33・お父さんと旅に出発です
「えー 学園長の依頼受けたのお父さんなの」
「お父様、おはようなのです。依頼を受けられるのはお父様だけなのです」
門の前に立っているのは父のジム。
依頼を受けたのはお父さんだった。
確かにリコの言うとおり、私たちと一緒に走れるのはジムくらいしか思い当たらない。
「リズ、悪いが細かいことを聞いていないんだ。とりあえず今日は国境の村に泊まる予定にしたから、そこで詳しく説明してくれ」
冒険者ギルドに依頼するときは、依頼書に依頼の目的と内容を書き込む。
ギルドが依頼を受けるか断るか判断するためだ。
「お父さん、依頼書に書いてあったでしょ」
「いや、ギルドが学園の依頼だからと言って、ほぼ白紙の依頼書を受け付けてしまったのだ。
まあ、リズとリコの護衛を俺に指名してくれば、必ず受けると思ったんだろうな」
それはそうだろう。
「では、お父さん出かけましょう」
「おう」
娘との旅だ。お父さんの顔はうれしさに満ちている。
アサラの国々は走って旅をする。
以前、リコとナルとアニスと旅をした時は荷馬車を使ったが、今回は冬休み期間という制限がある。
「久しぶりに冒険者の服を着るのです」
リコの方が一年私より先に教師になっている。
「そうね、リコがその恰好をすると前の旅を思い出しますね」
教師姿もかっこいいが、リコの冒険者姿はよりかっこよかった。
「お前ら、荷物はそれだけか」
ジムが聞いてくる。
「ええ、走っていくのだから、これだけ」
走るために荷物はリュック型のカバンに入れている。
武器である脇差は腰のベルトに挿し、太刀はカバンに取り付けられている。
リコもリュック型のカバンを背負い、腰のベルトには片手剣二本が挿してある。
「リコ、魔法の杖は持っているでしょ」
「はいなのです。カバンに入れてあるのです。本当はナルにあげた杖を持っていきたかったのです。
でもナルが絶対ダメっていうのです。仕方がないので、その時ナルと交換した杖を持ってきたのです」
杖はアサラでリコの魔法を披露するのに使う。旅には必要がないのでカバンの中だ。
王都とドーツナの町中ではフルスピードで走ることはできない。
早歩きでドーツナの街をぬけ街道に出ると。
「此処からは飛ばすのです」
リコがカバンに取り付けていたマギボードを足元に置く。
「おっ マギボードだな。今度は負けないぞ」
マギボードの材料をロズ村に取りに行った帰り、三人が競争になった。
その時リコが一番だったのだ。
「私はマナを吸収しながら走るけど、お父さんはマナ切れは大丈夫なの」
私は回りあるマナを、動物だろうが植物だろうが水だろうが空気だろうが吸収できる。
「ああ大丈夫だ。一応用心のため『元気はつらつマナの素』も用意してある」
「それね。私の同級生が作っているの。すごい人気なんだってね」
「これは生産量に限りがあるからな、人気がありすぎるて大変なんだ」
人気がありすぎて欲しい人が買えないでいる。
父は当然バレッサの関係者だから手に入れることが出来た。
「それでは行きますよ」
そういって、私は身体強化で走り出す。
斜め後ろ両側にリコと父がついてくる。
王都からアサラに行くには都市マーナムを通る。
しかしフルスピードで走る私たちは町中には入らない。
マーナムの中心を避け通り抜けていく。
「せっかくマーナムを通るのです。サリーとサニーに会いたかったのです」
マーナムには学園に入る前にしばらくの間一緒に冒険者活動をした姉妹の二人がいる。
「そうね、私も会いたかった、でも今回は我慢しましょ」
今回の最大の敵は時間だ。
マーナムを抜けいるとすぐにナルが狂った魔熊に襲われ所につく。
此処は宿はないが、野営をするための整備がされている。
昼間は誰もいない原っぱだ。
原っぱを過ぎると、アサラとカカロ村との三差路につく。
三差路を左に曲がりアサラを目指す。
「お父さん、国境の村はメシール側の村にしますか、それともアサラ側の村にしますか」
夕方よりかなり早く着きそうだ。国境を超える手続きには間に合う。
「国境越えは明日にしよう。旅の目的を聞くにはメシール側の方が安心できる」
父の意見に従い、メシール側にある村の宿に泊まることになった。
「ごめんください」
私はまあまあ小ぎれいにしている宿のドアを開ける。
「いらっしゃい、何名様ですか」
受付カウンターにいる女性が答えてくれる。
「かわいい女の子が二人と、むさくるしい親父が一人なのです」
リコが言う。
「はい、承りました。そうすると一人部屋と二人部屋を一つずつですね」
リコの軽いジョークは受け流された。受付の女性は宿台帳をめくり空き部屋を確認する。
「ではこちらになります」
部屋番号の書かれたカギを差し出す。
料金前払いなので、宿代を払いカギを受け取る。
「この宿にも食堂が有りますので、ぜひご利用ください。
あと、お風呂はありませんが、裏にシャワールームがあります。
10分小銅貨一枚です」
まあ標準的な冒険者が泊まる宿だ。
「シャワーはお湯が出ますか」
一応聞いておく。
「今日は良く晴れましたからお湯が出ますよ」
太陽熱温水設備があるようだ。
荷物を部屋に置く。
私とリコの荷物や武器はリコが作った大きな袋に入れる。
「この袋はセキュリティーを組み込んだ魔道具のなのです。リズ姉かリコ以外が触るとしびれるのです」
たぶん痺れるのではなく失神するだろう。
これで安心して荷物を部屋に置いてシャワーを浴びに行ける。
確かにシャワーからはお湯が出た。
「リズ姉、このシステムも夢見人の知識なのですか」
「多分そうね。私の知識にも似たようなものがあるもの」
私の知識の最新型は真空管ヒートパイプ太陽熱温水器 だが、此処では無理だろう。
だが、木製の大きな桶に水を入れてもここまで温まらない。なにか特製の材質の桶が使われているはずだ。
シャワーを浴び終わると、お父さんと待ち合わせている宿の食堂に向かった。




