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いつか最強のお嬢様に

「極楽院さん?」

「ひゃ、ひゃい!?」


 琥珀に呼ばれて、法子がボンッ! と赤面して飛び上った。


「キャー! どどど、どうしようヘブン! 天吹君に名前呼ばれちゃった!」

「よかったですねお嬢様。キャラ壊れてますよ」

「いけねーですわ!」


 法子はハッとすると、左手に嬢という文字を書いて飲み込んだ。


「わたくしは最強無敵のお嬢様、わたくしは最強無敵のお嬢様、わたくしは最強無敵のお嬢様……」

「あのバカはなにをやっているんですか」

「うむ。ミスノーブルは見ての通りヘタレの小心者でね。勇気を出す為に漫画で読んだ最強お嬢様の真似をしているのだよ」

「変わった子だと思ってたけど、そんな理由があったんだ」


 ともあれ法子はお嬢様スイッチがオンになったらしい。

 ビクビクした表情が一転、自信満々の不敵な笑みを浮かべる。


「おーっほっほっほ! 天吹君、ここであったが百年目ですわ!」


 かごを下げたヘブンに花びらをまかせながら、高笑いの法子がやってくる。

 琥珀を庇うようにして、モナカがずいっと前に出た。


「どこの馬の骨かは知りませんが、琥珀君は渡しません」

「馬の骨はそちらでしょう? わたくしは年商一兆円を超える大企業、極楽院グループの会長である極楽院法王ごくらくいん のりおうの孫娘、極楽院法子ですわよ!」

「よ、お嬢様、大富豪!」


 ヘブンが花びらを散らして乱舞する。

 法子はドヤサァ! と家紋の入った扇子を広げて大きな胸を張った。


「い、一兆円!?」


 そこまでお金持とは知らず、琥珀は驚いた。

 そんな単位、〇鉄くらいでしか見たことない。


「うむ。頭脳は残念だが、ミスノーブルは本物のお金持だよ。なんならボクのスポンサーの一人でもある」

「だからなんだって言うんですか? すごいのはあなたではなく親族でしょう? 家柄自慢なんかして、典型的な噛ませじゃないですか」


 そう言いつつ、モナカは不安そうに琥珀の身体を抱き寄せた。


 はわわわ! そんな事をされたら、琥珀の胸はトゥンクトゥンクだ。制服越しに感じられるむっちりとした肌の感触、少し高い体温、むわっと香る大人っぽい体臭。ヤバい、興奮する。琥珀は女性優位物に弱いのだ。


「お黙りなさい! 家柄も実力の内ですわ!」

「なるほど。それで、あなたの御自慢のお金の力でどうするつもりです。ゴロツキでも雇って私を襲わせますか? それとも、お金に物を言わせて嫌がらせですか? そんな汚い真似をする女、琥珀君が好きになるとは思えませんが」


 その通りである。琥珀は心配で、モナカちゃんに酷い事をしないであげて……という顔で法子を見つめている。


「そんな真似はしませんわ! 真のお嬢様とは強く正しく美しくあるもの! 私は正々堂々、実力で琥珀君を奪いに来たのですわ!」


 真剣な顔で法子が見つめる。


「で、でも僕、今はモナカちゃんと付き合ってるんだけど……」


 法子の気持ちは嬉しい。女の子に好意を向けられているのだから、嬉しくないわけがない。法子は物凄く可愛いし、胸だけでなくお尻も大きそうだ。


 だがだめだ。彼女は一人だけ。それがこの世の理である。琥珀は浮気野郎にはなりたくない。普段お世話になっている書籍だって、純愛イチャラブ物ばかりである。寝取られや浮気は地雷なのだ。


「……分かっていますわ。それでも、わたくしはこのままでは引き下がれません! だって真姫さんもアリーさんも転校生をやっつけるとか言って抜け駆けしようとしたんですもの! それに、天吹君は不誠実ですわ! わたくし達に嘘を言ったじゃありませんか!」

「えぇ!? 僕は嘘なんか……ぁっ」

「心当たりがあるんですか?」


 モナカがジト目を向ける。


「ぁ、ぁう……その、そんなつもりじゃなかったんだけど。あの時は、本当に誰とも付き合うつもりじゃなかったから……」

「……なるほど。そういう事ですか」


 しょんぼりする琥珀を見て、モナカも悟ったらしい。


「四度目の告白の時に、天吹君は言いましたわ! 僕は一緒にいる人を不幸にするから、誰とも付き合わない。付き合っちゃいけないんだって。その時の苦しそうな顔を見て、わたくしはただならぬ過去があったのだと悟りました。だから、天吹君の気持ちが変わるまで、焦がれる想いにじっと耐え、天吹君見守り同盟の一員となってあなたを守ると決めたのです!」

「ちょっと待って! 見守り同盟ってなに? 僕、初耳なんだけど……」

「名前の通り、天吹君を見守る同盟だ。同学年の力ある女子が集まって、他の女子が君にちょっかいを出さないように色々活動していた。まぁ、万全とはいかなかったが、それなりに成果は出していたつもりだよ。ちなみに真姫君とボクもメンバーの一人だ」

「そんな……知らなかった……」


 琥珀は多大なショックを受けた。知らない所で彼女達に守られていたなんて。それも知らずに勝手に彼女を作ってしまって、ものすごく身勝手な事をしたように思えてしまう。


「琥珀君! しっかりしてください! 私を見て! 私だけを見てください!」


 モナカに肩を揺さぶられる。心配そうな顔を見て、琥珀の心は捻じれた。今はモナカと付き合っているのだ。しっかりしないと、彼女を不安にさせてしまう。それでは彼氏失格だ。けれど……法子の言い分も正しい。結果的に、琥珀は彼女に嘘をつき、好意を裏切ってしまった。


「ごめんねモナカちゃん……でも僕、極楽院さんに申し訳ないよ……」

「天吹君! 勘違いしないでくださいませ! わたくしはその事で、あなたを責めるつもりはありませんわ! 人の心は変わるもの。むしろ、天吹君の心の傷が癒え、前向きになられたのならこんなに嬉しい事はありませんわ!」

「極楽院さん……」


 あぁ極楽院さん。なんて心が広いんだろう。

 琥珀は普通に感動した。ドリル頭はどうかと思うけど。

 涙ぐむ琥珀を見て、法子が力強く頷く。


「そういうわけで、わたくしは正々堂々、自分を売り込みにまいりました。横恋慕なのはお互い様! 恋心に蓋をして、長年天吹君を守ってきたわたくしには、そのくらいのわがままは許されるはずですわ! 違いますか! 転校生!」


 法子が畳んだ扇子の先をモナカに向ける。

 モナカはじっとりと法子を睨むと、深々と溜息をついた。


「地獄谷モナカです。異論はありますが、同じ女として、あなたの気持ちはわからないでもありません。どちらが琥珀君の彼女に相応しい女か。勝負したいというのなら、よろしい。受けて立ちましょう」



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