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そして時は経ち(重い導入が面倒な方はこちらから)

 高校一年生の春休み。


 出不精の琥珀は珍しく朝から外出していた。


 とあるコンビニが琥珀の推しがいるVチューバー事務所とコラボキャンペーンを始めたのだ。


 人気の事務所なので何件も回る事になったが、なんとか一つ、目当てのクリアファイルを確保できた。


 ちなみに、Vチューバーにハマるきっかけをくれたのも文ちゃんだ。


 孤独な琥珀にとって、Vチューバーの存在は心の支えになっている。

 そう思うと、文ちゃんには感謝してもし足りない。


 あれ以来、彼とは完全に交友が絶たれてしまったが、今でも琥珀は文ちゃんの事を慕っていた。


 もはや友達を名乗れた義理ではないが、きちんと謝れないまま卒業してしまった事は、今も大きな心残りとなって琥珀の胸を苛んでいる。


 あぁ文ちゃん、元気にしてるといいんだけど。


 センチメンタルな気持ちになり、琥珀はクリアファイルを貰う為に買った対象商品のお菓子を口に入れた。


 さぁ、しんみりしてないで早く帰ろう。

 女の人に見つかって告白されたら面倒だし。


 高校生になり、琥珀はさらにイケメンになっていた。


 あんな事があったから、裏では色々酷い噂を囁かれているが、そんな事は関係ないとばかりに、沢山の女子が琥珀に群がり、次から次へと告白している。


 時には他校の女子に告白されたり、全く面識のないその辺のお姉さんに声をかけられる事もある。本当に勘弁して欲しい。


 そういうわけで、琥珀はマスクをして、目深に帽子を被っていた。本当はサングラスもしたかったのだが、そこまでしたら変質者だ。


 一応帰りも、ひと気のない裏道を通っている。

 自意識過剰みたいで恥ずかしいが、それくらい琥珀はモテるのである。


「――かぁ~。誰かいませんか~?」


 薄っすらと聞こえてきたのは、助けを求めるような弱々しい女の人の声だった。


 琥珀は迷った。何もしてなくてもモテてしまう琥珀である。なにかしたらモテるに決まっている。だから極力、女の人には関わりたくない。


 一方で琥珀は善良なお人好しだ。

 小さい頃に文ちゃんと一緒に見たアニメの影響である。

 主人公はみんな、人に優しい正義の人だった。


「やっぱり男なら、こういう風に生きないとだめだよな!」


 周りは文ちゃんを冴えない陰キャのオタクだとバカにするが、琥珀はそんな風に思った事は一度もなかった。困っている人を見つけたら、迷わず駆け寄り手を差し伸べる、ヒーローのような男なのだ。時々空回る事もあるけれど、文ちゃんは気にしない。


「失敗して恥を掻くより、困っている人を無視する方が恥ずかしいだろ?」


 ズキュンと来た。

 文ちゃん、なんてかっこいいんだろう。


 本当のイケメンとは、こういう人の事をいうのだ。

 顔ばかりよくてなにも出来ない自分なんか、全然イケメンじゃない。


 引っ込み思案の琥珀にとって、文ちゃんは見習うべき人生の師であり、憧れのヒーローだったのである。


 そんな文ちゃんと親友だった自分が困っている人を見逃したら、文ちゃんの顔に泥を塗るような気がしてしまう。


 悩んだ結果、琥珀は声のする方へと歩いて行った。


「もしも~し。誰かいませんかぁ~? 参りました。めっちゃおしっこしたい。ここでしても平気でしょうか」


 裏道の脇にある雑草だらけの寂れた空き地。


 そこを囲む古びたコンクリートの壁から、スカートを履いた女の人の下半身が生えだしていた。


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