488・タクロアへ向かう準備です
「リズ、持っていくものはこれで全部か」
「ええビル、私の場合はタクロアにあるバレッサの屋敷にも自分の部屋が有りますから持っていくものは少ないんです」
「そうだったな、所でリズの部屋は一体いくつあるんだ」
「私専用は、此処とタクロアだけですね、でもリコと一緒の部屋だったらロズ村とカカロ村とナーマムの草原の家に有りますね」
「五つもあるのか、それじゃあ埃だらけだろ」
「そんなこと無いですよ、ロズ村の家と草原の家の持ち主は実質バレッサですから、きちんと管理してあります。あっ、カカロ村の部屋は多分駄目そうですね」
カカロ村の部屋は、父のジムが子供のころに作った家の一室だ。
お爺さんや叔父さんの住む家と同じ敷地にあるが、管理までしていないと思う。
「まあ五つも有ればそう言う部屋もあるさ、俺なんかちゃんとした自分の部屋はバレッサの社員寮が初めてだったからな」
「それでこんなに荷物が少ないんですか」
「ああ、パーティに着る服はバレッサで用意してくれるので、すでにタクロアに有るはずだ、リズのドレスもだろ」
「ええ、パーティまであと一週間ですから、全部そろってます」
そう、タクロアで行われる私とビルの結婚発表パーティーは七月七日の土曜日に行われる。
リコの時はドレスの最終準備をタクロアに帰ってからやったので、七月半ばだった。
今回は、ドレス屋さんやアクセサリー屋さん、靴屋さんが王都まで来て準備してくれた。
「若奥様、出発は明日の朝早くになります。今日は早めにお休みください」
「わかったわ、それでオル、あなたもタクロアへ来てくれのよね」
「いいえ若奥様、私は入って間もないので、此処の屋敷で覚えることがまだまだあります。若奥様にはマイさんが付くことになっております」
「そう残念ね、リコがオルの魔力に興味があって一緒に行きたがってたの」
「そうでしたか、私の微力な魔力にどうして興味があるのでしょうね」
「うん、それは魔力の無い私にはわかりません。どうしてなんでしょうね」
一応リコには理由を聞いている。
何でもミヲさんのは生活魔法と言うらしい。
魔法と言えば攻撃魔法ばかりが知られているが、実際ミヲのように掃除や洗濯に魔法が使えるほうが利用価値が有るらしい。
そして生活魔法は繊細な魔力操作が必要なので難しく、ミヲさんくらいの魔力量が丁度いいとリコは言っていた。
「リズお姉シャま、僕の準備は終わるまシュた」
準備を終えたワタルが私とビルの部屋にやってきた。
「そう、私達も終わったから食堂に行きましょ」
「はい、お姉シャま」
私とビル、そしてワタルで夕食の為食堂に行くと、すでに母のマリサと父のジムが座っていた。
「お父さん、お母さん、もう準備終わったんだ」
「ああ、俺はいつでも旅に出れるようにしているからな」
「まったく、今回はリズの結婚発表パーティーがあるのに、いつもの冒険者の仕事と同じ準備じゃ、あれほど駄目だって言っているのに、ジム、もう一回やり直しなさい」
「かまわないだろ、パーティの服はタクロアに有るのだから」
「それって、リコの時のを置きっぱなしにしたからでしょ」
「いいじゃないか、用意できたんだから」
「はいはい、お父さんもお母さんもそれまで、それで明日の朝早くに馬車が迎えに来るで良いんでしょ」
「ええ、それでリズがいつもリコと待ち合わせしている街角でリコとバラトさんを乗せることになっています」
「そうだった、バラトさんの屋敷までは大型の馬車が入らなかったんだよね」
「ええ、御付きの人達の馬車と荷馬車は入れるのですが、バラトさんは小さい馬車でも良いと言っているのですが、貴族のバラトさんよりこちらの馬車が大きいのはまずいのですからね」
そして、面倒なのだが、こちらも付き人用の馬車も用意している。
私とビル、リコとバラトさんが一台の馬車に乗り、マリサとジムとワタルが一台の馬車にのった。
付き人の馬車も二台あり、バラトさんの荷物を積む荷馬車も有るので、五台の馬車が連なることになった。
「ねえお母さん、これって目立たないかな」
「目立ちますよ当然、ましてや馬車にはパレッサの社紋とバラトさんの家紋が書かれていますから、目立たないはずがないでしょ」
「お母シャま、目立つのでシュね、それだと護衛が必要なのでシュ」
「ワタル、多分依頼を出しても来てくれる冒険者はいないぞ」
「何故なのでシュ、お金は払うのでシュ」
「ワタル、お金を払えば何でもやってくれるってのは間違いよ。冒険者は自分の納得のいかないことや法に触れることはしないの」
「わかったのでシュ、それで何で来ないのでシュ」
「わからないかワタル、俺とリズとリコがいるんだぞ。どっちが護衛だかわからなくなるだろ。それに街道沿いを行くし、宿泊はきちんとした宿を取っているんだからな」
「お父さん、多分リコの付き人にビーナが来るでしょ。それに聞いてないけど明日の御者って絶対アグが来ると思うの、下手したらネモも来そうね」
「はははは、そうだな、ついでに何処かの国でもやっつけてくるか」
国にもよるが、出来なくもなさそうだな。って、やらないよ。
翌朝、アグとネモが乗った馬車がやってきた。
ネモは、バレッサでビルの専属をしている社員なので会社の許可が出たようだ。