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イケメンという名の呪い

 イケメンなんてろくなものじゃない。


 昔から、天吹琥珀あまぶき こはくはそう思っていた。


 誤解を招きそうなので先に言っておくが、僻んでいるわけではない。

 何故なら当の琥珀がイケメンなのである。


 なんだよ萎えたと言うなかれ。

 これで琥珀も中々苦労しているのだ。


 確かに顔はいい。

 柔和な中に気品のある、キリっとした甘いマスクだ。


 小さい頃はやれ天使だと可愛がられ、その後は王子だの貴公子だのと呼ばれるくらいモテまくっている。


 だからどうしたというのが琥珀の正直な気持ちだ。


 こんな事を言っても理解されないと思うが、えこ贔屓だって立派な差別だ。みんなで遊んでいる時に、自分だけ可愛がられたら肩身が狭い。友達だって嫌な気持ちになって遊んでくれなくなる。


 女子はキャーキャー言いながら王子だの貴公子だのと持ち上げるが、男子が口にするそれはやっかみ半分の嫌味である。


 おかげで琥珀は孤立する事が多かった。そうでなくとも、あんなイケメンと友達になるなんて恐れ多いと周りが勝手に距離を取る。


 そしてモテだ。これが本当に頭の痛い問題だった。


 モテモテなんて最高じゃん! と琥珀の苦労も知らずに人は言う。


 ぜんっっっっっぜんそんな事ないから!


 一人にモテるならいいだろう。

 その子と付き合って幸せになればいい。


 二人にモテたらどちらかを選ばないといけない。当然、選ばれなかった子は傷つく。琥珀や彼女になった子を逆恨みする事もあるだろう。


 では、百人にモテたら?


 地獄だ。断ればお高くとまったイケメン野郎と揶揄されて、男好きだの不能だの異常性癖だの裏でセフレを作りまくっているだのと好き勝手言われる。


 オーケーしたら今まで振ってきた女子達の反感を買い、彼女になった子がいじめられてすぐに破局だ。


 で、そんな事になると男子からは女を不幸にする最低のヤリチン野郎だとか言われて、ますます孤立する。


 顔がいい以外になんの取り柄もない琥珀にはどうする事も出来ない。


 それでも中学生の頃はまだマシだった。


 幼稚園の頃からの幼馴染である親友の沼田文明ぬまた ぶんめいがいた。


 周りから見ればまったくつり合いの取れない、冴えない根暗のオタク君だったのかもしれないが、琥珀は彼の事を文ちゃんと呼んで慕っていた。


 友達のいない琥珀である。ジロジロ見られるのが嫌で、外に出るのも好きじゃない。イケメンだが、琥珀の内面は陰キャだった。そんな琥珀に、文ちゃんはアニメやゲームなど、素敵な遊びを沢山教えてくれた。


 自分なんかと一緒にいたら、嫌な人達に陰口を言われるだろうに、それでも文ちゃんは、気にしない振りをして琥珀の友達でいてくれたのである。


 琥珀にとって、文ちゃんは兄貴分であり、親友であり、心の支えなのだった。

 だから文ちゃんに彼女が出来た時は、琥珀は正直複雑な心境だった。


 だって彼女だ。


 イケメンなせいでまともに恋愛なんて出来た試しのない琥珀だが、そういうのに興味がないわけではない。というか、普通にある。普通の男の子みたいに、普通の女の子と普通に恋愛したいお年頃なのだ。


 非モテの文ちゃんならなおの事。実際、文ちゃんは彼女の相手で忙しくなり、以前程は一緒に遊んでくれなくなった。


 悲しいけど、琥珀は僻んだりはしなかった。だって、大好きな文ちゃんだ。大事な親友で幼馴染なのだ。そんな文ちゃんに可愛い彼女が出来たんだから、喜ばないと親友じゃない!


 それに、文ちゃんも気を使って、大事なデートに琥珀を誘って、三人で遊んでくれた。


 彼女の名前は夢野苺ゆめの いちご

 名前に負けない飛び切りの美少女だ。


 琥珀はモテモテだが、遠くからキャーキャー言われたりいきなり告白されるばかりで、女子に対する免疫は全然なかった。


 そんな琥珀から見て、苺ちゃんは宝石のように輝いて見えた。


 苺ちゃんは可愛いだけじゃなく、明るくて楽しいクラスの人気者だ。


 男友達も多くて、デートについてくる琥珀にも優しく接してくれた。


 友達の彼女なら、琥珀も女子の反感を気にせずに接する事が出来る。


 文ちゃんの事で相談を受けたりもして、いつしか苺ちゃんは、琥珀にとって初めて出来た異性の友達になっていた。


 それで文ちゃんに心配をかけてしまう事もあったのだが。


「……なぁ琥珀。頼むから、俺の彼女を取ったりしないでくれよ」

「当たり前だろ! 文ちゃんは大事な親友なんだ! そんな事絶対しないから! もう、変な事言わないでよ!」

「……だといいけど」


 その言葉に、琥珀はちょっと傷ついた。

 でも、文ちゃんは悪くない。

 悪いのは、こんな顔に生まれてしまった自分なのだ。


「大丈夫だよ。僕は絶対に文ちゃんを裏切ったりなんかしないから」


 その言葉が嘘になってしまうなんて、その時の琥珀は夢にも思わなかった。

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