は少しずつ豊かになっています。
しかし、
未だに各国との貿易は進んでおらず、物資は不足。
数は減ったとは言えど、未だ多くの餓死者や病死者が
出ている状況です。
王は自国内の政治統制、貴族との連携、
国民の救済措置など、様々な取り決めや取り組みを作り、
運用する事に尽力されており、
貿易の再会の目処が中々つかない状況下にあります。」
終戦から18年経った現在、各国は未だ自国を収めることで
手一杯なのである。
ミカは祈る。
「我が母君であり、肉体を司る 3大天使が一人、
ラーファ•クロプスよ、我が国に繁栄を。国民に幸福を。
ソナタの慈愛と力を持って、人々を救いたまえ。」
ミカは祈りを終え、ゆっくりと立ち上がる。
メイドはクスリと笑う。
「フフ…懐かしいですね。
昔はよく、唯一の形見であるラーファ様の槍を
躍起になって抜こうとしては、
抜けないと泣きじゃくっていましたね。」
ミカは少し恥ずかしそうに言う。
「やめてくださいよ…もうずいぶん昔のことじゃないですか。
最後に抜こうとしたのは10の時ですよ。」
するとメイドはひょんなことを言い出した。
「姫様、もう終戦から18年も経っています。
今一度、試してみてはいかがでしょう?
もしかしたら、案外簡単に槍が抜けるやもしれませんよ。」
ミカは少し困り顔をする。
「まさか…毎年ここで母の唯一の片道であるこの槍の神器を
王都に持ち帰るために、腕に自信のある者達を終戦祭の日に
呼んでは試しているのに、
未だ動かせたものがいないほどなんです。
試したところで抜くことなんて出来ませんよ。」
こうは言いながらも内心試してみたいと思ったミカは、
ゆっくりと手を伸ばし、槍を握る。
すると、
大地から膨大なエネルギーが放出され、光の柱が天まで登る。
ミカは凄まじい光に目を閉ざす。
光の柱が消えた時、目を開いたミカはゆっくりと、
メイドの方へと振り返る。
「抜けて…しまい…ました…。」
急ぎ馬車を走らせ、王宮へと戻る。
「王に、お父様にこのことを伝えなくては、
やっと槍を抜くことが出来た。
やっと…お母様の形見を側に…。」
扉らを踊らし、息絶え絶えになりながら、
王室の扉の前へ。息を整え、王室へ入る。
その時、
「お父…様?…コレは一体…?。」
ミカは驚きの光景を目にする。
王は左手に血のついた剣を持ち、王の御前には、王の側近が
血を流し倒れている。
王は悲しそうな顔をしている。
「魔族の暗殺部隊じゃ…どうやら、
終戦後に側近になり代わり、私を殺せるタイミングを
18年間見計らっていたのだろう。
我が能力があったからこそ、殺されずに済んだのだが。」
王の能力は、死眼。
自身の意思とは無関係に魔力を消費し、
自身の死に関する出来事を見ることが出来る。
この能力のお陰で、戦時中は毒殺などを回避した。
王は呟く。
「ついに…槍を抜いたのだな。
ならば、かのものも、すぐに来るだろう。」
廊下を走る音がする。
息を切らした兵士がやってきた。
「王よ、突然の無礼、お許しください。
今、王宮の門前にて、王に合わせろと
言うものがおります。」
王は兵士に問う。
「そのものの特徴は?。
そのものは、何か言っておらんかったか?。」
息を整えた兵士は答える。
「女です。髪と瞳が濃い青紫で、
髪型は、一つ括り。服装は全身白。そのものは、
「私の名はヘレン•K•アルトリスタ」だと名乗り。
肉体を司る3大天使が一人、ラーファ様のもとで
共に暮らした者だと言っております。」
王は兵士に告げる。
「数日はかかると思っていたが、まさか今日来るとはな、
そのものをここに。丁重にもてなしなさい。」
しばらくすると、一人の少女がやってきた。
少女はミカを見るなり目を見開く。
王は少女が着くなり話し始めた。
「ソナタのことは聞いておる。」
王は落ち着いた様子。
ゆっくりと椅子に腰掛ける。
「ヘレンよ、ソナタは何故、かつてソナタが共に暮らした
ラーファが持っていたはずの槍を、
この子が持っているのか。
ミカは何故、今となって、それも自らが槍を抜けたのか。
今こそ話そう。18年前の出来事を。」