329・ロベルト帝国に向かうアグです
「じゃあ荷物はこれで全部ね」
「はい」
アグの荷馬車にロベルトへの荷物を積み込む。
ソニアから頼まれたものだ。
荷馬車に乗るのは卒園生の三人と付添人だった。
生徒の荷物と付添人の荷物はお土産もあるのかそれなりに多かったが。
「それではしゅぱーつ」
二頭で引く荷馬車は軽々動き出した。
御者台に座るアグの横にシャンが座っている。
荷室は荷物を上手く載せているので、お客の四人のスペースは十分にあった。
四人は馬車の後部で流れすぎる風景を見ながら。
「ローズ学園に来るときの馬車より乗り心地が良いですね」
卒園生の一人が言うと。
「そうですね。私も去年初めて乗って驚きました」
付添人だ。彼女は去年も生徒の送り迎えでこの荷馬車に乗っていた。
「これならロベルトまで一週間も快適に過ごるね」
「でも帰ったら、すぐに仕事をするのかな」
「そんことないでしょ、やはり夏休みが終わってからなんじゃない」
「それじゃあ、帰ってすぐと同じだね」
冬の厳しいロベルト帝国では、冬に働けない分メシール王国やアサラ連合国より夏休みが短かった。
卒園生は薬学科の二人と魔法科の一人だった。
ロベルトでも魔力持ちを確認された子供は少なく、一つ下の留学生は三人が薬学科だった。
「あなた達は、ロベルトに着いたら一度自分の村に帰れます。それから余裕をもってソニア様から呼ばれると思います」
帰ってからの予定を付添人は聞いていた。
「やった。村に帰れるんだ。って、お城から家まで三日がかりだ」
「私は朝出れば夕方には着くわ」
「あたしは一泊必要ね」
それも馬車を使ってのことだが。
ロベルトでは乗合馬車は無いが、取れた鉄鉱石を運ぶために毎日荷馬車が各地を往復しているので、交通に不便はしていなかった。
馬車を操縦するアグは。
「うーん、後ろは楽しそうだねシャン」
「ワン」
「シャンがいるからいいけど、一人で御者台はつまらないんだよ」
「ワン」
シャンはワンとしか言わないが、アグはシャンと魔力を絡めて意思の疎通をしている。
「ロベルトに行くにはべアリル経由だから都市べアリルに着いたらまたドナさんに捕まるのかな」
「ワン」
「そうだよね。御馳走してくれるからうれしいのだけど、って、前を歩いているのはシリルさんとコーネじゃない」
「ワン」
「おーい、シリルさん何しているの」
街道をべアリルに向かって歩いているシリルに声をかける。
「べアリル帰るのですよ。乗合馬車がコーネを乗車拒否したので歩くことにしたのです」
シリルも身体強化は得意なので、歩いていくことに問題はないが。
「じゃあ乗っていきますか。今回二頭引きなので十分乗れますよ」
「そお、じゃあお願いしますね」
アグはシャンを荷馬車のホロの上に乗せ、御者台にシリルを乗せる。
「コーネはシャンと一緒にホロの上にいてね」
「ニャーン」
コーネはシャンと一緒にホロの上に寝そべった。
アグはこれでべアリルまでの話し相手が出来た。
そしてべアリルに着くと、予定通りドナの屋敷で泊まることなる。
今回はドナも忙しいらしく、普通に夕食を一緒に食べるだけで済み、良く朝早くにはドナの屋敷を出発することが出来た。
此処からロベルト帝国のお城の有るエルゴまでは四日かかるが、道の改良が毎日のように行われているので、去年よりも楽に着きそうだった。




