382・ドーツナの本屋さん
「リコ、明日時間が有ったら一緒にドーツナに行かない」
学園のお昼休み、いつもの食堂のテーブルでリコに聞くと。
「明日は大丈夫なのです。バラトは土曜出勤なのです」
「そう、バラトさん、大変なんだ」
バラトさんの務める魔法省は、子供の魔力検査や訓練施設の見直しだけでなく、ヘレン王女が来て組織全体の見直しも行われているので、休み日もなかなか取れないくらい忙しかった。
「リズ姉、おはようなのです。ドーツナに出かけるのです」
翌朝、リコが私の住むバレッサの屋敷にやってきた。
「おはようなの、リコ様に言われてビーナも一緒に行くの」
「ビーナおはよう。ビーナはリコの専属使用人なんだから言われなくても一緒じゃないの」
「ビーナ、今日はお休みだったの」
振替はもらえるはずなのに、ビーナは残念そうにしている。何か予定が有ったのかな。
「それでは出かけるのです。それでリズ姉、何処に行くのです」
「えっと、恐竜図鑑を売っていた本屋さん、王都の第一門を出た先の街の外れ」
「それは遠いのです。ビーナ、馬車を頼んできてください」
「ハイなの」
王都には乗合馬車もあるが、タクシー馬車もある。
夢見人の知識だろう、ちゃんと屋根にタクシーと書いてある。
タクシーで本屋までは三十分くらいだった。歩いたら一時間以上かかる。
「ありがとうございました」
「ああ、また使ってくれよ」
タクシーは返す。帰りはゆっくり歩いて帰るつもりだ。
「ごめんください、良いですか」
店のドアを開け、奥に呼び掛ける。
「いらっしゃい」
奥から高齢の男性が出てくる、店主だろう。
「すいません、この間知人が此処で本を買いまして、面白い本がたくさんあると聞いたので見せてもらえますか」
「そうか、最近売れたのと言うと恐竜図鑑だな」
「えっ、わかるんですか」
「ああ、何といっても月に一冊売れるかどうかだからな」
「それでは商売にならないのです」
「大丈夫だ、隣の雑貨店も俺の店だ」
棟続きの隣の店は雑貨と洋服を並べていた。
私とリコとビーナで書棚に並べられている本を見ていく。
ビーナは背表紙の題名を見て。
「ビーナの知らない言葉が沢山あるの」
「リコもなのです。あれは多分異世界の言葉なのです」
「そうね、私にもわからない言葉もあるけど、何となく知っているような言葉も有りますね」
「お嬢さん、わかる言葉が有ると言うことは、もしかして夢見人か」
「ええ」
「そうか、此処は夢見人に聞いたことを本にして並べているんだ。今は息子たちが荷馬車で各地を回って仕入れて隣で売っているが、元は旅行商をしていてな。旅先で沢山の夢見人に会ってな、これを本にしてみようと思ったんだ。まあ趣味だな」
「あのー、知人が恐竜図鑑を買っておいて何なのですが、これって商売になります」
「まあ趣味としては、まあまあだな。売れるときは売れるぞ。この本とこの本を読むとあれが出来そうだとか言って、何冊も買っていく人がいてな」
「そうなんですね」
確かに夢見人の知識は面白いが、なかなか役に立たない。
「リズ姉、わかったのです。時計がそうなのです。時計の知識があっても歯車やゼンマイの作り方を知らないと作れないのです。沢山の夢見人の知識で作ることが出来るのです」
「リコ、改めた言わなくてもわかっていたでしょ。でもこうやって本として並んでいると、新しい何かが作れそうね」
「そうなのです。バラトとヘレン王女に行って、魔法省に夢見人の知識を研究させるのです」
「それってバラトさんの仕事が増えるんじゃないの」
「増えるとリコの自由な時間も増えるのです。リズ姉の家に遊びに行けるのです」
「そう言うことね。でも研究はして欲しいね」
そうすれば、もっと暮らしが豊かになるはずだ。
せっかく来たので、私は『インナーマッスルの鍛え方』と『ヨガ入門編』『誰で出来る気功』の三冊を買った。
薄くてイラストも簡単なせいか恐竜図鑑よりもすっと安かった。
「リズ姉、これは何なのですか」
「うん、体を鍛えるのに使えそうなの」




